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アルの還る場所  作者: 無名の記録者
第2章 日常に潜む違和感
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第1話 微かな揺らぎ

 リオは目を開け、眉をひそめた。

 今日も風は爽やかだ。

 しかし、どこか胸の奥でざわつく、嫌な感じがする。


 険しい表情のまま無言で起き上がり、素早く制服を纏って身支度を整える。

 剣を手に取り、窓際で靴を履くと、そのまま窓枠に足をかけた。


 ──寮の近くの森に、何かある。


 身を乗り出し、窓から飛び降りる。

 足は静かに地面を捉え、着地の衝撃を和らげた風魔法の残滓があたりを震わせる。

 森の匂いと湿った土の感触が、瞬間的に緊張を呼び戻す。


 駆け出そうとした、その瞬間。


 肩を誰かに掴まれ、息が詰まった。

 指先に緊張が走り、反射的に振り返る。

 剣の柄に手を添え──


 伸ばした手を宙に残したまま、呆然とこちらを見つめるユリウスの姿に、リオは我に返った。


「先輩…?」

「ああ、うん。おはよう」


 臨戦の構えをとるリオと、突っ立ったままのユリウス。微妙な間が漂う。

 ユリウスは首にタオルをかけ、動きやすい格好で汗を滲ませている。


「どうしたんだ?まだ朝早いのに」

「ええと、ですね…」


 リオは体の力を抜き、息を整えながら答えを探す。

 どう説明したものか。慌てていると、森の方から教師の一人が走ってきた。


「君たち、無事かい」

「先生?」


 ユリウスが首を傾げる。


「いやー、何事もなかったみたいで何よりだよ。実は、錬環区(アルケイン)の研究所から魔獣が逃げ出してね」


 リオとユリウスが同時に息をのむ。


「足跡もほとんどなくて、追跡は困難を極めていたんだ。そんな中、学園内で発見されたものだから、総出で討伐していたんだよ」

錬環区(アルケイン)から?学園に?」


 ユリウスの言葉に、リオは遠くを見る。

 学園は森よりも高い壁に覆われていて、夜間は門も閉まっている。


「猿タイプの魔獣だったから、壁を乗り越えたのかもしれないね。まあ、偶然だよ、偶然」


 教師はそう言って笑う。


「足跡がほとんどないって、そんなことあるんですか?何か痕跡は……」

「何も残ってなかったんだよ。……って、こら。君たちは首を突っ込まない」


 リオが質問するが、すげなくたしなめられる。


「とにかく、逃げた魔獣が潜んでいるかもしれないから、一人で行動はしないこと。異常があったらすぐ逃げるんだよ」


 登校も遅れないようにと言い残して去っていく。


 その後ろ姿を見送ったリオは、ユリウスの視線を感じ、肩をビクリと跳ねさせた。


「それで?君はどうしてここに?」

「あの…すごく嫌な感じがして、それで……」


 魔獣のせいだったのだろうか。

 リオはしゅんとして地面に視線を落とす。

 ユリウスがため息をつき、肩をすくめた。


「まったく…危ないから、一人で突っ走らないように。そういう時は僕を呼んでくれ」

「……はい」


 仕方ないな、という顔でユリウスがリオの頭にポンと手を置く。

 兄がいたらこんな感じだろうか──リオはそんな風に思って笑みをこぼした。

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