親族の必死な抗議
リオネル殿下の国外追放からしばらく経ち、王都の社交界はすっかり落ち着きを取り戻しつつあった。
だが、かの子爵令嬢メリッサの親族が、私――アローナ・グランツに異議を唱えに来るという話が持ち上がった。
ある日の午後、私の屋敷に一行の訪問客がやってきた。
主役はメリッサの伯父、アントン・ディーン子爵。
彼は顔を真っ赤にし、手には巻物と書類を握りしめている。
「アローナ嬢! 我が姪メリッサが不当に扱われた!」
必死に声を張り上げるも、その目は半ば焦りと苛立ちで泳いでいた。
従者や侍女たちは静かにざわめき、屋敷の奥からも使用人たちの興味深げな視線が向けられる。
「ふむ……」
私は優雅に扇子を広げ、微笑みを浮かべた。
「アントン子爵様。どうぞお入りくださいませ。お手紙と書類も一緒に拝見いたしましょう」
伯父は躊躇しながらも座り、巻物を広げた。内容は明らかに――メリッサの立場を守れという主張、アローナ嬢に対する非難の数々である。
「……なるほど。御姪様のことを、私が不当に扱ったと?」
私は軽く首を傾げ、扇子で口元を隠す。
「ええ、少々、勘違いがあるようですわ」
伯父は苛立ちを抑えきれず、声を荒げた。
「勘違いではありません! あの婚約破棄、国外追放の件――すべてアローナ嬢の策略ではないか!」
私はゆったりと身を起こし、優雅に答えた。
「アントン子爵様、まず確認させてくださいませ。殿下の行動はすべて、国王陛下の御裁断によるものですわね? その決定の前に、私が何か不当に手を下す余地などございましたか?」
伯父は言葉に詰まり、黙り込む。
私は微笑みを保ち、扇子で軽く彼の書類を指す。
「それに、御姪様の件も少し整理してみましょうか。殿下は婚約破棄を宣言、彼女は王太子の隣にいた。その結果、国外追放が決まった。それだけのことでしょう?」
伯父の顔はみるみる青ざめ、巻物を握る手が震えた。
私は扇子を閉じ、軽く一礼した。
「ですから、私が“悪”だとする根拠は、まったくございませんの」
使用人や侍女たちの小声の笑いが漏れ、伯父の視線が一気に泳ぐ。
どうやら、周囲の者たちもこのやり取りを楽しみにしているようだ。
「……く、くっ……」
伯父は巻物を握り締め、言葉にならない声を漏らす。
その様子はまるで、庭先で転んだ従姉妹リリアーナの再現のようだった。
「さて」
私は扇子を打ち鳴らす。
「もし抗議を続けるのであれば、社交界での記録、殿下の御裁断、そして御姪様の行動記録すべてを整理して、正確にご報告いたしますわ」
伯父は顔を真っ赤にし、ついに俯いた。
抗議に来たはずが、自らの浅知恵で恥をかく結果となったのである。
使用人たちが小声で笑い、侍女が「見事ですわ、令嬢」と囁く。
私は軽く扇子を閉じ、静かに微笑む。
――こうして、またひとつ。
ザマァの連鎖は、確実に続いていくのだ。
誰もが、自らの慢心を過信すれば、穏やかな微笑みひとつで簡単に粉砕される。
アローナ・グランツ、公爵令嬢としての誇りを胸に、今日も私は社交界で静かに、その刃を振るった。
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