第1話 慌ただしい朝
リオは今日もユリウスと一緒に登校していた。
中央広場でイリスと落ち合い、移動しながら会話を交わす。
「昨日は大変だったわ…」
リオは思わず肩を跳ねさせた。
そういえば、大勢の前で光魔法を使ってしまった──有耶無耶になっていたが、あの瞬間は間違いなく危うかった。
「アリアに癒してもらおうとしたら、触りすぎたのか、どこかへ行っちゃったのよ。散々だわ」
イリスがすねたように言う。
リオは少し近づき、声を少し震わせながらそっと尋ねた。
「イ…イリス、見た?」
イリスの目がわずかに大きくなる。
「見たって、何をよ?」
不思議そうな顔で返され、焦りがすっとリオの胸を締めつける。
「瘴気魔獣を倒すのに、俺が魔法を使ったとき……」
「ああ……」
イリスは顎に人差し指を当てて考える。
「あの時、まぶしすぎて、何も見えなかったの。……まさか、あの瞬間何かとんでもないものが…」
「そう!瘴気魔獣がとんでもないことになってたから、絶対見ない方が良かったよ!」
慌てて言うと、リオは肩の力を抜き、ほっと胸を撫で下ろした。
イリスは見なくてよかったという安堵と、でも少し見てみたかったという好奇心で板挟みになっている。
ユリウスは少し憐れむような目で、二人を見つめていた。
ふと、リオの脳裏に、光魔法を放つ前、ユリウスが口にした言葉がよみがえる。
「そういえば、先輩は俺の父さんと知り合い?」
リオが尋ねると、ユリウスは困った顔をする。
「知り合い……というには烏滸がましいんだけど。というか、君には言われたくないよね」
「えー?」
「君は……ああ、いや。何でもない」
そのとき、不意にすれ違った生徒たちの声が、風に乗って耳に入ってきた。
「また狩人が夜通し動いてたって」
「聖導教会も各地に聖導士を派遣してるらしい」
断片的な会話が交錯し、魔獣や瘴気に関わる小規模な事件があちこちで起きていることが伝わってくる。
登校する生徒たちの表情もどこか落ち着かず、広場全体が微かなざわめきを帯びていた。
リオとイリスは互いに顔を見合わせる。不安が胸をかすめる。
その横で、ユリウスが肩の力を抜き、ふっと伸びをしながら言った。
「狩人と聖導教会が対応しているなら、大丈夫だよ」
彼の穏やかな声には、不思議と説得力があった。
リオたちは小さく息をつき、ほっとした顔で教室へと足を進めた。




