第5話 黄昏前の推理
日が西に傾きはじめた。
「今日はもう、何も起こらなかったらいいですねえ」
「おい、やめろ。それ、絶対なんか起きるやつだろ」
聖導士と狩人の会話を聞きながら、リオは顎に手を当てた。
北で事件が起き、その対応のために狩人・聖導士は北へ集められた。
そして昼過ぎ、西の人の多い通りに小型魔獣が現れた。
間を置かず、続いて瘴気魔獣による事件が発生する。
「……組織の反応を見ながら、連鎖的に事件を起こしてる?」
リオの声に、ユリウスと狩人たち、聖導士が振り向く。
「ちょっと待った。誰かが意図してやっていると?魔獣や瘴気魔獣を操るなんて不可能……」
「過去、カルドニアの戦いでは、瘴気魔獣を操ったという記録が残っています」
不可能と断定するのは早計だ。
「今は、人や組織の注意が分散しているタイミングだから……西の市場区で次に魔獣が出るなら、裏路地みたいな、狙いやすい場所を選ぶかもしれないです」
ユリウスが身震いする。
「……狩人と聖導士をまとめて弄んでるの?嫌な感じだね」
もしかすると、単なる愉快犯かもしれない。
狙いはまだ見えないが、とにかくこれで終わりとは思えない。
「けど、裏路地って……数えきれないほどあるが……」
「例えば……狭くて曲がりくねった、障害物が多く出入り口が少ない路地って、ありませんか?」
狩人たちが顔を見合わせる。
「少し行ったところに、ちょうどそういう裏路地がある」
*
リオたちは狩人の案内で、その裏路地へやって来た。
少し広めの通りから、路地を覗き込む。
狭く曲がりくねった通路で、人や馬車の通行がやや困難。
木箱、樽、軒先、垂れ下がる布など、障害物が多く、見通しも悪い。
建物の壁に挟まれ、入り口と出口が限られているため、避難も難しそうだ。
「本当にこんなところに?」
疑わしげな狩人の言葉を聞き流し、リオは路地をじっと見つめる。
裏路地の奥に、低く唸る声が響いた。
木箱の影、垂れ下がる布の隙間から、小型瘴気魔獣の群れが姿を現す。
数体ずつ間隔を空け、迂回するように進む群れ──まるで、こちらの動きを測るかのようだ。
「少数ずつ……」
リオが小さく呟く。
最初に出現した群れが裏路地を横切る。
狩人が先頭を押さえようとするが、曲がり角に潜んでいた別の群れが背後から迫り、通行人の退路を塞ぐ──わずかな隙を突かれた。
「くっ……!」
狩人が歯を食いしばる。
軒先や樽の影に潜んでいた魔獣が、突然飛び出す。
逃げ遅れた人々は尻もちをつく。
聖導士が裏路地の真上で光魔法を放ち、路地全体が白く照らされる。
魔獣たちの動きが、鈍る。
リオは影の濃淡を見極め、狭い路地でどの群れを優先すべきか瞬時に判断する。
慎重に詠唱する。
空中に丸い風の球が生まれ、そこから針のような風の矢が次々と飛び出し、狙った群れを正確に射抜く。
狩人が討ち漏らしを一体ずつ排除する。
群れの動きは制御され、逃げ場を失った魔獣たちは混乱していく。
裏路地の人々は全員、表通りへ逃げられた。
ユリウスが水魔法で裏路地を封鎖し、人々の安全を支える。
「馬車の影……いや、その壁沿い!」
リオの声に応じ、狩人たちは群れを壁際に追い込む。
群れは次々に倒れ、抵抗を失っていく。
リオの予測に沿って誘導された狩人の手で、ついに全ての瘴気魔獣が路地から排除された。
*
静寂が戻った路地裏。
湿った石畳に残る瘴気がゆらめく中、リオは息を整え、狩人に視線を向ける。
「北に集中している間に、西でもこうして……手が回らなくもなりますよね」
狩人は頷き、リオの読みの確かさに、感心したような目を向けた。
「夜は夜で、またどこか狙われるかも……」
リオがそう言いかけるが、狩人は腰に手を当て、子供を叱るような口調で言った。
「もうすぐ日が暮れる、ここからは俺たちの領分だから、学生は帰るんだ」
「けど、助かったよ。ありがとな!」
「……将来が楽しみですね」
狩人の一人が、ユリウスにも目を向ける。
「君も、ありがとう。おかげで討伐に集中できたよ」
礼を言われたユリウスは、少し目を見開き、照れたように頭を掻いた。




