第6話 再び揺れる
午後は武器を使った屋外実習だった。
剣、槍、ナイフ、弓──生徒たちは思い思いの武器を手に、演習場に集まる。
「今日は入学試験の実技の成績順に手合わせだ。対人戦は初めてだろうから、無理するなよ」
元狩人だという体格のいい教師が、元気づけるように声をかける。
本当に対人戦をしたことのない生徒たちは、不安げに顔を見合わせた。
「心配するな、聖導士も来てる。怪我してもすぐ治してもらえるから、遠慮すんな!」
豪快に笑う声に、生徒たちの表情が少し和らぐ。
「うわあ……」
リオは思わず顔を引きつらせた。
過去のスパルタを思い出し、身がこわばる。
「治るって言っても、痛いものは痛いものね」
イリスも小さく呟き、周囲の生徒たちの顔に再び絶望の色が浮かぶ。
「ははは!怪我しなかったらいいんだ!じゃあ、はじめ!」
「はーい……」
元気のない声が上がる中、リオは剣をすらりと引き抜き、構える。
イリスは槍を構え、口角を上げた。
「やっぱり、リオは構えが綺麗ね」
「イリスもだよ」
互いに賞賛を送り合い、先に動いたのはイリスだった。
素早い突き攻撃。リオは体を捻って避ける。
連続する突きを足のステップでかわし、突かれた槍を叩き落とす。槍は地面に落ち、先端が斜めに土に刺さった。
「やるわね!」
イリスは素早く槍を抜き取り、大きく振る。足元への薙ぎ払い。
後ろに跳んで宙で一回転、着地する。
その勢いを使い、リオは素早く背後に回り込む。
膝で相手の膝裏を軽く弾き──
「わっ」
イリスの膝が抜けるように崩れ、倒れこむ。
手放された槍をリオが奪い、左手でくるりと回して見せた。
「俺の勝ち」
「ちょっと、今の何よ!」
悔しそうに睨むイリス。上目遣いだから、怖さはない。
「イリスは手元が疎かなんだよ。近づかれたら対処できない」
「むぅ…お父さんと同じこと言うのね」
槍を返すと、イリスはむくれながら受け取った。
「うん、二人ともいい感じだ!」
教師が褒めてくれて、リオとイリスは顔を見合わせて笑う。
その瞬間──背筋に、針が刺さるような感覚が走った。
リオははっと視線を向けた。
肌に冷たい感触が広がり、頭の奥までぞくりとする──心臓が一瞬、止まったように感じた。
近くの瘴気測定器が、警報音を鋭く響かせる。
目の前で、黒くねっとりとしたもやが空気をねじるように立ち上がった。
光を吸い込みながら周囲の景色を歪める。
土とも腐臭ともつかない匂いが鼻を突き、喉をひりつかせる。背筋がぞくりとする。
生徒たちの声が一瞬で止み、武器を握る手が微かに震える。
数人が思わず後ずさり、息を止める。
目を見開き、体を硬直させる。
空気が重く張りつめ、呼吸さえためらわれるほどだった。
考えるより先に、体が動く。
イリスは瞬時に突きを放ち、リオは直感で斬り払う。
遅れて駆けつけた聖導士が詠唱し、光魔法が瘴気を裂くように放たれる。
瘴気は音もなく消えた。
演習場に沈黙が落ちる。
手合わせの途中で立ち止まった生徒たちは、武器を握ったまま息をひそめ、リオたちを見つめる。
心臓がどくどくと音を立てる。
思い出した──この嫌な感じは、瘴気だ。
「瘴気……久しぶりに見たな」
教師も驚きの声を漏らす。
「まあ、たまにはあることさ。あまり気にするな」
リオはじっと瘴気が現れた場所を見据えた。
たまにはある?リオが生まれる前ならそうかもしれないが、今の時代に、こんなに頻発する──その違和感に、リオは口を固く結んだ。




