第2話 魔法の精密さ
演習場に静かなざわめきが広がった。
今日の授業は──魔法実験。
以前、生徒たちが“つむじ風”を踊らせることに夢中になり、授業の主役を奪われたあの魔法担当の教員。
それ以来、生徒たちからは親しみを込めてつむじ風先生と呼ばれている──が、今日も担当だ。
教師はどこか、リオを警戒するような、恐れるような目を向けてくる。
「本日は魔法と魔力量についてです」
その掌に、淡い光と共に小さな水の球が生まれる。
「同じ魔法でも、込める魔力量によって威力や規模が変わります。今から魔力を増していきます」
水球は静かに膨らみ、人の頭ほどの大きさで止まった──
「まずはこのようにゆっくり行って、魔力量と結果の関係を確認しましょう。ただし、魔力の使い過ぎには注意ですよ。疲れたらすぐやめること」
生徒が一人、手を挙げる。
「先生!魔力を使いすぎたらどうなりますか?」
教師は軽く笑みを浮かべ、静かに答える。
「倒れます。いわゆる、魔力枯渇ですね。繰り返すと魔法が使えなくなるという話もあります。ですから、十分注意してください」
小さなざわめきと、少し震える声が演習場に広がる。
「無理しなければ大丈夫だよ。魔力は生命維持にも使われているみたいだから、身を守るために意識を失って倒れるわけだし」
リオの言葉に、野外訓練の朝に話していた生徒が恐る恐る口を開く。
「もしかして、前に言ってた“立てなくなるまで”って……」
「ん?」
リオは笑顔を返した。それ以上言わないでほしい。
悟った生徒は黙って後ろに下がった。
皆がそれぞれ魔力量とその結果を確かめる中、リオは腕を組み、ふと考え込む。
「どうしたの?」
イリスが声をかけてきた。
「……いや、ちょっと不便だなって思って」
「何が?」
イリスの手の中では、今日もつむじ風がくねくねと踊っている。しかも少し大きい。
「いざ魔法を発動するときって、詠唱してるから魔力量を意識しづらいんだよ」
「そうね……」
「何で詠唱って、属性に繋げて現象を顕現させるところまでしかしないんだろう。もっと実戦向きに、使用魔力量も組み込めばいいのに、って思うんだ」
「いい観点ですね」
教師の声が聞こえ、二人で振り返る。
「そういった研究もされていますが、詠唱が長くなり、実用的ではなくなるのですよ」
「ああ……」
納得したリオは小さく頷く。
「込める魔力量がどのくらいでちょうどいいか。それは長年の経験でしか得られません。銀の狩人様レベルに皆が達せられたら、苦労しないんですけどね」
今日は教師としてきっちり主導権を握れたとあって、どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
手を腰に当て、目の端で生徒たちを軽く見渡していた。
「そうですね」
だがリオは生返事をしながら、別の思考へと移る。
そもそも、詠唱は実戦では効率的じゃない。
口を封じられたら──その瞬間、魔法は途切れる。
口には出さず、心の中でだけ、そんなことを思った。




