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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第3章 仲間との絆
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第7話 知識の迷宮

 結果として昼食を抜くことになったリオたちは、遅めの昼休みをとったあと、教室に戻って机にぐったりと突っ伏していた。


「はい、皆さんお疲れかとは思いますが、授業を始めますよ」


 ヴァルセリオが二回、手を叩く。乾いた音が教室に響き渡った。


「鬼畜だ…」

「もっと寝たい……」


 そんな声が教室のあちこちから漏れるが、ヴァルセリオは聞き流す。


「今日は歴史の授業です」


 黒板に文字を書きながら、声に力を込める。


「十六年前、“救済の環”という組織が各地で瘴気を用いた騒動を引き起こしました。どのような組織かご存じですか?」

「はい、救済の竜を復活させようとしていたんですよね」


 生徒の返答にヴァルセリオは頷く。


「その通りです。救済の環は、人類を救うために竜を復活させようとしました。しかし、復活した竜は世界を破滅に導きかねなかったのです」


 ヴァルセリオの表情は硬い。


「竜は遥か昔、世界の瘴気を背負い人類を救った存在ですが、瘴気に耐えきれず封印されました。つまり、元の竜は確かに救済の竜でしたが、復活した竜そのものは瘴気魔獣と同等の存在だったのです」


 生徒たちがごくりと息をのむ。


「竜を、そして世界を救うために立ち上がった人たちがいます。皆さんもよくご存じでしょう」


「狩人の(マスター)、アレンさん!」

「銀の狩人、フィオナさん!」

「紅の戦姫、イゼリアさん!」

「竜騎士のジークさん!」

「ナッシュさん!」


 次々と名前が挙がる中、窓の外を見ていたリオは、忘れてはいけない人物の名を口にした。


「……銀の、ダリオスさん」


 教室の視線がリオに集まる。首を傾げる者も多い中、ヴァルセリオは優しく頷いた。


「そうですね。陰に隠れがちですが、ダリオスさんも立派な功労者です」


 ヴァルセリオは黒板に向かい、顔を袖で拭う。


「彼らの活躍で、竜は浄化されました。その際、世界の瘴気もある程度浄化され、今の平穏が生まれたのです」


 黒板に“瘴気”と大きく書き、振り返る。


「では問題です。瘴気とは何でしょう?」

「人の、悪意のことですか?」


 ヴァルセリオは文字の横に“人の悪意”と付け加える。


「その通り。瘴気は人の心から生まれるもの。完全に消すことは難しいのです」


 彼は生徒たちの目を見渡す。


「瘴気は光魔法でしか消すことができません、しかし魔法で消せる量には限界があります。だからこそ、平穏で安寧に満ちた世界を作り、瘴気の発生を抑える努力が続けられてきたのです」


 生徒たちは頷きながら耳を傾ける。


「瘴気に長く触れると、心身が蝕まれ“瘴蝕(しょうしょく)”が起こります。早めに光魔法の治療を受けることが大切です」


 瘴気魔獣の攻撃を受けた生徒に視線が集まる。今はすっかり消え、跡形もない。


「本日はここまでです。質問はありますか?」


 リオが手を挙げた。


「はい、リオさん」

「竜は、飛竜だったんですよね。世界の瘴気を背負えるとは思えないです」


 リオはイリスの手元のアリアを見て、少し首を傾げる。


「良い質問です。実は、竜は非常に大きかったのです」

「非常に大きい……」

「頭だけで、軽くアレンさんの身長くらいあったと言われています」


 リオを含む生徒たちは息を飲む。


「また、飛竜は瘴気との親和性が高く、同じサイズでも他の生き物より多くの瘴気を背負えます」


 イリスはアリアを抱きしめる。


「研究によってわかっていることです。だから、竜騎士団は飛竜に負担がかかる瘴気魔獣の討伐は狩人の他のメンバーに任せ、竜騎士団自身は通常の魔獣討伐を優先して行うのです」


 ヴァルセリオは優しく微笑み、目で生徒たちを落ち着かせるように一巡する。


「安心してください。知って理解すれば、恐れる必要はありません」


 他の質問はなかった。

 ヴァルセリオは早く帰るように言い残すと、早々に教室を後にする。


 “知って理解すれば、恐れる必要はない。”

 その言葉が、リオの頭の中で何度も反響した。

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