第4話〜魔導兵器〜
「グレッグ領からの救援要請?」
「あぁ、ついさっきね」
ルドルフの言うグレッグ領とは、ジークハルト領の隣に位置し、“オルドラン グレッグ”が領主として治める地だ。
ジークハルト領同様に帝国領と隣接しており、コチラも日々国境紛争が絶えないと聞く。
しかし当主オルドラン グレッグは歴戦の英傑。
先代から領地を受け継いで以降、約30年にも渡り国境線を守り続けた名将と名高い。
そんな所からの救援要請という情報に、カインは訝しげに首を傾げた。
「今までそんな事は一度も無かったはずだ」
「あぁ、そうだね。
だがグレッグ卿から届いた密書にはこう記されていた」
そう言ってルドルフは胸元から1通の封筒を取り出し、カインたちに差し出した。
カインはそれを受け取り、中を確認する。
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親愛なる我が友ジークハルト卿。
急な頼みで申し訳無いのだが、少しばかり援軍をお借りできないだろうか。
先日当家の間者が入手した情報によると、帝国軍は何やら極秘で大規模な魔導兵器を開発しているらしい。
情報統制も徹底されていた様で、間者がその存在に気付いた時には既に実戦投入直前だったそうだ。
近いうちに我がグレッグ領に向けて侵攻してくる動きもある。
貴殿も帝国からの侵攻に頭を悩ませている事は重々承知しているが、今回は流石の私も凌そうに無い。
どうか、頼む。
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「魔導兵器、ですか……」
カインの横から手紙を読んでいたアリシアが声を上げる。
「魔導兵器自体は珍しいモノじゃ無いんだけどね。
先日もグレッグ領方面の帝国軍では、魔法を何発も連続して打ち出せる兵器が導入されていたそうだし。
と言っても一つ一つの威力は大した事無かったみたいだから、そこまで戦況に大きな影響は無かったみたいだけど」
「お前が腰に下げているその剣も、大きく括れば魔導兵器の一種だろ。
俺の剣も、ディアーナやトリスタンの杖も」
カインの言葉通り、SSFに支給されている武器や防具はその殆どが魔導兵器に属するモノだ。
例えばトリスタンが持つ杖には、魔力伝導率を最大化して、魔力のロスが殆どゼロに近い状態で魔法に変換できる能力が備えられている。
それにより本来よりも高威力の魔法を、より少ない魔力で撃てる仕様になっていた。
「確かにそうですね。
問題は大規模という所でしょうか……」
「そうだね。
詳しくは分からないけど、グレッグ卿がわざわざ救援を求める程度には驚異なんだと思うよ」
「事情は分かった。
それで、俺たちはいつ頃発てばいい」
「明日の早朝、かな」
「明日、ですか……
快勝とはいえ、流石に彼等も初陣で疲弊していると思います。
他の兵士達に向かわせる事は出来ないでしょうか」
ほんの数時間前に初陣を終えたばかりの彼等には少々酷だと、飲み騒ぐ連中に視線を向けるアリシア。
しかしそれを否定したのは、意外にもルドルフではなくカインだった。
「グレッグ卿は王国内でも屈指の英傑と呼ばれる男だ。
本人の武勇もそうだが、何より戦局を有利に動かす兵法に長けている。
そこから救援要請が来たんだ。
統率の取れたグレッグ領の兵士にウチの兵士を多少足した所で、焼け石に水だろ。
「そうだね。
つまり彼が求めてる援軍って言うのは……」
「単独で動ける精鋭部隊……SSFという事ですか」
「ご明察」
なるほど。と納得した様子のアリシア。
しかし疑問げに眉を顰める。
「……ですが、一体どこで私達の情報を?
先程文が届いたのでしたら、今回の戦いの情報はまだグレッグ領には届いていないんじゃ……」
「グレッグ卿だからね。
大方ウチの領内にも間者が紛れ込んでいるんじゃ無いかな」
ルドルフはそう言ってクスリと笑う。
笑い事じゃ無いだろう。とカインはルドルフを睨むが、特に気にするそぶりは無い。
彼にとっては本当に懸念すべき事では無いのだろう。
「相変わらず掴みどころが無いヤツだ……
お前のそういう所が昔から苦手なんだ」
「カインのつれないところも、昔からだよね」
ジトっと睨む会話に対し、ニコニコと不敵な笑みを浮かべるルドルフ。
そんな2人を見てあわあわと焦るアリシア。
「あらあら〜。
隊長達のテーブル、なんだか面白い空気になっているわね〜」
「アリシア副隊長があんなに取り乱してる所、俺初めて見ました……」
「たいちょーもルドルフさまも、なんかこわいんだけど……」
「ふん、カインの癖に領主様と酒を交わすなど……」
「トリスタン、お前さんは本当にブレんな……」
こうして若干不穏な空気を残しながらも、カイン率いるSSFの次の出撃が決まったのだった。