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2.スライムさんとの出会い

 シーアは院長先生との会話を終えると、夕食の為に孤児院裏手の森へ入った。この森にはあまり強くないが魔物が居る。食べ盛りの子が多い孤児院では、狩りは貴重な食糧確保の方法だった。

 ボロボロの弓を片手に森に入ったシーアは獲物を探す。なぜか今日は異様に森が静かだった。もしかしたら強い魔物が出現したのかもしれないと、シーアは警戒しながら進んだ。

 

 湖のほとりに差し掛かった時、シーアは奇妙な光景を見た。そこに居たのは、シーアの髪色と同じ薄桃色のスライムだった。

「珍しい色……」

 スライムは多様な色が居るが、薄桃色は初めて見た。そのスライムはなぜか目の前の木に魔法を連発している。火に水、そして風の魔法までかなりの精度で木に当てていた。

 いや、そもそもそれはおかしな事だった。スライムは魔力でできていると言ってもいいほどに潤沢な魔力を持つ魔物だが、知能が低すぎて魔法は一切使えないのである。ごく稀に簡単な魔法を使える個体も居るが、目の前のスライムの様に多種多様な魔法を自由自在に使いこなすなんてありえないことだ。

 シーアはしばらくスライムを観察していた。好事家に高く売れそうだなと思ったからだ。やがてひとしきり魔法を使ったスライムは湖を覗き込む。なぜかシーアにはため息をついているように見えた。

 その哀愁漂う背中にシーアは悩んだ。捕まえて売り飛ばしてもいいが、なぜかそれは可哀そうだと思ったのだ。

 

 その時、シーアは足元の小枝を踏みつけてしまう。ぱきっという音に振り返ったスライムは、シーアを見つけて慌てだした。その様はどこか人間じみていて、シーアは笑ってしまう。

「大丈夫、何もしないよ」

 通じるはずないとわかりつつも、シーアは口を開いた。するとスライムはぴたりと止まる。そしてじっとシーアの事を見つめた。まるで言葉がわかっているようだと、シーアは不思議に思った。

 スライムは食べられない。それに攻撃性も強くないのでシーアからしてみれば倒す意味がない。売り飛ばすのも可哀そうなので、この湖がスライムの縄張りならそっと退散してあげようと思った。

 シーアは振り返って歩き出す。するとなぜかスライムはシーアについて来た。シーアが止まるとスライムも止まる。シーアは困り果てた。

「あのね、私狩りをしなくちゃいけないの。危ないから住処に戻ってくれるかな?」

 そう言うと、スライムは頷いたように見えた。そしてどこかに行ってしまう。シーアはホッとした。

 やっぱりあのスライムは言葉がわかるのではと思いながら、悪い人間に捕まらないことを祈る。

 そして狩りを再開した。

 

 鳥型の魔物を二羽ほど弓で撃ち落とすと、シーアはこれでいいかと孤児院に帰ることにした。その時、シーアの横の草むらが揺れる。シーアが慌てて弓を構えると、大きな猪の魔物が見えた。

 弓では倒せないかもしれない。シーアは逃げる準備をする。その時猪の方からぷぴぃと間の抜けた音が聞こえた。虚を突かれて思わすじっと猪を見つめてしまう。そこでシーアは、猪がすでに息絶えていることに気が付いた。

 茫然としていると、猪の下からまたもやぷぴぃと間の抜けた音が聞こえてくる。恐る恐る近づいてみると、猪の下にはあのスライムが居た。

 スライムはキラキラと目を輝かせてシーアを見ていた。まるで主人に褒められるのを待っている犬のようだとシーアは思った。

「えっと、これ、くれるの……?」

 まさか自分が狩りをしなければならないと言ったからだろうかと、シーアは混乱していた。

 スライムはまた頷いたように見えた。

「えっと、スライムさんは言葉がわかるの?」

 そんなわけないと思いつつも質問してしまう。スライムは体をそらしてぷぴぃと鳴いた。どこか誇らしげなその姿により混乱してしまった。スライムはシーアの足にすり寄ってくる。

「えっと、一緒に来たいの?」

 スライムはこれまで以上に目を輝かせてぷぴぃと鳴いた。

 シーアは考える。これはもしかしたら今日習った従魔契約ができるのではないかと。

「……従魔契約してもいい?」

 スライムは横に体を傾けた。首をかしげているつもりなのかもしれない。シーアは立ち上がると、習ったばかりの契約魔法を発動する。

「シーアの名の下に、汝と契約を交わす。テイム!」

 呪文を詠唱すると、ふたりの間に風が吹き光り輝いた。スライムの額に文様が浮かび上がる。そして自身の左手にも同じ文様が浮かんだことに気づいた。

 まさか本当に従魔契約が成功してしまったのかと、シーアは茫然としてしまう。スライムの方は嬉しそうに飛び跳ねている。その目には涙が浮かんでいるようにも見えた。

 かくして、この先世間を騒がせる名コンビが誕生したのであった。

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