第5話 騒がしい昼休み
リオとイリスが食堂へ向かうと、人だかりができていた。
一瞬、何だろうと思ったが、腹が鳴る。
すぐに興味を失って通り過ぎようとすると、人だかりの中から腕が掴まれた。
面倒くさいな、誰だろう、と視線を向けると、ユリウスだった。
いつも爽やかな髪は少し乱れ、どこか疲れたような顔をしている。
「こんにちは、先輩。ではまた ──」
会釈して去ろうとするが、腕を離してくれない。
そうこうしていると、人だかりがリオの方を向いた。その目が輝く。
「朝のあれ、すごかったね!」
「新入生!?一年なのにやるね!」
あっという間にイリスごと人に囲まれ、リオはぽかんとする。
「あの、俺、ご飯……」
「止め刺したのは風魔法だよね!剣から飛ばしたように見えたけど、どうやったの?」
「アクアプリズンごとってのがまたすごいよね。どうやってそんな威力を!?」
矢継ぎ早に質問されて、リオは眉を寄せ、口をへの字に歪める。
イリスの腰を抱え、ユリウスの腕を掴み返す。
足に魔力を込め、詠唱を呟いて二人ごと高く飛ぶ。
「きゃあ!」
「うわっ!」
人だかりから抜け出して着地すると、持ち帰り用のお弁当を素早く三つ手に取る。
背後から声が聞こえるが、振り返らずに脱兎のごとく駆け去った。
*
食堂から少し離れたテーブル付きベンチに腰掛ける。
リオはサンドイッチを頬張る。おいしい。
リオの前には、振り回されてぐったりしているユリウスと、未だ呆然としたままのイリスがいた。
「助けには感謝するけど、腕がちぎれそうだ……」
ユリウスが涙目で恨めしそうにリオを見る。
「ごめんなさい、でも──」
「でもじゃないよ!イリスなんて目を開けたまま意識飛ばしてるんだよ!?」
リオがイリスの前で手を振ると、イリスの瞳の焦点が戻る。
「あ、おかえり」
「はっ。あれ?私…何が……」
飛んでついて来ていたアリアだけは元気で、鼻先を飛ぶ蝶を追っていた。
「今朝の件が学園内で噂になっているらしい。リオが派手なことをするからだ」
リオはもぐもぐと口を動かし、口の中身を飲み込んでから反論する。
「先輩が5分しか持たないって言うから」
「10分!僕は10分って言ったよ!」
「あの魔力量だと5分しか持たない、無駄遣いしすぎだよ」
ユリウスが驚いたように目を見開く。
「魔法の発動までに、魔力を半分使ってた。10秒での魔力消費量が…」
「待った!……僕ですら自分の魔力量なんて把握しきれてないんだよ?何でリオが…」
アリアの機嫌のよさそうな声だけが響く。
「え?うーん、見えるからだよ?」
リオは少し考えて答えた。
ユリウスが目を見開く。
「魔力が?」
「うん」
リオはあっさりと頷いた。
口をあんぐりと開けてリオを見ていたユリウスは、深く息をつき、テーブルに頭を伏せる。
「先輩。考えるだけ無駄ですよ」
悟ったような瞳でイリスが言う。
その手はサンドイッチを掴み、口元へ運ばれる。
ユリウスは空を見上げ、大きく息を吐いた。
「ああぁあ……」 ──諦めとも情けなさともつかぬ声が、平和な昼下がりの空気を震わせる。
「リオ。あなた、学園で学ぶことなんてあるの?」
「確かに。何で学園に通おうと?」
二人に尋ねられて、リオは苦笑する。
「学園に通うか、父さんの特訓を続けるかの二択だったんだ」
イリスが哀れみの目を向けてくる。
「そんなに厳しいお父さんなの?」
「ううん、優しいよ。でも……ちょっと、重い?」
リオは遠い目をする。
「父さんは、誰にも負けないくらい、すごく強くて……俺にも強くあってほしいんだろうとは思う」
父が修行をつけてくれる理由は知っている。
リオが自分の身を守れるように。そう、ちゃんと伝えてくれているから。
「学ぶこと自体は楽しいんだけどね……俺だって、遊びたい時もあるよ……」
学園に通った方が、たくさん遊べそう。
それが、リオの中での結論だった。
「イリスは?」
リオの問いかけに、イリスは笑みを浮かべた。
「私は、お父さんと約束したの。学園を卒業したら、なりたいものになっていいって。先輩は?」
「僕は……ただ、勉強がしたくてね」
みんなそれぞれ、色々あるんだ。
そう思うと、胸の奥が少しだけ温かくなった。
リオは、もう一口サンドイッチを齧った。




