幕間 手紙 -side ヴァルセリオ-
歴史の授業の後、職員室に戻ったヴァルセリオは、自分の机に座る。
顔を両手で覆い、深くため息をついた。
十六年前の話をするのは、いつも一番堪える。
なぜなら、カルドニアの戦いを引き起こしたのは、他でもない自分だからだ。
心の底から、竜こそが救いだと信じていた。
だから、小さきもの、弱きものを切り捨ててでも、世界を──竜を──救おうとした。
だが、それは誤りであり、傲慢でしかなかった。
アレンたちが、自分を止めてくれたのだ。
「ダリオスさん……」
机に頭を落とす。額を打ち付けても動けない。
リオからその名が出たとき、責めるつもりではなかったことは理解していた。
それでも、胸にずしりと重くのしかかる痛みに少し泣いてしまった。
ダリオスの命を奪ったのは、結局自分なのだ。
ダリオスは、マグナ・オルビスの暴走を止めるために死んだ。
マグナ・オルビス──瘴気の力で世界を縛り、従わせる道具。
そんなものがこの世にあってはいけない。
ダリオスは己の命を懸けて、それを壊した。
だが、元を正せば、マグナ・オルビスを使ったのは自分だ。
つまり、自分がダリオスを殺したのだ。
今でも胸が痛む。
少しでも償えるよう、一生懸命研究に励んだ。
新しい発見を重ね、認めてもらえるよう努力した。
今では教師として、一つのクラスを任されるまでになった。
それでも、今も、この胸の痛みは消えない。
「ああ……カルドニアの戦いのことを話しそびれました…」
他に誰もいない職員室に、ヴァルセリオの反省の声が静かに響く。
*
しばしぼうっとしたあと、ヴァルセリオは頭を持ち上げ、引き出しを開けた。
狩人と聖導教会に連絡を取らなければ。
平穏の裏で、大きな何かが頭をもたげようとしている気がする。
聖導教会の最高位、大導師宛ての手紙を書き終えると、続いて狩人の長宛ての手紙に取りかかる。
必要事項を書き終えたが、ペンを持つ指が震える。
「アレン……」
私は、償えているでしょうか。
思わず震える文字でそう書き、苦笑する。
ダリオスはアレンの師だ。
きっとアレンが一番、自分のことを恨んでいるのに。
「すみません…少しだけ寄りかからせてください」
謝罪しつつ、肩の力を抜いて手紙を折り、封をする。
綺麗な夕暮れが、書いた手紙を見つめるヴァルセリオを優しく照らしていた。
ヴァルセリオには、忘れられない言葉があります。
「──理想を人に説くには説得力がいる。説得力のない理想は、ただの妄言だ」
これは、ダリオスの言葉です。
教師となった今、彼は正しいことを、間違いなく、忠実に教えることを常に意識しています。
研究と教育──これが、彼が選んだ償いの形なのです。




