第5話:剣と魔法の舞い
アストリア王宮の訓練場は、ここ数日間で俺にとって馴染み深い場所となっていた。
鋼のぶつかり合う音、兵士たちの叫び声、踏み固められた地面を踏む靴音のリズム——これらは今や俺の日課の一部だった。
しかし、今日は違った。今日、クロティルダ王女は俺に何か特別なものを見せると約束してくれたのだ。
「あんたの剣の腕はここ数日でもっと上がっているな」
と彼女は言い、その声にはわずかな称賛が含まれていた。
「でも、真のアストリアの戦士は鋼だけを振るうわけじゃない。あたしたちは王家の血を剣に注ぎ、普通の兵士が夢見るような力を解き放つものだぞ」
俺は眉を上げ、興味をそそられた。
「魔法の剣技?」
王女は笑みを浮かべ、その青い目にはいたずらっぽい輝きがあった。
「そんなところだ。でも、ただ剣を振り回して派手な言葉を叫ぶだけじゃないんだ。集中力と規律、そしてあんたの血管を流れる力を引き出すことが重要なんだ」
彼女は俺に一振りの剣を手渡した。
その柄には複雑なルーンが刻まれており、日光にかすかに輝いていた。
「これは王家の剣だ」
と彼女は説明した。
「王家の血を持つ者の魔法と共鳴するように鍛えられたもの。試してみろ」
柄を握り、手に奇妙な温かみが広がるのを感じた。
ルーンは輝きを増し、剣を上げるとさらに強く光った。
それはまるで……生きているかのようで、俺自身の体の延長のように感じられた。
「さあ」
と王女は後ろに下がりながら言った。
「呼吸に集中して。あんたの中にあるエネルギーを感じて。そして、準備ができたら、打ち込むのだ」
目を閉じ、深く息を吸った。手の温かみは強くなり、心臓の鼓動と共に脈打っていた。
俺は自分の中に何かがうごめいているのを感じた——今まで知らなかった力だ。
そして、叫び声と共に剣を振り下ろした。
剣からエネルギーの波が迸り、三日月のように空気を切り裂いた。
それは訓練用の人形に直撃し、木っ端みじんに砕け散った。近くの兵士たちは立ち止まり、畏敬と驚きの表情で見つめた。どうやら、この特別性の王家用の魔剣は、王族の血に産まれた高貴な者だけが魔剣技を使用でき、それは他国の王族の場合も同じことだ。
「このような強力な魔剣をアストリアが何本も持っているのか?」
「うむ!王族は常に剣を必要としているから、王家に仕えてきた素晴らしい魔導士に複数も依頼で作ってもらったものだ。よって、あんたに貸すことも可能だろう。......同盟が成立し、あたしと....いや、忘れてくれ、ふん!」
クロティルダも俺の放った魔剣技に対して、満足げな笑みを浮かべた。
「まあ、初めてにしては悪くないぞ。でも、あたしに追いつくにはまだまだ早い!」
「そうかぁー」
「うむ!なら見せてやる!あたしの力を」
王女は前に進み出て、彼女自身の剣が鮮やかな青い光を放ち始めた。
彼女の動きは優雅で正確で、ほとんど催眠術にかかったように見えた。剣はその軌跡に光の尾を引き、そして彼女は叫び声と共に特別な力を解き放った。
「はああ――!!フロストファング・ストライク!」
と彼女は叫び、剣を大きく振り下ろした。
剣から氷のエネルギーが迸り、その進路にあるすべてを凍りつかせた。
彼女の足元の地面は霜に覆われ、空気は息が白くなるほど冷え込んだ。エネルギーが消えると、訓練場は薄い氷で覆われていた。
目を見開いて見つめた。
「..…す、すごい!」
クロティルダは俺の感嘆とした声に肩をすくめたが、その目には誇らしげな輝きがあった。
「大したことじゃないぞ?ただの小さな技だ」
「小さな技?」
と信じられないというように繰り返した。
「君は訓練場を冬のワンダーランドに変えたんだぞ!」
「...ワンダーランド、というのはどういう意味の言葉か分からんが、これは大したことじゃない。自分の手足のように自由に操れる魔法剣技だ。だから何もすごくないぞ?ふはは!」
彼女は笑った——その笑い声は豊かで本物だった。
「あんたもいずれあたしみたいな強い魔法剣技になるのだぞ、アミール王子。でもまずは、自分の力をコントロールする方法を学ぶ必要がある。もう一度やってみろ」
「分かった」
と短く返事した俺は王女の指導の下、訓練を続けた。
.................
白い王女と褐色王子が訓練している間、マリク隊長は王宮の敷地内を探索していた。
親衛隊長として、彼は外国の王国であっても俺の安全を確保する義務があった。しかし、今日は庭園の近くに立つ一人の人物に目を奪われた。
彼女は背が高く、優雅で、真っ白い肌と日光にきらめく銀色の髪をしていた。
彼女のドレスはシンプルながらも上品で、その目——鮮やかな紫色——は庭園に咲く花々を見つめていた。マリクは一瞬ためらったが、それから彼女に近づいた。
「おはようございます」
黒人男性であるマリクは礼儀正しく、しかし慎重な口調で白人令嬢に挨拶した。
「庭園を楽しんでいらっしゃるようですね」
「ん?」
その女性は彼の方に向き直り、落ち着いたが好奇心に満ちた表情を浮かべた。
「美しいでしょう?この厳しい風景で知られる王国では珍しい光景ですね、えっと、...」
マリクはうなずき、彼女を見つめ返した。
「私はマリク・イブン・ハルーン、アル=ミラージュ王国の親衛隊長です。そしてお嬢さんは?」
「グロリア。グロリア・デユ・モンターニュと申します」
と彼女は柔らかく、しかし自信に満ちた声で答えた。
「モンターニュ公爵の娘です。お会いできて光栄です、隊長」
二人はすぐに打ち解け、庭園からアストリアの政治情勢まで、あらゆることを話し合った。
マリクは彼女の知性と機知に引きつけられ、グロリアはアル=ミラージュ王国の話やアミール王子への彼の揺るぎない忠誠心に興味を抱いた。
「そうですか?アル=ミラージュにはそんな文化も?」
「はい。この半島に上陸する前の遥か昔に、南大陸にはいつも女神ルナラ様に祈りを捧げる場所をオアシスや砂浜にて建てられた小さな神殿でしたが、今はすっかりと大きな大神殿が王都に建てられたので、信仰の始まりを忘れられぬよう、今でも大神殿の中には小さなオアシスみたいなプールとそれを囲んでいる外から持ってこさせた砂で中を飾っています」
「まあ、それは素敵な話ですね~。是非見てみたい!あ、でも、...わたしみたいなアストリア人も中へ入れますか?」
と、物欲しそうに聞くグロリアに、マリクが、
「......普通、ルナラクシュヴァラ教の信者でもなければ、大神殿へ入ることは許されませんが、大神官の許可を得れば、信者でもない方でも特別に入ることを許されます。でも、その場合はまず申請を提出してからじゃないと」
「...面倒ですけど、何故か面白そうなので、一度は入ってみたいですね~」
と、マリクとグロリアが話していると、もう一人の人物が近づいてきた——炎のような赤い髪と鋭い計算高い視線を持つ貴族らしき女性だ。
彼女はグロリアの親友で、アストリアの宮廷で重要な地位を占めるアンドルーズ公爵家のベアトリスだった。
「グロリア」
とベアトリスは甘いが鋼のような口調で言った。
「新しいお友達ができたようですわね。その...」
「あ、ベアトリスです!奇遇ですね、わたしも貴女のことを紹介しようかと思ってたところです~」
グロリアは微笑んだが、その表情にはわずかな緊張が漂っていた。
「ト、トリス、こちらはアル=ミラージュ王国のマリク・イブン・ハルーン王子直下新鋭隊長よ。隊長、こちらはベアトリス・ドュ・アンドルーズです」
マリクは頭を下げて敬意を示した。
「お会いできて光栄です、ベアトリスさん」
ベアトリスの目はわずかに細くなり、彼をじっと見つめた。
「こちらこそ、隊長。アナタのことはよく聞いていましてよ。どうしてアストリアにいらっしゃったんですの?」
「アミール王子の外交任務に同行しているからです」
とマリクは中立の口調で答えた。
ベアトリスの視線は彼に留まり、その好奇心が高まっていた。
「アナタの肌」
と彼女は突然、ぶっきらぼうな口調で言った。
「とても……黒いですわね。そ、そんな肌は見たことがありませんわー。なぜですの?」
「トートリス!」
「......」
...............
その質問は空中に重くのしかかり、居心地の悪い沈黙が広がった。
グロリアの目は驚きで見開かれ、彼女はまたも口を開いて割り込もうとしたが、マリクは手を上げて彼女を止めた。
「大丈夫です」
と彼は冷静で落ち着いた声で言った。
彼はベアトリスの方に向き直り、思慮深く、しかしひるまない表情を浮かべた。
「私の肌が黒いのは、私の祖先が太陽がより強く照りつけ、大地がより豊かな土地から来たからです。それは私の出身地を示すものですが、私を定義するものではありません」
彼は一瞬黙り、その視線は揺るがなかった。
「あなたの白い肌があなたの家系を示すように、私の肌は私の家系を示します。しかし、私たちは肌の色以上の存在です、ベアトリスお嬢さん。私たちは行動、選択、そして触れる人生の総和なのです。私の使命はアミール王子を守り、アル=ミラージュに仕えることです。それが私の存在意義です。それ以外はただの……地理的なものに過ぎません」
庭園は沈黙に包まれ、彼の言葉の重みが毛布のように彼らを覆った。
ベアトリスの表情は好奇心から尊敬に近いものに変わったが、彼女はそれをすぐに隠した。
一方、グロリアは新たな敬意を込めてマリクを見つめた。
「素晴らしいお言葉です、隊長」
とグロリアは柔らかく、しかし心からの声でつぶやいた。
ベアトリスはうなずいたが、その口調はまだ警戒心に満ちていた。
「アナタは見た目以上のものを持っているようですね、マリク隊長」
マリクは微笑んだが、その目には鋼のような強さがあった。
「いつもそうなのです、ベアトリスお嬢さん。いつもそうなのです」
..............
マリクとグロリアが会話を続ける中、ベアトリスの表情は暗くなった。
彼女はグロリアに身を寄せ、声を低くして言った。
「気をつけて、グロリア。あの男は信用できませんわ」
グロリアは眉を上げた。
「どうして?」
「だって」とは鋭い口調で言った。
「彼はワタシ達の仲間じゃないわ。そして、これからもそうなることはありませんわよ」
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