第四話 マフィアについて
「カーロ」
「おお、イーサンか!久し振りだな!」
「元気そうで良かった」
俺はマフィアについての情報を得るために、店を定休日にし、カーロのいる冒険者ギルドに訪れた。
カーロ・フォイン。元はAランクの凄腕冒険者で、付いた二つ名は殲滅者。魔物の軍勢に一人で立ち向かい、街を守ったことでその二つ名がついたらしい。
そんな彼は今、冒険者稼業を辞めギルドマスターとして机仕事をしている。
俺から見ればまだ現役で活躍できそうだが、本人曰く「補助魔法などを行使しても、思い通りに体を動かせなくなった」らしい。
カーロにマフィアについての質問しようとしたが、一つ気になったことがあった。
「なぁ、カーロ。モーブとダンの奴はどうした? 」
平日の朝の時間は決まって二人組の男がいる。それがモーブとダンだ。
だが、ギルド内を見渡しても馴染みの顔を見つけることはできない。
カーロは俺の言葉を聞くと、途端に暗い顔になってしまった。
「ああ……あの二人ならギルドを辞めたよ」
「辞めた? どうして」
「モーブは実家の家業を継ぐため、ダンは剣の腕を見込まれてお貴族様のお抱えになったよ」
「そうか、残念だな。二人とも素質はあるんだがな」
「仕方ないことだよ。魔導具が普及してから、冒険者稼業で稼げるのは一握りになってしまったからね」
「……」
「皮肉なことだ。ギルド内は朝から晩までお祭り騒ぎで、机や椅子はいつも足りなかったが、今じゃ一日ここに来る人数よりも、机と椅子が圧倒的に多い。」
ギルド内はシーンという音が似あうほど静まり返っていた。俺とカーロの声がよく響く。
机と椅子はピカピカで、壁などには一つも傷はない。
「おっと、暗い話をしてしまってすまない。後、別に私は魔導具批判をしてる訳じゃないよ。」
「分かっているさ」
「私は今の状況を別に悲観はしていない。何でも屋の冒険者の数が減ったのは、この世の中が平和になった証だ。少し悲しいが」
カーロはそう言うと、笑った。彼の身体は屈強でとても50代とは思えないが、彼の目は年相応の憂いを帯びた目をしていた。
そんなカーロに俺は伝えたくない事実を伝える
「……その平和を乱している奴らがいるんだ。俺はそいつらの情報が聞きたくて、此処に来た」
「なるほどな、いいだろう。私の知っている情報を全て話そう」
憂いを帯びた目は、見た者を射抜くような鋭い目に変わっていた。
「まず、マフィア【闇の目】について知りたい」
「イーサン、【闇の目】なら数か月前に解散したよ」
「解散したのか!? それなら誓約が守られていないのは当たり前だな……」
「誓約? 何の話だい、イーサン」
「いや、こっちの話だ。それよりも解散したってどういうことだ? 俺は知らなかった」
「名義上は解散はしたけど、実質的には解散はしていない。三ヶ月前、縄張り争いに負けた北大陸のマフィアの連中が、この街にやってきたんだ。その連中は一つとなって【ラグナロク】と名乗った。そして【ラグナロク】は【闇の目】のボスの息子、ウラールと結託し、ボスとその一派を殺害。ウラールに協力した【闇の目】の構成員は【ラグナロク】に吸収され、【ラグナロク】がこの街の支配権を得たという訳だ。」
「そんな事が」
「イーサン。何故【闇の目】について聞いたんだい? 」
「実はな……」
俺はカーロに昨日あったことを全て話した。
「そんなことが。人身売買か、、、君の最も嫌いな事だね」
「【ラグナロク】の拠点がある場所を俺に教えてくれ」
「良いとも、地図に拠点の場所を書いて渡そう」
「ああ。止めないのか? 」
「止めても無駄だろう? それに、無茶してもケロッとしている姿を見たら、心配しているのが馬鹿馬鹿しくなったよ」
カーロは本棚から一枚の地図を取り出し、地図の複数個所に丸を付け、俺に渡した。
「派手にやりすぎるなよ。ここは俺の思い出が詰まった街だ」
「気を付ける。地図、ありがとう」
俺はカーロに礼を言うと、冒険者ギルドを後にした。
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「イーサン、君が言う気を付けるは詐欺師の甘言と同じだよ......」
イーサンが去った冒険者ギルドの執務室で、カーロは誰にも聞こえないくらいの声でボソッと呟いた。
【最強の死神と黒猫の救世譚】を読んでいただきありがとうございます!
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