告白して振られた幼馴染との勉強会中に爆弾を投下された話
なんか思いついたというか降りてきたので初書き。
現実世界〔恋愛〕短編ランキングで月間一位を戴いてました。
見て下さった皆様ありがとうございます。心より感謝。
「私、先輩に告白されちゃった」
自室での勉強会中、不意に科守美咲にそう告げられ、星寺政則の手が止まった。
「宿題やってるところにそんな爆弾放り込みますかね?」
「爆弾……かなあ? 私、それなりに告白されてきてると思うけど」
「月一ペースだよな。ちなみに先月は俺が告白して振られた訳だが」
「振ってないよ?」
「普通、『恋人とかお付き合いとかよくわからないから保留でいい?』ってのは断る時の台詞なんですよ美咲さん」
「だって他の人には『お付き合いとかよくわからないからごめんなさい』って言ってるよ? 保留してるのは兄くんだけだからね?」
美咲が唇を尖らせる。その仕草だけでちょっとドキッとするほど色っぽくて、可愛い。
ちなみに政則が『兄くん』と呼ばれているのは、ふたりがいとこの関係で政則の方が早く産まれているからだ。
「……そうだったのか」
「それに、お付き合いとかはよくわからないけど、兄くんとは今までも一緒にデートはしてるでしょ?」
「まあ、買い物行ったり映画見たりカラオケ行ったりはな」
「美術館や博物館や神社仏閣巡りもねー。私ひとりだと、父さんが許してくれないから」
「そりゃいくらお堅い場所でも年頃の娘ひとりってのは叔父さんも心配するだろ。美咲んとこ父子家庭だし尚更だよ」
「うん。兄くんにはいつもお世話になってるよ」
「そのぶん、母さんが夜勤でいない時はメシ作って貰ったりしてるからな。おあいこだって」
「兄くんはお菓子作ってくれてるでしょ? 私的にはそれでお釣りが来るんだけど……兄くんの作るお菓子、下手な専門店のより美味しいし」
「そりゃ菓子職人目指してますから。全国模試100位以内常連の美咲と違って進学は厳しいし」
「兄くんも栄養学系の学科とか普通に進学出来ると思うけどなあ……って、そうじゃなくて!」
「なんだよ」
上手いこと話をそらせたと思っていた政則が眉をひそめた。
告白して振られたと思っていたのが本当に保留だったのは嬉しい誤算だったが、幼馴染のいとこから更に踏み込んだ関係になろうとした身としては、従妹が他人から告白された話など聞いて気分の良いものではない。
「だから、先輩から告白されたのっ。それで、いつも通り断ったんだけど……」
「だけど?」
「先輩にね、『お付き合いがわからないなら、俺が教えてやるよ』ってホテルに誘われた」
「おい待て高校生」
「正直私も反応に困って固まっちゃったんだよね。そしたら……」
「まって、その先は聞かない方がいい気がするというか、聞きたくないんだが?」
言葉を遮ろうとする政則を無視して、美咲が続ける。
「要は私のエロい身体を堪能したい。それが告白してきた男達の望む『お付き合い』ってことだ……って言われてさ」
「……ほほう?」
「なんかね、腑に落ちたの。そういうことかー、って」
「まあ、なあ……」
腕組みをして頷いている美咲に、政則が視線を向ける。
街を歩けば男の九割、女性でも二割は注視する愛らしい美貌に、出るところは出て、絞るところは十二分に絞られたプロポーション。
目の前の少女が、その辺のグラビアアイドルなど相手にならない容姿をしていることは間違いないのだ。
「おじさんも母さんも俺も凡庸な見た目なのに、美咲だけ突然変異レベルで美少女なんだよなー」
それにエロいし。
最後の言葉だけ呑み込んで、政則が続けた。
「で、先輩からどうやって逃げてきたんだ? そんなこと言ってくるんじゃ、かなり強引に誘ってきただろ?」
「うん。私としては、欲情されてることに納得はしても先輩とそういうコトする気にはなれなかったんだけど、腕を掴まれちゃってねー」
それだけで政則は察した。
「あー……美咲お前、やったな?」
「別にやってないよー。腕掴んで引き寄せた私の胸とかお尻とか触ろうとしてきたから、と言うかちょっと触られたから体勢崩して空中一回転させて背中から着地させただけ」
「それ世間一般では投げ飛ばしたって言わない?」
「飛ばしてないし地面に叩きつけてもいないよ? 先輩も、ちょっと呼吸止まって悶絶したくらいで済んでたし」
「うわぁ……先輩、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、兄くんが私と組み手してくれた時に背中から着地させたのより優しくやったし」
「あれ受け身しても数秒呼吸が止まったんだが? てか美咲、なんで公民館の護身術教室通った程度でそんな力量になってるんだよ……」
「護身には使えてるから良いんじゃない?」
「それは、そうなんだけどさあ」
と言いつつ、政則は納得していた。
科守美咲という少女は、とにかく才能に溢れているのだ。
学業では教科書を眺める程度で全国トップの成績を維持し、体力測定ではだいたい全国上位の結果を出す。運動部に助っ人を頼まれればそつなくこなすし、個人競技では中学時代にうっかり全国大会まで経験している。
もっとも、本人は運動自体は好きではないらしく、きっちりしたトレーニングを求められると「勉強の邪魔」という理由で競技自体から手を引いているのだが。
つまり。
才能に溢れてはいるが、本気になれるものは見つかっていない……そんなタイプの天才が科守美咲だった。
「で、先輩はどうしたんだ?」
「悶絶してるところに『私あらゆる意味で先輩と付き合う気ないですけど……諦めないなら、もう何回転かします?』って言ったら転がって逃げてった」
「転がるように、じゃなく?」
「うん。途中まで本当にローリングで。先輩には悪いけど、ちょっと笑っちゃった」
「それだけ怖かったんだろうなあ……」
心の中で、そっと名も知らぬ先輩に手を合わせる。
美咲も名前を出さないあたり、言うつもりがないのか……あるいは本当に憶えてないのだろう。
「しかし、それだと仕返しが怖いな……しばらくは一緒に登下校するか?」
「……うんっ。兄くんが一緒なら安心だねっ!」
一瞬の間をおいて、美咲が嬉しそうに笑う。
「……美咲さん?」
「ん? 何かな兄くん?」
「まさかと思うけど……狙ってないよね?」
瞬間、美咲が視線を逸らした。
「ネ、ネラッテナイデスヨー?」
「嘘やん」
「嘘じゃないよ! 実際、兄くんに言われるまでそんなつもりなかったし! 結果論、結果論だから!」
「……まあ、狙ってたとしてもやるけどさ。従兄としても幼馴染としても心配ではあるし」
「ありがと、兄くん」
「はいはい。それで、話は終わりか? 晩飯作らなきゃいけないんだから早く宿題終わらせるぞ。母さん今日は遅いし」
「あ、うん。そうだね……宿題、終わらせないとね。兄くん、わからないとこ、ある?」
「今日のは大丈夫っぽい」
「わかった。兄くんもなんだかんだ成績は上の下くらいあるんだし、進学いけると思うんだけどなあ……」
「大学で栄養学やってもなあ。お菓子とか和洋問わずカロリーのバケモンだぞ?」
「そこでヘルシーなお菓子を作れるようになったら凄い強みになると思うんだけど……それに」
「それに?」
「せっかく高校まで一緒に通えたんだから、大学も兄くんと一緒にいきたいなって」
「それ保留してる相手に言う台詞?」
思わず政則が突っ込む。
「だって……」
すると、美咲がほんのりと頬を染めた。
「兄くんが付き合おうって言ってくれたの……先輩と同じ意味だったとしたら、私はオッケーだなって、わかっちゃったから」
「……へ?」
「つまり、兄くんは私に赤ちゃん産んで欲しいんだよね? 兄くんとの子供なら、私はいつでもいけるなって」
ガタッ!
政則が勢いよく立ち上がる。
「待て待て待て! 落ち着け美咲、俺の告白はそういう意味じゃ……いやもちろん最終的にそこまでいく覚悟はあるがっ!」
「うん、さすがに今すぐってのは厳しいよね。私達まだ未成年だし。と言うか私、誕生日的に高校卒業しないと18にならないし」
「そうそう、美咲は4月1日生まれだもんな!」
「兄くんが4月2日だから、ぱっと見1日違いなんだけどねー。実際は同学年でも1年違うんだよねー」
「だよなー! つまり高校生の間は不純異性交遊はセーブしないとなー! 叔父さんにも母さんにも顔向け出来ないし!」
「だから……一緒の大学行きたいんだよ? 兄くんなら、父さんも伯母さんも一緒に住むの許してくれると思うし」
「同棲の為に進学しろと!?」
「兄くんとは一緒に暮らしてるも同然だけど、やっぱり結婚して子育てとなると私でも知らない面が見えてくると思うから。それなら、事前に一緒に暮らして色々確かめたり擦り合わせたりした方が良いでしょ?」
「告白保留から一気にすっ飛んだなオイ! と言うか美咲、それって……!?」
「あ……そっか、そうだよね」
頬を染めたまま、美咲が居住まいを正す。
具体的には、空気が引き締まって感じられるほどのきっちりとした正座だ。
その雰囲気に押され、政則がたじろぐほどの。
「兄くん」
「は、はい!?」
「告白してくれてありがとう。保留しちゃってたけど、いま返事して、良いよね?」
「お、おう……どうぞ」
雰囲気に飲まれたまま、美咲の前に正座した政則が促す。
「……私も、兄くんのことが好きです。どうか……結婚と子作りと子育てを前提に、お付き合いして下さい」
「……はいよろこんで」
「よかったぁ……ごめんね、これ返事としては滅茶苦茶重いよね?」
「まあ……うん。正直、俺も結構先輩を笑えないところあるんで、想定は飛び越えてきてる」
「性欲ベースで『お付き合い』出来れば良かったのに、結婚とか子作りとか言われちゃったもんね。兄くんじゃなかったら引いてるんじゃない?」
「言い方ァ! でもまあ、自分から告白しておいてなんだが……美咲の返事で逃げ出す奴がいても俺は責められないかな」
「そっか。でも兄さんは、受けてくれたんだね」
「そりゃ告白したのは俺だし、美咲との関係を変えるならそのくらいの覚悟はするよ」
アパートの六畳間でお互いに正座し、神妙な表情で見つめ合うふたり。
「……ありがとう、兄くん。私、元気な赤ちゃん産むね」
「だからそれはまだ早いって……って、美咲さん?」
政則は気付いた。
美咲の顔が、少しずつアップになっていることに。
「まだちょっと怖いから、最後までは難しいけど……これはお詫びと、お礼と……私の気持ち、だよ」
「美咲さん!? 行動が早くないですか美咲さ……」
部屋の中で、ふたつの影が重なる。
そのまましばらく動きが止まり……そして、離れた。
「ん……ほっぺとかは何度も経験あるけど、唇は、初めてだね」
「はい」
「えっと……もっとしたいなら、兄くんからだったら……いいよ?」
「はい」
「あ……んっ、兄くん……」
今度は政則が動き、再び影が重なった。
その夜。
疲れて帰ってきた政則の母は、用意されていた夕食が妙に豪華なことに何かを察しつつ、姪っ子にはさりげなく避妊について教えておこうと心に誓うのだった。
いとこ同士って結婚出来るんだよね。
なお彼女のスペックが異様に高いので学校などでは埋もれがちですが、彼の方も結構な才能持ちだったりします。彼の容姿は平凡だけど。彼の容姿は平凡だけど。
追記ですが日本で4月1日生まれの人が早生まれになるのは民法による年の取り方の規定と学校教育法による学校入学者の規定によるものだそうです。ここまでギリギリでなくとも、4月生まれと3月生まれの年子で同学年の兄弟姉妹とかはたまにあるよね。
この作品が良いと思って評価して下さった方、ありがとうございます。