表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第2章 日常に潜む違和感
15/35

第6話 再び揺れる

 午後は武器を使った屋外実習だった。


 剣、槍、ナイフ、弓──生徒たちは思い思いの武器を手に、演習場に集まる。


「今日は入学試験の実技の成績順に手合わせだ。対人戦は初めてだろうから、無理するなよ」


 元狩人だという体格のいい教師が、元気づけるように声をかける。

 本当に対人戦をしたことのない生徒たちは、不安げに顔を見合わせた。


「心配するな、聖導士も来てる。怪我してもすぐ治してもらえるから、遠慮すんな!」


 豪快に笑う声に、生徒たちの表情が少し和らぐ。


「うわあ……」


 リオは思わず顔を引きつらせた。

 過去のスパルタを思い出し、身がこわばる。


「治るって言っても、痛いものは痛いものね」


 イリスも小さく呟き、周囲の生徒たちの顔に再び絶望の色が浮かぶ。


「ははは!怪我しなかったらいいんだ!じゃあ、はじめ!」

「はーい……」


 元気のない声が上がる中、リオは剣をすらりと引き抜き、構える。

 イリスは槍を構え、口角を上げた。


「やっぱり、リオは構えが綺麗ね」

「イリスもだよ」


 互いに賞賛を送り合い、先に動いたのはイリスだった。

 素早い突き攻撃。リオは体を捻って避ける。

 連続する突きを足のステップでかわし、突かれた槍を叩き落とす。槍は地面に落ち、先端が斜めに土に刺さった。


「やるわね!」


 イリスは素早く槍を抜き取り、大きく振る。足元への薙ぎ払い。

 後ろに跳んで宙で一回転、着地する。


 その勢いを使い、リオは素早く背後に回り込む。

 膝で相手の膝裏を軽く弾き──


「わっ」


 イリスの膝が抜けるように崩れ、倒れこむ。

 手放された槍をリオが奪い、左手でくるりと回して見せた。


「俺の勝ち」

「ちょっと、今の何よ!」


 悔しそうに睨むイリス。上目遣いだから、怖さはない。


「イリスは手元が疎かなんだよ。近づかれたら対処できない」

「むぅ…お父さんと同じこと言うのね」


 槍を返すと、イリスはむくれながら受け取った。


「うん、二人ともいい感じだ!」


 教師が褒めてくれて、リオとイリスは顔を見合わせて笑う。


 その瞬間──背筋に、針が刺さるような感覚が走った。

 リオははっと視線を向けた。

 肌に冷たい感触が広がり、頭の奥までぞくりとする──心臓が一瞬、止まったように感じた。


 近くの瘴気測定器が、警報音を鋭く響かせる。

 目の前で、黒くねっとりとしたもやが空気をねじるように立ち上がった。

 光を吸い込みながら周囲の景色を歪める。

 土とも腐臭ともつかない匂いが鼻を突き、喉をひりつかせる。背筋がぞくりとする。


 生徒たちの声が一瞬で止み、武器を握る手が微かに震える。

 数人が思わず後ずさり、息を止める。

 目を見開き、体を硬直させる。

 空気が重く張りつめ、呼吸さえためらわれるほどだった。


 考えるより先に、体が動く。

 イリスは瞬時に突きを放ち、リオは直感で斬り払う。

 遅れて駆けつけた聖導士が詠唱し、光魔法が瘴気を裂くように放たれる。

 瘴気は音もなく消えた。


 演習場に沈黙が落ちる。

 手合わせの途中で立ち止まった生徒たちは、武器を握ったまま息をひそめ、リオたちを見つめる。


 心臓がどくどくと音を立てる。

 思い出した──この嫌な感じは、瘴気だ。


「瘴気……久しぶりに見たな」


 教師も驚きの声を漏らす。


「まあ、たまにはあることさ。あまり気にするな」


 リオはじっと瘴気が現れた場所を見据えた。

 たまにはある?リオが生まれる前ならそうかもしれないが、今の時代に、こんなに頻発する──その違和感に、リオは口を固く結んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ