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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第4章 連環の輪
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第6話 古代文明の断片

 夕陽が街を淡く照らす。


「遊びに来たはずなのに、すごく疲れた……」


 ユリウスがぐったりとつぶやいた。


「少しだけ、錬環区(アルケイン)にも寄っていいかな?」

「ええ……僕は早く帰りたいんだけど」

「少しだけ!」


 リオはユリウスを引きずるようにして、錬環区(アルケイン)に向かう。


 *


 しばらくして、南の建物の壁を夕陽が赤く染める時間。

 蒸気や魔力の残滓が橙色の光に照らされ、路地全体が揺らめいている。


 炉の炎や装置の光が、建物の窓や狭い隙間から漏れ、静謐な緊張感を生む。


 研究者たちはまだ白衣を羽織り、資料や魔導具を手にせわしなく動く。

 金属を叩く音や低い魔力の唸りが響き、路地には小さな光の粒が漂う。実験で使われる液体や結晶がかすかに輝き、闇の中で知恵の気配を放っている。


 街灯がつき始め、光と魔力の残光が入り混じる錬環区(アルケイン)は、不思議な青白い陰影に包まれる。

 蒸気の煙や温かな炉の光が、静かに呼吸するように揺れ、学問と魔法、危険と探究心が共存する雰囲気が深まった。


「昼間も思ったけど、錬環区(アルケイン)の雰囲気、結構好きそうだよね。魔道具にも興味津々だったし」

「うん……なんかこう、わくわくするよね」


「……しないんだよね」


 ユリウスから力のない声が返ってきた。


「あれ?」


 リオはふと、目を止めた。

 見知った人影が、通りを歩いている。


「ヴァルセリオ先生!」

「え?」


 ユリウスを軽く引きずりながら、リオは駆け出す。

 振り返ったヴァルセリオは目を丸くした。


「リオ君?ユリウス君まで……どうしてここに?」

「散歩です」


 ヴァルセリオは瞬きし、微笑む。


「先生こそ、どうして錬環区(アルケイン)に?」

「ああ、私はこれを届けに来たんですよ」


 懐から取り出されたのは、小さな木箱。

 開けると、野外訓練で拾った正方形の薄片が鎮座している。


 こうして改めて見ると、瘴気に似た嫌な感じがして、リオは眉を寄せた。

 ──なぜだろう。

 その瞬間、ふと、母の顔が浮かんだ。


「状態も非常に良いですし、解析を依頼しようかと思いましてね」


 リオの目が輝き、ユリウスが「あっ」と小さく声を上げた。


「先生!俺も同行したいです!」

「いいですよ。ただし、お触り厳禁です」

「はい!」


 元気に返事をするリオに、ユリウスは深くため息をついた。


 *


 一角の建物に入る。

 用途は不明だが、さまざまな装置が並ぶ。

 リオはうずうずしながらも、見るだけに留め、ヴァルセリオについていく。


 研究者が現れ、ヴァルセリオを出迎えた。

 後ろのリオとユリウスに少し驚いた様子だったが、すぐにヴァルセリオの持ち込んだ薄片に興味を移した。


「間違いない、マグナ・オルビスと同じ……古代の遺物ですね」


 虫眼鏡を覗きながら研究者が言う。


 リオは机の上に目をやる。

 紙で溢れ、見覚えはあるが普段は使わない文字が並んでいた。


「古代文字だ」


 リオがつぶやく。


「よくわかりましたね」


 ヴァルセリオに感心され、リオは小さく笑う。


「これは、古代の遺跡から発見された遺物に刻まれた、文字の写しです。古代文字は一つの言葉で複数の意味を持つため、解読が大変で……」


 研究者は疲れたように息をついた。


「今日なんて、ここの部分でもう三時間も悩んで……」


 リオは研究者の指先を見つめながら考えた。


「それなら、“経路”って意味ですよ」


 研究者が首をぐりんと回してリオを見る。

 リオは肩を跳ねさせる。


「経路!?なるほど!となると次は……」

「あの、ちょっと。薄片の解析も頼みますよ」

「おおおおお!つまりこれはこうで、なるほど!じゃあこっちは……」


 ヴァルセリオが声をかけるが、研究者は紙の束を持ち上げて歓声を上げる。


「ダメだ、聞いてない……」


 ユリウスがげんなりした顔で言った。


「……帰りましょうか」


 ヴァルセリオも困ったように笑った。

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