第1話 平穏の崩れ
リオは今日もユリウスと並んで登校していた。
広場に着くと、待っていたらしいイリスが手を振ってくる。
「おはよう、イリス」
「おはよう。先輩も、おはようございます」
「おはよう」
挨拶を交わし、三人は肩を並べて歩き出す。
イリスは小さく鼻歌を口ずさみ、足取りも軽い。
「どうしたの?イリス。いいことあった?」
「ええ、そうなの!」
イリスが腰の後ろで手を組み、くるりと一回転した。
「昨日、両親に会ったの」
「へえ、いいなあ」
俺も──会いたいな。
一瞬、胸の奥が締め付けられた気がして、リオは笑ってごまかした。
その視線の先で、ユリウスの笑みがかすかに揺れる。
その表情にはどこか影が差していた。
リオはそれに気づき、すぐに話題を変える。
「俺も、昨日は先輩と街に遊びに行ったんだ」
「いいわね!どこに?」
「市場区。魔道具屋に行って、屋台で買い食いして……」
小さな騒動に巻き込まれたことを話すと、イリスは目を丸くする。
「最近、街も変よね。──そういえば、父も母もどうしてグランゼリアに来てたのかしら」
「普段はここにいないの?」
リオが尋ねると、イリスが頷く。
「両親は竜騎士だから。普段は飛竜に乗って、いろんな場所を飛び回っているの」
「あ、そっか」
「イリスも、竜騎士になるの?」
ユリウスの問いに、イリスは胸を張って笑う。
「もちろん!アリアと一緒に二つ名をもらうんだから」
「いいね。イリスも“紅の戦姫”みたいに呼ばれる日がくるのか」
素敵だな。
リオが笑うと、イリスは少しだけ眉をひそめた。
「あれは……ちょっと派手だから。私はもっと落ち着いた呼び名がいいわ」
「えぇ、格好いいと思うけどな」
イリスは胸の前で手を組み、目を輝かせる。
「“金の狩人”とか“銀の狩人”みたいに呼ばれたいの。素敵でしょ?」
「いや、あれは……あれはさあ」
今度はリオが微妙な顔をする。
「はいはい、続きはあとで。行くよ」
呆れたように言うユリウスに促され、リオとイリスは慌てて返事をして、その背を追った。
*
教室へ向かう途中、職員室の前がざわめいていることに気づき、三人は足を止めた。
「何だろう?」
互いに顔を見合わせるが、二人とも首を傾げる。
そこへ、同級生の一人がこちらを振り向き、目を輝かせて手を振った。
「リオ、イリス!おいでよ、すごいよ!」
その表情に興味を引かれ、無意識に足が前へ出ていた。
リオは笑顔のまま、ざわめきの中心へと歩み寄る。
そして──職員室の前に立つ影を見て、足が止まった。




