第3話 街角の風景
午前の授業を終え、リオはユリウスと連れ立って、グランゼリア西の市場区を訪れていた。
石畳の大通りは人波で埋め尽くされ、屋台からは香ばしい匂いと呼び込みの声がひしめき合う。
商人はもちろん、学者に聖導教会の使節まで──大陸中のあらゆる人と物が交差する場所だ。
「うわぁ……!」
リオは思わず声を上げ、胸いっぱいに街の空気を吸い込む。
行き交う人々の衣装も荷車も、どれもが見たことのない色彩と光を帯びていた。
「それで?行きたいところは決まってるの?」
ユリウスが微笑ましげに問うと、リオは即座に顔を輝かせた。
「魔道具屋!魔道具屋に行きたい!」
*
軒先の鈴が澄んだ音を転がす店に足を踏み入れると、棚一面に奇妙な道具が並んでいた。
魔力を込めることで内部が動き、一度きりの効果を発揮する──シンプルながらもどこか惹きつけられる品々だ。
光を灯すランプの魔道具。
一瞬だけ目をくらませる閃光魔道具。
触れた対象の方向を指す追跡魔道具。
水や空気の汚れを一度だけ除去する洗浄魔道具。
乾いた風を循環させ、衣服や薬草を短時間で乾かす風乾魔道具。
どれも実用的でありながら、見ているだけで胸が高鳴る。
性能に見合うだけの値がついており、ユリウスはひやひやしながらその背を見守る。
けれど夢中のリオは、そんな視線にまるで気づかない。
「これ、中はどういう仕組みなんだろ?分解したいなあ」
リオが目を輝かせて手を伸ばしたその時、奥から店主が転がるように現れる。
「ほっほっほ。買ってくれたら、好きにしてくれてかまわんぞい」
値札を見て目を剥いたユリウスは、慌ててリオの手から魔道具をすくい取り、そっと棚に戻した。
*
店を出ると、甘い香りや香ばしい匂いが入り混じる市場の空気が再びリオの鼻をくすぐった。
市場区の屋台には、見慣れぬ食べ物や飲み物がずらりと並んでいた。
「苦手なものはある?」
「ないよ。先輩のおすすめを教えてよ」
ユリウスがいくつかの屋台を回り、食べ物や飲み物を選んでくれる。
初めてのものばかりで、リオは終始目を輝かせてはしゃぐ。
薄い魚鱗を揚げた“魚鱗フライ”を口に放り込む。
「わっ、パリパリだ!」
夜霧を溜めた月露草から採れる炭酸水──“月露サイダー”を一口。
「こっちはなんか、シュワシュワする!」
甘い樹液で生地を練った“森蜜クレープ”を頬張る。
「うわあ、甘い」
両手いっぱいに食べ物を抱えては、無邪気に感想をこぼすリオ。
ユリウスはその様子に生温かい視線を送りながらも、口元をほころばせた。
*
やがて、石造りの荘厳な建物が通りの向こうに姿を現した。
バルテラン商会──上質な商品、特に衣類や装飾品を扱うことで知られる名店の本店だ。
「君、私服をろくに持っていないだろ?寄っていこうか」
ユリウスがさりげなく誘うと、リオは「何言ってんの?」と言わんばかりに目を丸くし、即座に首を横に振った。
「行かない」
「いや、大丈夫。バルテラン商会はいいものしか扱ってないから──」
「行かないよ!」
子どものような全力拒否。
「どうしたの?いつもそんなじゃないでしょ?」
「行かないったら、行かない!」
リオは小さく足を踏ん張り、首をさらに横に振った。
ユリウスは苦笑をこぼし、肩をすくめて引き下がるしかなかった。




