Popping!!
君の好きなジュースは、レモンの味の、炭酸のきついやつ。
中学まで部活のルールで炭酸飲料を禁止されていた反動か、君は私が飲みきれなかったそれを代わりに飲んで以降、そればっかり飲むようになったね。
私は炭酸飲料が嫌いだ。飲み物としては、というよりその存在をあまり好きになれなかった。
炭酸があるうちはいい。
現れては弾ける無数の気泡が、まるで無限の世界を内包ししているようで、見てて飽きないから。
舌の上で踊る爽やかな甘みと刺激が、私の心を弾ませるから。
だけど、炭酸が抜けてしまうと、炭酸飲料はただの甘い水になってしまう。
炭酸の存在が、それを特別にしているから、特別にしてしまったから、炭酸の抜けたそれは、もう普通の飲料より劣ってしまう。
幸せなんてものは、いつまでも続かない。魔法が解ければ、残るのはむなしい現実だけ。
そんなの当たり前だって分かってても、一度最高の幸せを知ってしまうと、それ以降がどうしても惰性に思えてしまう。
だけど、そんなことないって、君が教えてくれた。
初めて君とキスしたとき、あのレモンの味がしたんだ。
あの時君、どうせまたあのジュースを飲んでたんでしょ?
私達の出会いのきっかけの、あのジュース。
君の口から伝わったのは、レモンの味だけじゃなくて、弾けるようなあの感覚もあった。
君の口に炭酸が残ってるはずないのに、そう感じた。
炭酸が無くったって、あのジュースは私を幸せにしてくれる。幸せの在りかを教えてくれる。
最高の幸せがいつまで続くのかは分からない。でも、二人の幸せな記憶は、決して消えない。それを君が教えてくれ。
教会のベルが鳴る。緊張するなあ。でも君はどうせ、待ち時間もあのジュースを飲んでいたんでしょう?
君と、私の視線が交わった。肩に置かれた君の手が震えている。そのくせ顔はどうってことないみたいな澄まし顔。
そんな君の姿を見て、一瞬吹き出しそうになった。何とか我慢したけど、私だっていっぱいいっぱいなのに、君ってやつはいっつもそうだ。
君の顔を見つめる。見つめれば見つめるほど、もうどうしようもないほどに君のことが好きなんだって気づかされる。
視線と視線が、心と心が、そして、人生が、君と交わっていくのを感じる。
神父様が言葉を紡いだ。
そして、私たちはキスをした
嗚呼、もう、やっぱり。せっかくの誓いのキスなのに、またあのレモンの味と、幸せな刺激が全身を駆け巡る。
今まで何回もキスしてきたのに、これじゃあ初めてのキスと変わらないね。
私たちが付き合って、数年の月日が流れた。
だけれど、
炭酸が抜けることはなかった。今でも現れては消えるあの泡は、二人の可能性を乗せて空に向かって弾けている。
君の好きなジュースは、レモンの味の、炭酸のきついやつ。
私はそのジュースを飲まないけれど、それがもたらす幸せを、私は知っている。ずっと、覚えている。
これから先、君と笑うたびに、唇を、心を交らせるたびに思い出すんだろうな。
これからも、よろしくね。
、、、ずーっと、大好きだよ!