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第18話 流汗滲血/戦場の上で

 鍵玻璃(きはり)は、眼下の景色に圧倒されていた。


 立っているのは、ネオンライトのブロックで構築された己の舞台(エデン)。その下に、広大な都市が広がっていた。


 近未来的な白い建材で作られた、ヨーロッパ風の意匠を取り入れた摩天楼。そこには、獣人や妖精などファンタジックな住民たちがいて、紙吹雪をまきながら空へ歓声を上げている。


 民の声を浴びるのは、上品な光を落とす空母のようなシルエットである。


 大きい。ひとつの街を戴くそれは、ステージの下に滑り込み、上昇してくる。


 ライブステージの底が着陸したのは、これまた広い円形広場。その半分を埋め尽くすステージの対面で仁王立ちした流鯉(りゅうり)が、自信満々に尋ねて来た。


「ようこそ、わたくしのエデンへ。歓迎いたしますわ、肌理咲(きめざき)鍵玻璃(きはり)


「……お呼ばれされたところ悪いけど、長居するつもりはないの。始めてくれる?」


 都市に圧倒されていた自分を押し隠して挑発すると、流鯉は眉をひくつかせ、羽根ペン型D・AR・T(ダアト)を真横に振るった。


「まったく可愛げのない! 驚いたなら驚いたと、素直に言えばよろしいのに!」


 ふたりに手札が配られ、ゲームが始まった。


 先攻は流鯉(りゅうり)からだ。地面から現れた台座に持ち上げられたお嬢様は複数の手札をタップする。


「レリック、“戴冠の触れ書き”を配置! “老錬の教剣師(ブレイドマスター)”、“リトルメイド・セリエ”、“漫遊伯(まんゆうはく)ロジャース”を召喚! レギオンスキル!」


 機械の鎧を纏った老剣士、メイドの少女、旅慣れた様子の紳士が同時に姿を現し、紳士がボフンと煙に変わる。


 ハザードカウンターが0から3に増加し、新たに手札が3枚増える。


 一瞬で手札を入れ替えた。鍵玻璃(きはり)D・AR・T(ダアト)に隠れた目元に驚きを封じ込めたが、流鯉(りゅうり)には見抜かれてしまっていた。


「何を驚いているのです? 自殺型(スーサイドタイプ)のデッキは、今時珍しくもないでしょう?」


「そう。……進めて」


「いいでしょう。“漫遊伯(まんゆうはく)ロジャース”、“リトルメイド・セリエ”のスキルはこれにて解決。次は“老錬の教剣師(ブレイドマスター)”! 自身のハザードカウンターを+1。“祝誕の姫ドラグリエ”1体を場に出し、パワー+1000!」


 羽根ペン型D・AR・T(ダアト)を回転させて振り上げる。


 すると突如、壮麗な鐘の音が響き渡った。


 天使が降臨するかのように天からスポットライトが差し込み、照らされた地面が光の粒を沸き立たせる。


 金色の粒子が集まって、作り出すのはドレスを纏う少女の輪郭。それが弾けた後に現れたのは、幼いお姫様だった。


 竜の鱗模様のドレスはどこかサイバーチックで、美しさと機能性を両立させる。


 まだ幼いながらも凛とした顔立ちは、確かな将来性を感じさせるものだった。


「彼女こそわたくしの分身! 祝福されて生まれ、成長していく王の子ですわ! ドラグリエの成長こそがこのデッキの真骨頂。とくと味わっていきなさい!」


「ターンエンドならそう言って」


「ふん、無粋もここまでくれば清々しく思えますわね。……ターン終了ですわ」


 姫の隣に老いた機械騎士が並び立つ。“祝誕の姫ドラグリエ”は、見様見真似で騎士の構えを真似て立ち、その手に光を固めたような刃の剣を握った。


 戦意は充分あるものの、どこか硬い立ち姿。ドラグリエの背を見つめ、流鯉(りゅうり)は相手に向き直る。


 さて、どう出てくるか。流鯉は手札と相談しながら、出方を伺った。


 入学式の対戦を見るに、鍵玻璃(きはり)はレギオンを強化して数を揃え、攻撃してくるという単純な戦法を得意としている。


 搦め手には弱いようだが、きっとその辺りの対策も持っているだろう。それ以外に色々隠している可能性も捨てきれない。


 いずれにせよ、すぐにわかる。メラメラと燃える闘志をどうにかコントロールしていると、すぐにターンが戻って来た。


「ドロー。ターンエンド」


「……!?」


 流鯉(りゅうり)は目を見開いて固まった。


 拍子抜けを通り越し、信じられないという気持ちが湧いてくる。まさか、何もしてこないなんて。


 ―――もしや、手札に出せるカードがないとでも? 確率的にゼロではないはず。


 ―――でも、それにしては……。


 鍵玻璃(きはり)の様子は淡々としている。想定外のトラブルに遭ったという感じでも、戦う手段がなくて焦っている風でもない。


 流鯉が真意を測りかねていると、鍵玻璃は機械のように呟いた。


「あんたのターンよ」


「……何を狙っているのかは知りませんが、無防備にターンを渡したことを後悔なさいな! わたくしのターン!」


 一度考えるのをやめ、流鯉(りゅうり)はカードをドローする。


 相手の意図がなんであっても、攻撃あるのみ。でなければ勝てないのだから。


 何もしない鍵玻璃(きはり)とは逆に、惜しみなく手札をつぎ込む。


「御覧なさい! 未来を嘱望(しょくぼう)された姫君は、多くの者から知識と王の心得を授かります! 誓願成就、“重責抱擁(じゅうせきほうよう)”、“叡智の()()”!」


 ドラグリエの足元から光の柱が立ちのぼり、螺旋状の波動を纏う。


 流鯉の隣にヨーロッパ風の紋章をモチーフにしたカウンターが出現し、中の数字が3から5に変化した。


 これにより、ドラグリエに新たなスキルが付与される。


「“レガシーバトラー”を召喚! この時、ドラグリエのスキルがふたつ発動しますわ! パワーを+1500、そして2枚ドロー!」


 ドラグリエが覚束ない手つきで剣を掲げる。


 その切っ先が煌めき、光の粉を散らしてドラグリエに降り注がせた。パワーが3500にまで跳ね上がる。


 既に並のレギオンでは太刀打ちできない力を得た姫を前にして、鍵玻璃(きはり)は興味なさそうに指先に髪を巻きつけていた。やる気の無さを隠しもしない。


 その態度が、流鯉(りゅうり)の神経を逆撫でしてくる。


 対戦を要求したのは向こうの方だ。なのにどういうつもりだろう。


 奥歯をギリッ、と鳴らして、流鯉は叫ぶ。


「こっちを見なさい、肌理咲(きめざき)鍵玻璃(きはり)! 対戦中ですわよ!」


「見てるから早くして。攻撃するの、しないの?」


「ぐ……っ! ドラグリエとセリエで攻撃!」


 メイドの少女が箒で鍵玻璃(きはり)を殴りかかり、ドラグリエは剣の切っ先を引きずるようにして疾駆する。


 腕で箒を防いだ鍵玻璃に、ドラグリエの斬撃が襲い掛かった。


 ドット絵のドクロがハザードカウンターの増加を通知。流鯉(りゅうり)は緊張に喉を鳴らした。これで奮戦レベル2になり、手札事故も解決するはず。


 しかし、当の本人は攻撃を受けた余波に顔をしかめるだけで、何もしなかった。


 流鯉はいよいよ相手の真意を察し、砕けそうなほど歯を食いしばる。


 こちらにはあと2回の攻撃が残されている。これが通れば鍵玻璃は敗北するというのに、彼女の心は対戦に向いていない。


 ―――負けてもいいと? 私との対戦なんて、どうでもいいと!?


 頭の奥で、張り詰めていた平静の綱が引きちぎられる。


 流鯉は対戦中であるのも忘れ、喉が割けんばかりの怒号を放った。


「どこまでわたくしを虚仮(こけ)にすれば気が済むのです、肌理咲(きめざき)鍵玻璃(きはり)―――ッ!」


 鍵玻璃は何も言わず、流鯉(りゅうり)を冷たい目で見つめていた。


 どこ吹く風のすまし顔。覇気も無く、動かないと意思表示するように腕を組んだ鍵玻璃は、鼻から溜め息を吐いて肩を竦めた。


「何。あと二発でトドメよ。で、私はあんたのメイドになればいいんだっけ」


「……ッ! あなたはそれでいいのですか!? 無抵抗のまま敗北すれば、わたくしにへりくだる羽目になるのですよ!?」


「だから?」


 あまりにも淡々とした回答に、もはや怒りも忘れて絶句してしまう。


 流鯉(りゅうり)は巨大なハンマーで顔面を殴られたような気分になりながら、ふらつきそうになる体を支える。


 入学式の日、生徒会長の話を聞いた時、流鯉の胸には悔しさと高揚があった。


 追い越されたのは悔しいが、鍵玻璃(きはり)の実力は本物だろう。きっと、相応の研鑽を積んできたのだ。


 わかっていても悔しくて。替え玉に過ぎない自分が屈辱的で。だからこそ、必ず乗り越えてみせると誓った。あわよくば切磋琢磨して、より高みを目指すライバルになり得ると、そう思っていたのに。


 鍵玻璃は衆目の前であっさり下され、学校にも来ず、妹をひたすら避けた。流鯉の挑戦状も袖にして。


 一時は挫折して、ドロップアウトしたのではとも考えた。だが、こうして彼女は自分に挑んで来た。父との謁見と、流鯉への従属を賭けて。なのに……。


「いい加減にしてくださる!? 負けてもいいなら、これはなんのための決闘ですの!? 勝ちを譲ればわたくしが満足するとでも!? お情けで要求を呑むとでも!? 人を侮辱するのも大概になさい!」


「別に。単に手間が省けたってだけ」


「は……!?」


 鍵玻璃(きはり)は小さく肩をすくめる。


 鍵玻璃の目的は、才原辰薙と死神について話し合い、協力を得ることだ。それが叶うなら、使用人ごっこをするぐらい、どうってことはない。なんなら、自然に近づくチャンスを得たとさえ言える。


 ゆっくりと息を吸う。景色は移ろわず、砂漠が重なって見えたりしない。今朝、久しぶりに飲んだ薬の影響もあって、気分は至ってフラットだ。


 ―――大丈夫、ちゃんと区別はつけられてる。気持ちも落ち着いてる。


 胸に手を当て、一定のリズムを刻む心臓の音を感じ取る。特に思い入れもない同級生との、負ければいいだけの対戦の、なんと楽なことか。


「もちろん勝つ方が手っ取り早くはあるけど、あんたのメイドになっても会う機会は作れるだろうし。外堀から埋めていくのも悪くないかなって」


「あ……あ な た は ぁ……ッ!」


 流鯉(りゅうり)の視界が真っ赤に染まる。


 条件を間違えた流鯉にも非はあると言えなくもない。が、それなら即座にリタイアすればいいはずだ。どうして攻撃される必要がある? それで流鯉の心が満たされるとでも思っているのか?


 鍵玻璃(きはり)は相手を迎え入れるかのように、両腕を広げた。


「早くトドメを刺してもらえる? それで決着。あんたは晴れて学年トップ。良かったじゃない」


「いい訳……ありませんわ……ッ!」


 流鯉(りゅうり)は、左頬から唇までをまとめて噛んだ。


 口の端から血が垂れる。舌の上に濃い血の味が広がったところで、虚空を羽根ペンの先で突く。


 呼び出したのはリタイアボタン。押せば、この対戦を終了できる。相手に戦意がない以上、続けたって意味はない。


 一方で、別の思考も割り込んで来た。


 ―――降参(リタイア)する? こんな相手に?


 残った冷静さに問いかけられて、手が止まる。


 勝負を投げ出すなんてあり得ない。だが相手に勝つ気が無いのなら、続けたところで何になる。


 でも、それでは永遠に鍵玻璃(きはり)に勝てない。彼女をメイドにすると言ったのは、屈従を強いて対抗心を焚きつけ、切磋琢磨する相手として傍に置きたかったから。


 ここで背を向ければ即ち、自分にはその程度の器量しかないと言ってしまうようなもの。どのみち、彼女を下して躾けてやればいいではないか。だが、だが……。


 葛藤が、流鯉を圧し潰そうとする。


 悔しい、悔しい、悔しい。なんとか鍵玻璃の戦意を燃え立たせたい。奮い立った彼女を打ち負かしたい。そうでなければ意味がない。


「ぐぎぎぎ、ぐ……ぎぎっ!」


 幽鬼のように呻きつつ、流鯉(りゅうり)は考える。


 何かないか、鍵玻璃(きはり)を本気にさせる一手は。


 しかし、名案は浮かんでこない。手をこまねいている間にタイムアップ。ターンは鍵玻璃に移り、またすぐに返ってくる。


 トドメの隙を逃したというのに、攻めてくる気配は一切なかった。


「何してるの? 早くして」


「~~~~~~~~~~~~~っ!」


 流鯉(りゅうり)は怒髪天を衝きながら、限界まで冷静な思考を繋ぎ止めようとする。


 何かないか、何か。褒賞でも屈従でもなびかないなら、別のもので鞭を入れてやるしかない。例えば、彼女の大切なものを奪うとか。


 ―――大切なもの……彼女が大事にしているもの。


 ―――そんなのわたくしが知るわけ……いや。


 その時、ピンと閃いた。湧いたアイデアが頭を急速に冷やし、具体的な理屈を素早く捏ね上げていく。肩からすぐに力が抜けた。


 さすがの鍵玻璃(きはり)も、流鯉の変化に疑問を抱いたようだった。怪訝そうな顔をする対戦相手に、流鯉は咳払いをして語りかける。


「条件を確認しますわ。わたくしが勝てば、あなたはわたくしに仕え、公私ともにサポートする。よろしくて?」


「それで構わないって言ったはずだけど。まさか、条件を変えるつもり?」


「いいえ、そんなことはしませんわ。ですが大事なことを失念しておりました。わたくしが勝ったあと、あなたと交わす雇用契約についてですわ」


「雇用契約?」


 鍵玻璃(きはり)が眉を片方吊り上げる。


 リタイアも、戦いが始まってからの条件追加も、流鯉(りゅうり)の流儀が許さない。そんな詐欺師まがいのことなど、できはしない。


 だがこれならばどうだ。


 流鯉は力強く半歩踏み出し、人差し指を突きつけた。


「あなたがわたくしのメイドになった暁には、あなたのエデンズカードを全て没収いたします! もちろん、“救世(きゅうせい)女傑(スター)メリー・シャイン”も含めて、全て!」


「……っ!? メリー・シャイン、を……!?」


 鍵玻璃(きはり)の無気力なポーカーフェイスがようやく崩れた。


 会心の手応えだ。流鯉(りゅうり)は内心でガッツポーズする。


 やはり図書館で見せつけてきたあのカード。意味深な言葉とともに、条件として提示してきたあれこそ、鍵玻璃にとっての泣き所。


 単なる直感に過ぎなかったが、大当たりを引いたらしい。


 鍵玻璃は明らかに動揺し始めた。体をきつく強張らせ、紅潮した首筋を手袋越しに掻き毟る。


 煙に巻かれたが如く昏く濁った瞳の奥底に、感情の光がスパークしていた。


「……何言ってるの。そんなの、通るわけが……!」


「通ります! この界雷(かいづち)マテリア総合学院において、エデンズの勝敗こそが最後の審判! 後から条件を変更するなど許されませんが、わたくしは条件を変えてなどいません。ただ、どのように執行するかを明かしたのみです!」


 我ながらひどい詭弁だったが、ともかく鍵玻璃(きはり)に一杯食わせた。流鯉(りゅうり)は意趣返しを決めた快感をなだめつつ、退路を塞ぐ。


「言っておきますが、リタイアは即ち敗北ですわ。まあ、黙って大事なカードを差し出したいというのであれば、止めませんけれど」


「くっ! さっきは、自分が降参しようとしてたくせに……!」


「ええ。激情のあまり血迷うなど、わたくしもまだ未熟ですわね」


 前髪をかき上げ、いけしゃあしゃあと言ってやる。


 さっきまでは鍵玻璃(きはり)にペースを握られていたが、これで形成逆転だ。


 そう思った矢先、鍵玻璃はステージから身を乗り出してから叫んだ。


「審判……仲介役の生徒会役員は!? エデンズでの解決には、仲介役が要るのよね! まさか、あんたがそうだなんて言わないわよね……!」


「言いませんが、お忘れですか? わたくしはあなたと戦いに来たのです。話こそ一対一で聞きましたが、こうなることも予期して仲介役も呼んでいますわ。わたくしも生徒会役員ですので、ええ。その辺りのことはしっかりと把握していますとも」


 これは(ブラフ)だ。仲介役は呼んでいない。正真正銘、ワン・オン・ワン。だが、それを確かめるには勝負をつけて、エデンを出なければならない。


 その上で、流鯉(りゅうり)には嘘を誠にする方法がある。


 生徒会活動用のD・AR・T(ダアト)を後ろ手に隠しながら、敢えて高慢そうに笑った。


 言質は既に録音済みだ。これと対戦記録を提出すれば、事後報告でも問題ない。


 鍵玻璃(きはり)は奥歯を小刻みに鳴らし、手袋が裂けそうなほど強く拳を握った。それと同時に、タイムアップ。再び鍵玻璃のターンが回ってくる。


 流鯉は最後の一押しを入れに行く。


「さあ、あなたのターンですわ! 決断なさい。勝負するのか、しないのか! カードを失いたくないのなら、わたくしに勝つ以外ありませんわよ!」


 鍵玻璃(きはり)はうつむき、しばしの間黙り込む。


 肩をわななかせる彼女を眺め、流鯉(りゅうり)はただ期待して待つ。ややあって、鍵玻璃の隣にドット絵のドクロが現れた。


 その鼻面に黒手袋を嵌めた拳が命中。ファンシーなドクロは、ブブーッと抗議のサウンドを出す。


 ドクロの顔面を鷲掴みにした鍵玻璃は、微かに顔を上げて呟いた。


「……内定、やっぱり辞退する。あんたの下で働くなんて、まっぴら御免よ!」


「ならば、かかって来なさいな!」


 流鯉(りゅうり)は高揚と勝利の決意を胸に抱いて、鍵玻璃に真正面から啖呵を切った。


 感情をむき出しにした鍵玻璃(きはり)はドクロを高く振り上げた。


 恐怖が一瞬、その腕を押しとどめる。また変身する気かと。


 眠らせていた狂気を叩き起こして、恐れと懸念を振り払う。ありすを慰めた時に感じたデジャヴが、猛獣じみた衝動を掻き立ててくる。


 気勢を上げながら力を込めてドクロを足元に叩きつけた。


 ステージの床に叩きつけられたドクロが、閃光弾みたいに炸裂する。


 光は流鯉(りゅうり)の空中城砦を飛び出して、レトロな電子音を伴いながらステージを変化させていく。


 目も開けていられないほどの光の中で、鍵玻璃(きはり)は己の決意を掘り起こす。ありすとの約束。彼女から得た一筋の光明。


 あの死神の尻尾をつかみ、決着を着ける。死神に消された人たちを、求文女(しふめ)彩亜(あーや)を取り戻す。約束を果たす。メリー・シャインとともに。


「奮戦、レベル2!」


 鍵玻璃(きはり)が叫ぶと、一層光が強まった。


 本当の闘いが、ここから始まる。

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