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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第1章 ヴェルディア学園入学
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第1話 剣に映る朝

 朝の光が、まだ湿った葉に静かに降り注いでいた。

 霧がゆるやかに立ち上り、太陽の光を受けて、朝露がきらきらと揺れる。

 小鳥のさえずりが、まだ眠気の残る寮室に柔らかく響いた。


 リオは、ふっと小さく息を吐く。

 手のひらに伝わる冷たさを感じながら、瞼を持ち上げる。

 開いた窓から差し込む朝の澄んだ風が、閉まったカーテンを揺らしていた。


 夢を見ていた気がする。

 だが内容は思い出せず、代わりに軽くあくびをひとつこぼす。


 まだ少し、眠い。

 寝ぼけた頭のまま、小声で短い詠唱を口にし、水魔法をそっと手に纏わせて顔を洗う。

 水が滑らかに頬を伝い、光を受けて微かに虹色に揺れる。

 冷たくも心地よい感覚が、眠気を徐々に押し流していった。


 息を整え、流れるように短詠唱を重ねる。

 指先で紡いだ詠唱は淡い水の光を口内に浮かべ、細かな泡となって歯の隙間へすっと滑り込む。

 仕上げに風をひと吹き。泡は霧散し、口内には澄んだ冷たさだけが残った。


 リオは小さく息をつき、満足げな笑みを浮かべる。


 傍の剣を手に取り、慣れた手つきで鞘から引き抜く。

 柔らかい光に照らされて、銀色の線がひときわ鮮やかに浮かぶ。

 刃先を軽く拭い、柄を握る。

 振った際に微かに響く金属音が、朝の静寂に溶けた。

 その動作は無意識ながらも整っていた。


 剣を脇に置き、制服へと着替える。

 白いシャツに、えんじと濃紺のチェック柄スラックス。

 その上からライトグレーのベストを羽織り、えんじ色のネクタイを締める。

 手先はまだぎこちないが、形になっていく感覚は悪くない。


 上着は膝丈のロングコート風。

 ライトグレーを基調に、縁や肩飾りには金の縁取りが施されている。

 胸元には校章が輝いていた。

 二つの文字を絡めたモノグラム。背景は深い青で、朝の光を受けて柔らかくきらめいた。


 左腰の革ベルトに鞘を斜めに差し、軽く手を添えればすぐに抜ける位置に整える。

 柄が軽くコートの前から覗く。

 小さな玄関で黒のレザーシューズを履き、リオは静かに自室を出る。


 廊下を歩き、一階まで降りると、掲示板の前で掃除をしている寮長に声をかけた。


「寮長さん、おはようございます」

「おはよう、リオくん。いよいよ今日からですね」


 額にはじんわりと汗が滲んでいる。


「どうかしたんですか?」

「落書きされてね。まあ、いたずらだろうけど」


 学園内での瘴気観測に関する注意書きが、掲示板に直接赤い文字で書かれていた。

 リオはちらりと見て、眉をひそめる。

 紙に書いて貼ればいいのに、と心の中で呟いた。

 その赤は、妙に目に障る。


「手伝います。水で浮かせれば、少しは取れやすくなるかも…」


 言いながら文字に人差し指を向けると、寮長が慌てたように止めてくる。


「いえ、いいんですよ。魔力が勿体ない、気持ちだけいただきますね。それよりほら、早くご飯を食べて学校へ向かわないと」


 まだ時間は十分にあるのに、食堂の方へ背中を押され、リオは仕方なく歩き出す。


 寮の食堂で簡単に朝食をとった。

 柔らかい白いパン、サラダと卵、果物。

 口に入れるものは、朝の光の中でゆっくり咀嚼され、心を落ち着かせるだけでなく、今日一日の活力を体に満たしていく。


 他の生徒たちも談笑しながら席に着き、フォークの触れる音やパンの香りが食堂に広がっている。


 リオは窓の外を見やった。

 まだ朝もやに包まれた森の端で、微かな揺らぎが視界の片隅に映った。

 風に揺れる木の葉か、それとも──。


 だが、すぐに興味を失い、ゆっくりと朝の光に照らされた剣へと視線を落とした。


 何か、楽しいことがあればいい──そう思うと、胸の奥に静かな期待が広がっていく。

 霧の向こうに、まだ見ぬ風景が待っているような気がした。

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