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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第2章 日常に潜む違和感
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第5話 騒がしい昼休み

 リオとイリスが食堂へ向かうと、人だかりができていた。

 一瞬、何だろうと思ったが、腹が鳴る。

 すぐに興味を失って通り過ぎようとすると、人だかりの中から腕が掴まれた。


 面倒くさいな、誰だろう、と視線を向けると、ユリウスだった。

 いつも爽やかな髪は少し乱れ、どこか疲れたような顔をしている。


「こんにちは、先輩。ではまた ──」


 会釈して去ろうとするが、腕を離してくれない。

 そうこうしていると、人だかりがリオの方を向いた。その目が輝く。


「朝のあれ、すごかったね!」

「新入生!?一年なのにやるね!」


 あっという間にイリスごと人に囲まれ、リオはぽかんとする。


「あの、俺、ご飯……」

「止め刺したのは風魔法だよね!剣から飛ばしたように見えたけど、どうやったの?」

「アクアプリズンごとってのがまたすごいよね。どうやってそんな威力を!?」


 矢継ぎ早に質問されて、リオは眉を寄せ、口をへの字に歪める。

 イリスの腰を抱え、ユリウスの腕を掴み返す。

 足に魔力を込め、詠唱を呟いて二人ごと高く飛ぶ。


「きゃあ!」

「うわっ!」


 人だかりから抜け出して着地すると、持ち帰り用のお弁当を素早く三つ手に取る。

 背後から声が聞こえるが、振り返らずに脱兎のごとく駆け去った。


 *


 食堂から少し離れたテーブル付きベンチに腰掛ける。

 リオはサンドイッチを頬張る。おいしい。


 リオの前には、振り回されてぐったりしているユリウスと、未だ呆然としたままのイリスがいた。


「助けには感謝するけど、腕がちぎれそうだ……」


 ユリウスが涙目で恨めしそうにリオを見る。


「ごめんなさい、でも──」

「でもじゃないよ!イリスなんて目を開けたまま意識飛ばしてるんだよ!?」


 リオがイリスの前で手を振ると、イリスの瞳の焦点が戻る。


「あ、おかえり」

「はっ。あれ?私…何が……」


 飛んでついて来ていたアリアだけは元気で、鼻先を飛ぶ蝶を追っていた。


「今朝の件が学園内で噂になっているらしい。リオが派手なことをするからだ」


 リオはもぐもぐと口を動かし、口の中身を飲み込んでから反論する。


「先輩が5分しか持たないって言うから」

「10分!僕は10分って言ったよ!」

「あの魔力量だと5分しか持たない、無駄遣いしすぎだよ」


 ユリウスが驚いたように目を見開く。


「魔法の発動までに、魔力を半分使ってた。10秒での魔力消費量が…」

「待った!……僕ですら自分の魔力量なんて把握しきれてないんだよ?何でリオが…」


 アリアの機嫌のよさそうな声だけが響く。


「え?うーん、見えるからだよ?」


 リオは少し考えて答えた。

 ユリウスが目を見開く。


「魔力が?」

「うん」


 リオはあっさりと頷いた。

 口をあんぐりと開けてリオを見ていたユリウスは、深く息をつき、テーブルに頭を伏せる。


「先輩。考えるだけ無駄ですよ」


 悟ったような瞳でイリスが言う。

 その手はサンドイッチを掴み、口元へ運ばれる。


 ユリウスは空を見上げ、大きく息を吐いた。

 「ああぁあ……」 ──諦めとも情けなさともつかぬ声が、平和な昼下がりの空気を震わせる。


「リオ。あなた、学園で学ぶことなんてあるの?」

「確かに。何で学園に通おうと?」


 二人に尋ねられて、リオは苦笑する。


「学園に通うか、父さんの特訓を続けるかの二択だったんだ」


 イリスが哀れみの目を向けてくる。


「そんなに厳しいお父さんなの?」

「ううん、優しいよ。でも……ちょっと、重い?」


 リオは遠い目をする。


「父さんは、誰にも負けないくらい、すごく強くて……俺にも強くあってほしいんだろうとは思う」


 父が修行をつけてくれる理由は知っている。

 リオが自分の身を守れるように。そう、ちゃんと伝えてくれているから。


「学ぶこと自体は楽しいんだけどね……俺だって、遊びたい時もあるよ……」


 学園に通った方が、たくさん遊べそう。

 それが、リオの中での結論だった。


「イリスは?」


 リオの問いかけに、イリスは笑みを浮かべた。


「私は、お父さんと約束したの。学園を卒業したら、なりたいものになっていいって。先輩は?」

「僕は……ただ、勉強がしたくてね」


 みんなそれぞれ、色々あるんだ。

 そう思うと、胸の奥が少しだけ温かくなった。

 リオは、もう一口サンドイッチを齧った。

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