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【完結】皮肉り令嬢は優雅に返す。  作者: 一ノ瀬和葉


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5/20

伯爵の浅知恵

王太子リオネル殿下の国外追放から数週間。

 王都の社交界は、まだその余韻でざわめいていた。人々は密かに笑いをかみ殺し、あるいは茶屋や市場で噂を交わす。

 そんな中、密かに動き出したのが、リオネル派の伯爵――アルフォンス・フォン・ハイデルである。


「アローナ嬢の評判を少しずつ傷つけておけば、殿下の味方として地位を回復できる……ふふ、うまくいくだろう」


 アルフォンスは微笑んだが、その目には軽薄さと慢心しかなかった。

 彼は公爵令嬢アローナを侮りきっていたのである。


 数日後、舞踏会の会場。

 アルフォンスは巧妙に仕掛けを用意した。

 ――アローナの社交界での地位を揺るがす、噂話と陰口の連鎖。

 彼の腹案は、周囲の令嬢や未婚貴族に「アローナ嬢は最近、王太子追放の件で感情的になっているらしい」と流布することで、信頼を失わせるというものだった。


「ふふ……今日も、皆が私の噂に耳をそばだてているはずだ」

 アルフォンスは心の中でほくそ笑む。


 しかし、計算外の出来事がすぐに起こった。

 アローナはその場に現れ、微笑みながら周囲を見渡す。


「皆さま、先ほどの噂を耳にされたでしょうか?」

 その声は柔らかく、それでいて鋭く周囲の視線を一手に集めた。


「アローナ嬢……」

 アルフォンスは微かに動揺した。


「私の“感情的”などというお話、事実ではございませんわ」

 私は扇子を軽く打ち鳴らす。

「十年にわたり殿下の婚約者として努め、毎日政務や家事、社交の礼儀を欠かさず務めてきたのです。もし私が感情的であるとすれば――それは日々努力してくださった殿下や、国王陛下に対して、失礼にならないためのものでしょう」


 会場は一瞬静まり返る。

 アルフォンスの顔が青ざめ、目が泳ぐ。彼の計画が一瞬で崩れ去った瞬間である。


「さらに申しますと、私の行動を歪めて噂を流すとは……まさか、この国の貴族が、ここまで愚かだとは思いませんでしたわ」


 周囲の令嬢たちはくすくす笑い、すぐにざわざわと囁き始める。

 「伯爵様の浅知恵が見事に裏目に出たようね」

 「噂の種を蒔いたつもりが、自分が笑われてるわ」


 アルフォンスは狼狽え、言葉も出ずに立ち尽くす。

 その背後では、使用人や侍女たちが小声で笑いをこらえ、密かに王宮に報告する者もいた。


 そして、思わぬところで国王陛下の耳にも噂が届いた。

 「アローナ嬢を陥れようとしたリオネル派のアルフォンス伯爵――社交界での工作が露呈した」


 国王は即座に陛下の書状を発し、アルフォンスを呼びつけた。

 王宮に現れた伯爵は、まるで小動物のように震え、顔面蒼白。


「陛下……弁明を――」

 しかし国王陛下は冷たく言い放つ。


「アルフォンス・フォン・ハイデル。お前の浅知恵と慢心、すべて承った。王都の秩序を乱し、令嬢の名誉を傷つけるなど、王族にあるまじき行為だ」


 アルフォンスは言葉を失い、ただ俯くしかなかった。

 王宮を出るときには、爵位剥奪や社交界での失脚が確実視されていた。


 その知らせが舞踏会の会場に届くと、令嬢たちは一斉に顔をほころばせた。

 「さすがアローナ嬢……またひとつ、ザマァを積み上げましたね」

 「伯爵の慢心も、微笑ひとつで粉砕」


 私は扇子を軽く閉じ、静かに微笑む。

 こうして、また一つ、王都におけるザマァの連鎖が加わったのだ。


 ――誰もが、自分の慢心を過信してはならない。

 それを知る者は、ただ微笑みを浮かべ、静かにその瞬間を見守るだけで十分なのだ。

ここまで読んでいただきありがとうございました

次話をもお楽しみください。


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アルフォンスって王族なんですか?
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