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9.就活

「ねえ、ハニュ?おかしいとこないかな?」

 なけなしの一張羅に着替えて、シーアはハニュに何度も確認していた。

 ハニュは飛び跳ねて大丈夫だと伝える。

「よし、今日は大事な日だよ!ハニュとリマもいい子にしててね!」

 シーアはさっきブラッシングして艶々になったリマを撫でながら注意する。リマはきゃんと鳴いてお座りした。実にいい子である。

 今日は近場の冒険者ギルドに就職活動をしに行くのである。後三か月ほどで教会の任期が終わるシーアには就職先は切実な問題だった。

 シーアは孤児院を出ると冒険者ギルドに向かった。

 

 冒険者ギルドは中が少々雑然としているが石造りの小綺麗な建物だった。前を通りがかったことはあっても中に入ったことは無い。シーアは緊張してごくりと唾を飲みこんだ。

 中にいる冒険者の視線がシーアに集中するのがわかる。従魔連れの子供なんて珍しいからみんな興味津々のようだ。

 シーアは背筋を伸ばして受付に行った。

「ようこそ、冒険者ギルドへ!初めての方ですか?」

「はい、あの、今聖女見習いなのですが、卒業したらギルドの専属聖女になりたくて……」

「就職希望の方ですか!?今担当者をお呼びしますね」

「お願いします」

 受付のお姉さんは驚いたようだった。それはそうだろう、従魔を連れた聖女ならどこでも欲しがる。わざわざ自分から冒険者ギルドに就活に来たということは訳アリですと言っているようなものだ。

 

「お待たせしました」

 受付のお姉さんはグラマラスな年齢不詳のお姉さんを連れて戻って来た。流れるような青い髪がとても美しい人だ。

「初めまして、ギルド長のチルデンよ。……まるで『シーラ様』のような子が来たね。奥で話しましょうか」

「初めまして、シーアです。この子達はハニュとリマです。よろしくお願いします」

 なんとギルド長だったらしい。シーアはとても緊張した。促されるまま奥へついてゆくと、応接室のような場所に案内された。

「それで、ギルドの専属聖女になりたいのだったわね。どうして冒険者ギルドがいいのかしら」

 シーアは簡単に経緯を話す。貴族のお嬢様に嫌がらせをされて治療に参加させてもらえないこと、教会長も紹介状を書いてくれないこと。これ以上の嫌がらせを防ぐため貴族でも手を出せない場所に就職したいと考えていることだ。

 最初は濁して話をしていたが、ギルド長は話を聞き出すのが上手かった。いつの間にか洗いざらい喋らされていてシーアは驚く。

「それは大変だったわね。ギルドの聖女はいつでも不足しているから就職は大歓迎よ。治療経験は少ないようだけど、うちに来てから他の聖女に教えてもらって勉強するといいわ。もし嫌がらせが続くようなら遠くのギルドを紹介してあげるから、とりあえずうちで働いてくれる?」

 シーアは無事就職先が決まって安堵した。ハニュからも嬉しそうな感情が伝わってくる。本当は飛び跳ねたいのに人前だから我慢しているようだ。

 

「ところでその従魔達だけど、貴方にとても懐いているわね。どうやって従魔にしたの?」

「えーと、ハニュは……試したらできました。リマは怪我していたところを治してあげたら従魔になってくれたんです」

 ギルド長は微笑まし気に笑った。

「そう、だからそんなに懐いているのね。最近は従魔にしようと魔物を弱らせて無理やり命令したりする輩が多いから新鮮だわ」

「そうなんですか!?なんてひどい……」

 シーアは衝撃を受けた。そんな事をしてまで従魔を欲しがる輩が居るなんて思わなかったのだ。

「そうね……そういえば『シーラ様』の従魔も、怪我を治療してあげたら懐いてくれたらしいわね。伝承に書いてあったわ。あなたはまるで『シーラ様』の再来ね」

「そんな、恐れ多いです。私、治癒魔法はまだ全然で……」

 慌てるシーアに、ギルド長はくすくすと笑う。上司がいい人そうで良かったとシーアは思った。

 

 ギルド長と細かい打ち合わせをすると、シーアは帰路につく。伝わってくる感情から上手くいったのがわかったのだろう。リマがシーアの足に絡みついて尻尾を振っている。

 シーア達は笑いながら院長先生に報告に行った。院長先生はとても喜んでくれた。

「そうかい、良かったね。私もこれで安心できるよ。頑張るんだよ、シーア」

 院長先生がシーアの頭を撫でる。

「私、絶対立派な聖女になります!先生にもいっぱい恩返ししますから待ってて下さいね!」

 その日は珍しく院長先生も食堂に来て、みんなでシーアの就職先内定を祝ってくれた。

 

 しかし、その日を境に院長先生の容態は急激に悪くなったのだった。

 

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