第4話 痕跡なき探索
何故か教師は昼前、早々に帰ってしまったため、昼休みが長くなった。
リオとイリスは、中央広場に足を運んでいた。
水魔法の跡は乾き、魔獣の死骸も回収されていた。
ほんの少し赤みを帯びた石畳が、朝の出来事が現実だったことを静かに物語っていた。
二人は森へと足を踏み入れた。
木漏れ日がちらちらと揺れ、葉の音が耳に届く。
小鳥のさえずりも、遠くで止まったかのような静けさの中に混じっていた。
ちょうど魔獣が現れた木の下まで来ると、二人で見上げる。
木の幹には、鋭く刻まれた爪痕が生々しく残っていた。
「何か気になるの?」
「うん」
イリスの問いに、リオは小さくうなずく。
「先生が言ってたんだ。逃げ出した現場に、足跡や痕跡がほとんどなかったって」
イリスは眉をひそめる。
リオは幹をじっと観察し、声を低めて続ける。
「あの魔獣には爪があった。足跡はともかく、爪痕が付かないわけがないんだ」
幹には、確かに痕跡が残っている。
簡単な爪痕を教師が見逃すとは思えなかった。
「つまり?」
首をかしげるイリスに、リオはその辺りに落ちていた枝を拾い、地面に円を二つ描く。
「普通、生き物が移動すれば、何らかの痕跡は残るよね」
一方の円から、もう一方の円に矢印を引き、その下に簡単な足跡を描き足す。
「でも、今回の魔獣は急に学園に現れた」
矢印の先の円に、猿の簡単な絵を添える。
「うまいわね」
イリスが小さく感心する。
「ありがとう。つまり、地点1から地点2に空を飛んで移動したみたいなんだ」
「翼のない魔獣が?」
絵をのぞき込み、イリスが唸る。
「飛べないわよ、猿は」
「そうなんだよなあ…」
確か、他の魔獣も猿型だったと、教師が話していた。
「翼をもつ魔獣がいれば可能かも、でも魔獣同士が協力するのかも怪しいし……」
リオの思考は一瞬逸れる。意識を戻す。
さらにリオは、もう一つの違和感に気づいていた。
朝の出来事も広場での戦いも、リオが反応したのは魔獣の殺気ではなかった。
「何だったかな、あの嫌な感じ……」
思い出せそうで思い出せない。
リオは腕を組んで、首をかしげる。
森に差し込む光と影が、木漏れ日の揺れと共に揺らめく。
昼を告げる鐘の音が、静かな森に響き渡った。




