第2話 開かれた学び舎
石造りで重厚な城塞都市、グランゼリア。
都市そのものがひとつの国のような存在で、商業・学術・信仰のすべてが集まる。
その東、書院区に学園は位置している。
リオは学園の正門をくぐった。
赤褐色のレンガ壁は、朝の光に艶を帯び、尖塔の影が石畳に長く伸びる。
新築の香りをかすかに残しながら、長い歴史を感じさせる、落ち着いた佇まいを見せていた。
アーチ窓を縁取る深緑の蔦が、知を紡ぐ年月を映すかのように風に揺れている。
リオは入学案内の紙を確認する。
広大な敷地の地図と入学詳細。
時計塔を見上げ、余裕があることを確認してから、ゆっくり教室へ向かう。
教室に入ると、生徒はまだまばらだった。
窓辺に一人、少女が目に入る。
白を基調にゴールドの縁取りが入ったショートジャケットを身に着け、胸元には校章のエンブレムが輝いている。
ハイネックブラウスにネイビーのリボン、ネイビー系チェックのプリーツスカートを合わせ、黒いローファーにグレーのハイソックスを履いている。
肩下まで届く深紅の髪は光を受けて赤みを帯びている。
柔らかなウェーブが揺れる。
肩には小さな飛竜が寄り添っていた。
少女は手元の本を開きつつ、時折飛竜に語りかけている。
リオは懐かしさを覚え、少女に近付き声をかけた。
「おはよう、俺はリオ。飛竜連れなんて、珍しいね」
少女が顔を上げ、少し驚いたように目を見開く。
不思議な色だった。少し金が混ざった落ち着いた焦茶色の瞳だ。
「おはよう。私はイリス、この子はアリアよ」
「キュアー」
イリスの肩に乗ったアリアが、軽く鳴いて体を擦り寄せる。
「イリス、アリア。よろしくな」
アリアの顎を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
それを見たイリスは、頬を緩ませて微笑んだ。
「実は緊張していたの。この学園は狭き門で、私は滑り込めたようなものだから…」
「滑り込みだろうと何だろうと、入ったもの勝ちだよ」
リオの言葉にイリスは小さく笑う。
近くでは、他の生徒たちが楽しそうにおしゃべりしている。
「この制服、すごく可愛いよね」
「バルテラン商会のデザインなんだって、すごいよね」
その会話を聞き、リオは思わず遠い目をして、ぶるりと身を震わせた。
「どうかした?」
「いや、ちょっと寒くて…」
「キュウ」
アリアがパタパタと飛んでリオの肩に降り、首元にそっと身体を寄せた。
「キュアー」
「温かい?って」
イリスが翻訳してくれる。
「すごいな。飛竜の言葉がわかるんだ」
「ずっと一緒に過ごしていると、何となくわかるようになってくるのよ」
リオは思わず尊敬の眼差しを向ける。
やがて教室の時計が時を刻み、生徒がそろってきた。
入り口から男子生徒がひとり入ってくると、スモーキーグレーの瞳で教室内を見渡す。
淡いラベンダー色の前下がりボブ。後ろ髪も自然に流れている。
胸元の校章の色は紺色で、控えめに光を反射していた。
「講堂で入学式があります。僕は案内を務めるニ年のユリウスです。新入生は僕に続いて来てください」
ふと、リオとユリウスの目が合う。
「後輩に会えて光栄だよ」
ユリウスは冗談めかして笑った。
「初めまして、ユリウスさん。俺はリオです」
丁寧に頭を下げるが、反応が返ってこない。
不思議に思って顔を上げると、ユリウスの顔に、一瞬だけ微かに戸惑いの影が走った。
「ああ…うん。……よろしく」
ぎこちなく返事をして、ユリウスは背を向ける。
リオは小さく首を傾げた。




