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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第3章 仲間との絆
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第5話 痕跡

 森に瘴気魔獣の絶叫が響き渡った。


 濃く漂っていた瘴気のもやが蒸発するように消え、異形の中身が再び(あらわ)になる。

 浄化の光に焼かれた毛皮が、爛れ、白い煙を立ち上らせていた。


 最初に見たときは、その歪さにただ恐怖した。

 けれど今は──どこか哀れにさえ思える。


 瘴気魔獣が長さの違う足の一本を折り、ぐらりと傾ぐ。

 まるでリオにその首を差し出すかのように。


 リオは剣を握り直し、短い詠唱を口にした。

 刃が風を纏う。


 地を蹴り、一閃──魔獣の首を切り落とす。


 ゴトリ、と落ちかけたその“頭”は、地に触れる前に塵となって消えた。

 巨体もまた、ゆらりと傾きながら灰の粒子へと崩れ去っていく。


 リオは息を吐き、額の汗を拭った。

 久しぶりに光魔法を使ったせいで、魔力が底をつくような疲労が残る。


「リオ!やったわね!」


 イリスが勢いよく飛びつき、リオは目を丸くする。

 視界の端では、ユリウスが地面に腰を下ろしていた。

 リオと視線が合うと、疲労を滲ませながらも肩の力を抜き、安堵の笑みを浮かべる。


「倒した…?」

「助かった……?」


 恐怖で目を閉じていた生徒たちも、訪れた静寂に気づいて顔を上げた。

 空へと昇っていく黒い塵を見て、次々と表情が明るくなる。


 歓声が上がり、涙を浮かべながら抱き合う者、手を叩き合う者──安堵が一気に広がった。


 リオはその様子を見て、頬を緩めた。

 まだ自分にしがみついて喜ぶイリスを片手で支えながら、何気なく魔獣が消えた地面へ視線を向ける。

 陽光を受けた土が、きらりと光った。


「イリス、ちょっと」

「どうかした?」


 腕を軽くたたいて離れてもらい、リオは片膝をついて地面を探る。

 指先に触れたそれを拾い上げる。


 薄くて、整った正方形。

 金属とも石ともつかぬ材質で、表面にはひび割れが走っている。

 だが割れたというより、もとからそういう模様を持つかのようだ。


「これ、何だろう」


 イリスもリオの手元をのぞき込み、首をかしげる。


「見たことないわね」


 ──その瞬間、言葉にならない冷たさが、ひやりと背筋をかすめた。

 ……何となく、触れてはいけない気がした。


 リオはポケットからハンカチを取り出し、それを包む。

 後でヴァルセリオに見てもらおう。


 落ち着きを取り戻した生徒たちが、口々に礼を言いながらリオへ駆け寄ってくる。

 尊敬のまなざしに囲まれ、リオは少し照れた。


「大丈夫ですか!?」


 森の奥からヴァルセリオの声が響く。

 教師二人の姿を認めた生徒たちは一斉に走り出し、勢い余って抱きつく。

 倒れ込む教師と、泣き笑いする生徒たち。


 リオは空を見上げた。

 結界はすでに消え、遮るもののない青空に、まぶしい太陽が輝いていた。

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