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6.造られた龍

「極光?エルバダード??ここがユグド=マグナじゃないならどう続きをやれと?」


頭を抱え(うずくま)り、(ようや)く大人しくなったリリィにリューシュとしてはまだまだ聞きたい事だらけだった。どうにも騒がしいままだと話を進めにくい。ずっとこれくらい萎びていた方が好ましいくらいだが、そうもいかないだろうとリューシュは今のうちに話を進める事にした。


「人工的な龍とは何だ?お前が作者なら答えられるな?」


「…消えた龍の代わりを造ろうとしたんです。龍が消えて均衡が崩れたせいでユリウス様が災厄に成り果てたなら、空座を埋める事ができればあんな戦い止められると思ったんです」


リューシュはしばし目を閉じる。

理に適った事を言っているつもりのようだがリリィの言う事は夢物語どころか子どもの屁理屈だ。


彼の世界(ユグド=マグナ)で秩序を司る龍が消えた背景。


ユリウスが災厄に堕ちた理由。


苦い記憶も相まってリューシュの表情は固い。



「無謀にも程がある」


「でもほら!」


「?」


「目の前に完成品が!!」


「己の力も御しきれず枷を嵌められ、角を折られるような未熟者を完成品とは言わん」


「それは元々私の体じゃなッッ、カハッ!!?」


「…なぜ貴様らは我らを掻き乱すのだろうな」


ゆっくりとした動作でリューシュの手が枷の隙間 ── リリィの首元に伸びた。そのまま瓶でも持ち上げるが如く、リリィが(もが)くのにも構わずにその小柄な体躯を片手で掴み上げ、徐々に指先に力を込めていく。


「足掻く様を見るのが愉しいか?絶望の淵に立ち尽くす姿は滑稽か?…なぜ静かに眠らせてくれんのだ」


力を増していくリューシュをリリィはどうする事もできない。しかし視界も歪み、いよいよ意識が遠のくリリィの頭の中に響いてきたリューシュの声は目の前の険しい表情とは裏腹に静かで凪いだものだった。



『龍に呼吸が必要か?』


「っぁ?」


『お前の方からは話せんか』


僅かに手の力が緩められたその時だった。




「リューシュ殿!」


砂塵が爆発するように舞い上がり、轟音と共に何かが飛来した。直前に聞こえた旧知の声にリリィを掴み上げたまま振り返りもせずリューシュは問いかける。


「…夢見どもは起きたようだな?王弟自ら先見とは恐れ入る。城の人手不足は深刻か?こっちは取り込み中だ。邪魔をするな」


「皮肉は結構。この砂漠を貴女の元まで無事に辿り着く事ができる者など」


マントについた砂を払い落としながら王弟と呼ばれた男は立ち上がる。

見間違いではなく、幼子の首を締め上げるリューシュの姿に顔をしかめた男はツカツカとすぐ側までやって来た。それでもこちらを見ようともしない人物の肩についに男は手を添える。


「貴女らしくもない。そのままでは死んでしまいます。それとも殺さなくてはならぬ理由が?」


「龍がこんな事で死ぬものか」


「龍?」


「…その顔はどうした。なぜ侵食が進んでいる」


リューシュが振り向くと見慣れていたはずの顔が少し見ない間に様変わりしていた。

兄である王と並び美丈夫と呼ばれ持て囃されてもおかしくない男の風貌は銀糸の髪の下、肌という肌にまるで呪いのように蔓延(はびこ)る黒い(まだら)状の痣のせいで全てが台無しになっている。恐らく服の下も同じようなものだろうが表に見える部分の痣が以前より広がっている事がリューシュは気に掛かった。



(これ)についてはまた後日検分を。今はそれ以上に報告したい事もお聞きしたい事も山積しております。一先ず城へ戻りましょう。ここは立ち話には不向きです」


言外に危険がないのならリリィの首からとっとと手を離せと促す男に不承不承といった体でリューシュは承諾した。


「…これはお前が運べ。ヴァーツラフ」


「ッ!!ゴホッゴホッ!」


投げて寄越されたリリィを危なげなく抱きとめ、ヴァーツラフは咽せ返るその小さな背を一度抱え直して摩ってやった。ヒューヒューとか細い呼吸を繰り返す様はとても弱々しく、リューシュの言う人外には見えなかったが顳顬(こめかみ)に残る抉られたような傷と四肢そして首に嵌められた枷からただの無垢な子供ではない事は察せられた。


「先に戻っていろ。私は()を見てから戻る」


「この者で何か気を付けるべき事は?」


「…リリィと言うそうだ。前世記憶(ログ)は恐らく一。この国の言葉を解すがまだ中身も幼い。枷さえ外さなければどうと言う事もないだろうが本人が言うには今回の極光の作者様らしい」


「作者…王が騒ぎ出す前にお戻りくださいね?」


「アレの扱いはお前の方が心得ているだろう。上手くやってくれ。問題が無ければすぐ戻る」


苦笑を浮かべるヴァーツラフにリューシュは左手をかざす。然程意識を向けなくとも術を編めるのは同胞(はらから)の要らぬ置き土産のせいか。リューシュは自身の身の内にも変化が起こっている事を如実に感じ取っていた。全盛期には及ばないが徐々に力が戻りつつある。


「砂漠の端まで送る。構えろ」


「リューシュ殿?!」


そう言うが早いかリューシュの角が赤く光るとリリィを抱え何事か言わんとしていたヴァーツラフごとその姿が掻き消える。

そのまま視線を上げ、リューシュは二人を飛ばした先 ── 彼方に見える崖の上を見据え何も異常がないのを確認すると(きびす)を返し瓦礫だらけとなった砂漠地帯を一人再び歩き始めた。

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