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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第4章 連環の輪
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第5話 黄昏前の推理

 日が西に傾きはじめた。


「今日はもう、何も起こらなかったらいいですねえ」

「おい、やめろ。それ、絶対なんか起きるやつだろ」


 聖導士と狩人の会話を聞きながら、リオは顎に手を当てた。


 北で事件が起き、その対応のために狩人・聖導士は北へ集められた。


 そして昼過ぎ、西の人の多い通りに小型魔獣が現れた。

 間を置かず、続いて瘴気魔獣による事件が発生する。


「……組織の反応を見ながら、連鎖的に事件を起こしてる?」


 リオの声に、ユリウスと狩人たち、聖導士が振り向く。


「ちょっと待った。誰かが意図してやっていると?魔獣や瘴気魔獣を操るなんて不可能……」

「過去、カルドニアの戦いでは、瘴気魔獣を操ったという記録が残っています」


 不可能と断定するのは早計だ。


「今は、人や組織の注意が分散しているタイミングだから……西の市場区(マーケット)で次に魔獣が出るなら、裏路地みたいな、狙いやすい場所を選ぶかもしれないです」


 ユリウスが身震いする。


「……狩人と聖導士をまとめて弄んでるの?嫌な感じだね」


 もしかすると、単なる愉快犯かもしれない。

 狙いはまだ見えないが、とにかくこれで終わりとは思えない。


「けど、裏路地って……数えきれないほどあるが……」

「例えば……狭くて曲がりくねった、障害物が多く出入り口が少ない路地って、ありませんか?」


 狩人たちが顔を見合わせる。


「少し行ったところに、ちょうどそういう裏路地がある」


 *


 リオたちは狩人の案内で、その裏路地へやって来た。


 少し広めの通りから、路地を覗き込む。

 狭く曲がりくねった通路で、人や馬車の通行がやや困難。

 木箱、樽、軒先、垂れ下がる布など、障害物が多く、見通しも悪い。

 建物の壁に挟まれ、入り口と出口が限られているため、避難も難しそうだ。


「本当にこんなところに?」


 疑わしげな狩人の言葉を聞き流し、リオは路地をじっと見つめる。


 裏路地の奥に、低く唸る声が響いた。

 木箱の影、垂れ下がる布の隙間から、小型瘴気魔獣の群れが姿を現す。

 数体ずつ間隔を空け、迂回するように進む群れ──まるで、こちらの動きを測るかのようだ。


「少数ずつ……」


 リオが小さく呟く。


 最初に出現した群れが裏路地を横切る。

 狩人が先頭を押さえようとするが、曲がり角に潜んでいた別の群れが背後から迫り、通行人の退路を塞ぐ──わずかな隙を突かれた。


「くっ……!」


 狩人が歯を食いしばる。


 軒先や樽の影に潜んでいた魔獣が、突然飛び出す。


 逃げ遅れた人々は尻もちをつく。

 聖導士が裏路地の真上で光魔法を放ち、路地全体が白く照らされる。


 魔獣たちの動きが、鈍る。


 リオは影の濃淡を見極め、狭い路地でどの群れを優先すべきか瞬時に判断する。


 慎重に詠唱する。

 空中に丸い風の球が生まれ、そこから針のような風の矢が次々と飛び出し、狙った群れを正確に射抜く。


 狩人が討ち漏らしを一体ずつ排除する。

 群れの動きは制御され、逃げ場を失った魔獣たちは混乱していく。


 裏路地の人々は全員、表通りへ逃げられた。

 ユリウスが水魔法で裏路地を封鎖し、人々の安全を支える。


「馬車の影……いや、その壁沿い!」


 リオの声に応じ、狩人たちは群れを壁際に追い込む。


 群れは次々に倒れ、抵抗を失っていく。

 リオの予測に沿って誘導された狩人の手で、ついに全ての瘴気魔獣が路地から排除された。


 *


 静寂が戻った路地裏。

 湿った石畳に残る瘴気がゆらめく中、リオは息を整え、狩人に視線を向ける。


「北に集中している間に、西でもこうして……手が回らなくもなりますよね」


 狩人は頷き、リオの読みの確かさに、感心したような目を向けた。


「夜は夜で、またどこか狙われるかも……」


 リオがそう言いかけるが、狩人は腰に手を当て、子供を叱るような口調で言った。


「もうすぐ日が暮れる、ここからは俺たちの領分だから、学生は帰るんだ」


「けど、助かったよ。ありがとな!」

「……将来が楽しみですね」


 狩人の一人が、ユリウスにも目を向ける。


「君も、ありがとう。おかげで討伐に集中できたよ」


 礼を言われたユリウスは、少し目を見開き、照れたように頭を掻いた。

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