第7話 日常の影
カリカリと、ペンを走らせる音が部屋に響く。
やむことなく続くその音が、今は少し心地いい。
「今日、武器の実技演習があったんだ。イリスと手合わせしたんだけど、速かったよ」
カリカリという音は淀みなく響く。
「その時に、また警報が鳴って。一瞬瘴気が見えたんだ。あれ、すごく嫌な感じだよね」
カリ…と音がやんだ。
「先生はたまにはあるって言ってたけど。絶対変なんだよなあ」
リオはベッドに座って足を投げ出し、ぼやいた。
目の前には机に向かい、リオに背を向けたユリウスがいる。
「瘴気って、人間の悪感情なんでしょ?こんな楽しい学園で瘴気が実体化するって、おかしいと思う」
「いや、おかしくないと思う。今、まさに僕は君に悪感情を抱いているからね」
ユリウスが笑顔で振り返る。
笑っているけれど、目は笑っていない。
「どうして僕の部屋に来る?見てわからないかな、明日は試験だから、忙しいんだよ」
「……なんか、すごくもやもやするんだ」
リオは唇を突き出して腕を組み、「むう」と唸る。
ユリウスはため息をついた。
「明日の放課後聞くから……というか、君も明日、野外訓練だよね」
「え?そうだった?」
リオはユリウスのそばに寄って、手元をのぞき込む。
学園の予定表が開かれていた。
「明日は一年生と二年生の合同野外訓練だよ」
「じゃあ、先輩と一緒?」
リオは顔をほころばせる。
ユリウスが一瞬言葉に詰まった。
「ま…まあでも、同じチームになるとは限らないからね」
「それはきっと大丈夫だよ。俺、運がいいから」
笑って言うと、ユリウスは口元を歪め、微妙そうな顔をした。
「それ、悪運じゃないだろうね」
「失礼だなあ」
ユリウスはため息をつく。
「とにかく、二年はその後に筆記試験もあるんだ。邪魔しないでくれるかな」
「うわ、疲れてるところに筆記なんだ」
それは嫌だ。思わず眉をひそめた。
リオは踵を返しながら、ユリウスに声をかける。
「この問題の二番、間違えてるよ」
「え?……うわ、本当だ」
ユリウスがまたペンを走らせる。
リオはベッドに座って足をぶらぶらさせる。
本当は、父にこの不安をぶつけたかった。
ペンを握るユリウスを、ついじっと見つめてしまう。
父の代わりではないけれど、頼ってしまう自分がいた。




