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【完結】皮肉り令嬢は優雅に返す。  作者: 一ノ瀬和葉


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4/20

侯爵子息の高望み

 社交界の茶会や舞踏会に顔を出すたび、私はどういうわけか求婚されることが増えた。

 まあ、当然といえば当然だ。

 十年も王太子妃教育を受け、政務や礼儀作法に通じ、しかも殿下を国外追放に導いた「伝説の公爵令嬢」。

 今や、私の名はそれだけで一種のブランドである。


 そんな中――ひときわ目立つ男が現れた。

 侯爵家の長男、クラウディオ。元々、リオネル殿下の婚約が決まる前に「次期王妃候補」として、ちらりと名前が出ていた人物である。

 つまり、私を「惜しくも逃した獲物」と思っているらしい。


「アローナ嬢」

 ある日の庭園パーティー。バラの花壇を背に、クラウディオが胸を張った。

「そなたの婚約が白紙に戻った今、私が拾ってやろう。感謝してもらいたいものだ」


 ……拾う?

 ごみ扱いでもされた気分だが、にこやかに微笑んでみせる。


「まあ、ご親切にありがとうございます」

「うむ! 私と結婚すれば、君の失った“王家の座”の代わりに侯爵家の座を与えてやろうではないか。安心したまえ!」


 周囲の令嬢方が「は?」と絶句する。

 本人は得意げに胸を反らし、顎を突き上げている。

 ……これは、なかなか手応えがありそうだ。


「クラウディオ様」

 私は扇子をゆるりと広げ、声を落とした。

「ご存じないのですか? 私は“王家の座”を失っておりませんわ」


「なに?」

「殿下は追放されました。つまり、いずれ次代の王は“別の血筋”から選ばれる。私のように十年政務を支え、実績を残した令嬢は、その候補の最有力。言うなれば――王妃候補のままですのよ」


「っ……!」

 クラウディオの顔から血の気が引いた。


 令嬢たちがざわざわと囁き合う。

「確かに……」

「公爵家の後ろ盾もあるし……」

「それを“拾う”なんて……」


 空気は一気に彼に不利に傾いた。


「それに」

 私はさらに追い打ちをかける。

「“拾ってやる”とは、面白い言葉選びですわね。まるで、侯爵家のご威光があれば、公爵家など足元にも及ばないと……そう仰りたい?」


「そ、そんなつもりでは!」

「では、訂正をなさいます?」

「……っ! し、失礼した!」


 クラウディオは真っ赤な顔で退散した。だが後ろ姿に、令嬢方の笑いをこらえる気配が突き刺さる。

 その日のうちに、「侯爵子息、拾う発言で大炎上」という噂が王都を駆け巡ったのは言うまでもない。


 ***


「高望みも、ほどほどになさいませね」


 帰りの馬車で呟き、窓外の夕陽に扇子をかざす。

 人を見下す者ほど、足元をすくわれる。

 それを証明するのは、実に気分が良い。


クラウディオが庭園を去ったあと、私は周囲に微笑みを向けた。

 令嬢たちはまだざわつき、口々に囁いている。


「いやぁ……あの侯爵子息、まさかあんなに赤くなるとは」

「拾うだなんて、恥ずかしい言葉選びですわ」

「アローナ様、やはり只者ではない……」


 私は軽く頭を下げ、扇子で口元を隠す。

 だがその視線の先では、クラウディオの従僕たちが眉をひそめ、何か口々に指示しているのが見えた。

 ……どうやら、まだ諦めてはいないらしい。


 その夜、社交界の噂はたちまち王都中を駆け巡った。

 「アローナ嬢、侯爵子息を完膚なきまでに論破」

 「拾う宣言、赤面で撤回」

 「公爵令嬢、笑顔ひとつで男の面子を粉砕」


 舞踏会や茶会のたびに、クラウディオはアローナの視線に怯え、顔を背けるようになった。

 これが、王都における“ザマァの連鎖”の始まりである。



ここまで読んでいただきありがとうございました

次話をもお楽しみください。


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― 新着の感想 ―
初めまして。貴殿の小説、色々楽しませてもらっています。 この章の文章でどうしても読解出来ない箇所がありましたのでお聞きします。  侯爵家の長男、クラウディオ。元々、リオネル殿下の婚約が決まる前に「次…
クラウディオが次期王妃候補だったみたいな文章になってますが、殿下との婚約が決まってアローナが次期王妃候補になる前に婚約の話が持ち上がりかけた、という意味で合ってますか?
侯爵子息が登場していますが、サブタイトルでは 公爵子息の高望み となっているので どちらかに合わせた方がいいかもしれません
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