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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第3章 仲間との絆
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第4話 森に響く咆哮

 リオたちは空に浮かぶ信号弾を確認しながら、森の奥へ向かった。


 生徒たちの悲鳴が耳に入り、魔法光が木立の間に断続的に見える。


 森を抜け、目の前に広がる光景に、リオたちは言葉を失った。


 そこは、元は開けた場所などではなかった。

 なぎ倒された木々、剥き出しになった地面──大きなものが暴れた結果生まれた空間だった。


 イリスが中央に目を凝らし、息を止めた。

 そこには瘴気魔獣がいた。

 元の姿は判別できず、ただの黒い塊に見える。


 黒いもやの下からは、ところどころ骨が突き出していた。

 濁りきった赤黒の瞳がぎらりと光る。

 わずかに見える爛れた肉の裂け目からは膿が糸を引くように滴り、濁った瘴気と錆びた鉄の匂いが辺りに漂った。


 生徒たちは魔法で何とか時間稼ぎをしているようだった。

 しかし攻撃が瘴気魔獣に当たっても、その跡はすぐに消える。

 全ての攻撃が無駄に帰していた。


「あれは……」


 固まるユリウス。

 リオは一歩踏み出す。


「瘴気魔獣だよ。距離を保って、仕留めるしかない」


 言い切るリオに、ユリウスの瞳が揺れる。


「そんなの…できるわけが……」

「できるよ。瘴気はあとで浄化すればいい、倒すだけなら光魔法は不要だから」


 ユリウスは言葉を続けかけたが、視線が次第に定まった。


「…僕は何ができる?」

「水魔法で皆を守ってほしい。あれが何の魔獣かわからないから、対処しきれないかもしれない」

「私は?」


 リオはイリスを見やる。


「攻撃を手伝って。あいつの動きを確認したい」

「わかった」


 アリアがいれば、上空から状況を確認してもらえるのに。

 だが、野外訓練は生徒のみの規則だ。嘆いても仕方がない。


 リオは、瘴気魔獣が動く前に詠唱し、風魔法を解き放った。

 魔獣に向けた手から暴風が吹き荒れ、瘴気魔獣の纏う瘴気を叩き散らす。


 黒いもやが渦を巻いて四方に散り、濁った瘴気の匂いが一瞬の風とともに流れ去る。

 場の空気がざわめいた。


 狼、鹿、兎、熊──森にいる、ありとあらゆる動物の体の断片が寄せ集められたような、いびつな異形。

 リオは息をのんで目を見開いた。

 そのあまりにおぞましい姿に、場の空気は凍りつき、しばらく誰も動けなかった。


 瘴気を吹き飛ばしても、魔獣は瞬く間に黒い塊へと戻る。


「リオ!」


 イリスの声で我に返る。

 イリスが槍を振るうが、瘴気が槍を伝って逆流し、慌てて距離を取る。


「何、あれ!?」

「わからない!」


 リオも戸惑う。

 こんな瘴気魔獣、聞いたことがない。


 そのとき、瘴気魔獣の体から黒い腕が幾本も伸び出した。

 水魔法の盾を展開するユリウスめがけ、同時にリオたちにも襲いかかる。

 盾が軋む。ユリウスの顔に苦悶が走った。


 リオとイリスは腕を切り捨て、風刃と槍で捌いていくが、切り落とした端から黒い瘴気が渦を巻き、瞬く間に再生していく。

 リオは歯噛みした──この腕は瘴気そのものだ。

 形も長さも数も自在。このままでは押し切られる。


 ユリウスの盾が音を立てて割れる。

 そのまま生徒の一人へ、瘴気の腕が振り下ろされる。

 ナイフで受け止めた──だが止めきれない。

 鋭い悲鳴が森に響く。


 リオは思わず立ち止まり、迷いの中で息を詰める。

 どうすればいい?何なら効く?あの魔法なら──けれどあれは使うなと言われている。


「リオ!」


 今度はユリウスがリオの名を呼ぶ。


「迷うな!躊躇うな!君の父なら、きっとそう言うはずだ!」


 ユリウスの言葉で、リオは詰まっていた息を吐き出した。

 剣を握る手に力を込める。


「……一緒に、怒られてくれる?」

「光栄だね!」


 リオはユリウスの声を聞き、胸の奥で小さく固まっていた何かが解けるのを感じた。

 小さく笑い、迷いを断ち切るようにゆっくり目を閉じた──。

 肩の力を抜き、声を低くして詠唱を紡ぐ。

 省略はしない、完璧な詠唱だ。


 瘴気魔獣が雄たけびを上げ、リオへ襲いかかる。

 イリスが叫ぶ。


 リオはゆっくりと目を開けた。

 その瞳に白銀の炎が宿る。


「──ホーリーライト」


 暖かな白銀の光が森を染め、魔獣を、そして生徒たちをも包み込んだ。

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