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【完結】皮肉り令嬢は優雅に返す。  作者: 一ノ瀬和葉


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3/20

従姉妹のお手本

 舞踏会から数日。王都はまだ、リオネル殿下追放の話題で持ちきりだった。

 人々は口々に噂を飛ばし、笑いを堪えきれず、酒場でも市場でも替え歌が流行するほどである。


 そんな折、私は社交界に復帰するべく、母に連れられて茶会へ顔を出すことになった。

 その場にいたのが――わたしの従姉妹、リリアーナである。


「まあまあ、アローナ様。お元気そうで何よりですわ」


 リリアーナは上品ぶった笑みを浮かべつつ、わざとらしいほど大きな声を出した。

 居合わせたご令嬢方が、一斉にこちらを振り向く。


「でも……ふふっ。十年も殿下のお相手を務めて、結局“捨てられた”とあっては、お気の毒でございますわねえ」


 ああ、来た来た。

 心底うれしそうに人の不幸をつつくその顔。幼いころから、私の持ち物をこっそり盗んでは「見つけたの」と言い張っていた張本人だ。

 この場に集まった令嬢方も、耳をそばだてている。さて、どう料理して差し上げましょうか。


「リリアーナ様」

 私はにっこりと微笑み、カップを持ち上げた。

「お気遣い、痛み入ります。ですが……“捨てられた”という表現は正確ではございませんわ」


「えっ?」

 従姉妹は面食らったように瞬きをする。


「殿下は、十年を経てなお私を手放す理由を見つけられず、ようやく“愛の衝動”を盾に決断なさいました。結果として国外追放。つまり――私に十年縛られ続け、最後に国も位も失ったのです」


 場がしん、と静まる。

 わざとらしく驚いた顔をして、扇子を広げる。


「殿下をお気の毒に思うべきは、私ではなく、国を追われたご本人の方でしょう?」


 令嬢たちの口元が、一斉に震えた。くす、くすくす、と忍び笑いが広がる。

 リリアーナの頬はみるみる赤くなっていった。


「な、なによ……! そんなの、強がりですわ! どうせ殿下がいなくなって、あなたの縁談はもう――」


「まあ、まあ」

 私は軽く首を傾げ、彼女の言葉を遮った。

「十年ものあいだ“次期王太子妃”を務め、政務も礼儀も完璧にこなしてきた令嬢を求める家がない……と、本気でお考えで?」


「っ!」


 リリアーナの口が開いたまま閉じない。

 周囲の令嬢たちがどっと笑いをこらえきれずにうつむいた。


「むしろ、“あの殿下を追放にまで追いやった女”として、縁談のお話は山ほど。おかげで、忙しくて選びきれませんのよ。ねえ、お母様?」


 母はにっこりと頷き、わざとらしく分厚い手紙束をテーブルに置いた。

 縁談候補の家紋がびっしりと並んだ封蝋が目に入るや、場の空気は一気にざわめいた。


「こ、こんな……!」


 リリアーナの顔は紅潮し、椅子を蹴って立ち上がる。

 だがドレスの裾を踏みつけ、バランスを崩して――見事に前のめりに転倒。

 カップの紅茶が彼女の髪をつたって滴り落ちた。


「あら、まあ……お見事なお手前ですこと」


 私が涼しい顔で扇子を打ち鳴らすと、場は爆笑に包まれた。

 リリアーナは泣きながら駆け去っていったが、すでに遅し。

 この茶会の出来事は、次の日には「従姉妹のお手本」として王都中の噂になっていた。


 ***


「やはり、ザマァというのは甘美な響きですわね」


 夕刻、馬車で屋敷へ戻りながら、私は小さく呟いた。

 窓の外には沈む夕日。けれど私の心は、不思議と澄み切っていた。


 ――王太子を追放に導いたのも、従姉妹を笑い者にしたのも、すべて計算ずくではない。

 私はただ、真実を穏やかに告げただけ。

 それが相手にとっては、何よりも鋭い刃となる。


「次は、誰が私の前で躓くのでしょうね」


 扇子を軽く閉じる音が、心地よく響いた。

ここまで読んでいただきありがとうございました

次話をもお楽しみください。


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― 新着の感想 ―
リリアーナが「お気の毒」と笑った対象はアローナですよね? アローナの反論の台詞を前後の流れ無視して読むと、殿下のことを気の毒だと言うのは私ではなく追放された本人=殿下だ、となってしまうと思うのですが、…
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