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6 立場逆転

「この裏切者」


ジト目で瀬川は睨み付ける。

そこまで怒る事はないだろがい。

むしろ俺はお前らの復縁を手伝ってやった立役者だろう。

 もっと感謝しろ。崇め奉れ。


「馬鹿じゃないの。そんなの誰も頼んでないし」


 瀬川は憮然とした顔で突っぱねる。


 チッ。今時そんなツン九割が流行すると思ったら大間違いだぞ。

 このご時世、美少女といえどヘイトコントロールは重要なんだからな。


 あの後、俺は大久保君たちを瀬川が寝ている屋上に連れて行った。

一応は俺もその場を去った振りして遠くから盗み聞いていたが、彼らが謝罪して瀬川が受け入れて、つつがなく終わったようだ。


『べちゅっ……別にいいよ。気にしゅてっ……してないし』


 瀬川は大分声色からしてキョドっていたが。

 クールな感じで素っ気なく振るまおうとして噛みまくっているのが面白……痛々しかった。

 こういう不意打ちに弱いんだろうな。


 っていうか多分、こいつが不機嫌なのは大体そっちが原因だろう。

 突然こられたのが大分焦ったようだ。


「覗き見れればなあ……。できれば写メでも撮りたかったなあ」

「フンッ!」


 ローキックを繰り出してくる瀬川を俺は小器用に飛び跳ねながらかわす。

 遅いんだよ、素人めっ!


 ……ただ、俺の自論だが、仲直りしろとまでは言わないけど、こういうしこりはできる限り早くに消しておいた方がいい。

 そうすれば気兼ねなく疎遠からの無関係になれるもんだ。

 勿論、復縁するのもありだが。


「ウザッ。何それ経験談?」

「イダッ! も、黙秘権を行使する」


 いかん。藪蛇だった。

 動揺するその一瞬の隙を突かれて瀬川の一蹴りが俺のふくらはぎに命中する。


 と、とにかくダラダラ長引かせるとロクな事にならないんだよ。わかったか。


「まあ、そうだね。話が出来て少し気が楽にはなったよ。ありがと」


 一発食らった負け惜しみのような言葉になってしまったが、ひとしきり不満を発散していた瀬川は一拍呼吸を置いて素直に礼を言った。


 ようやくデレてくれたな。


 しかし、こんな素直デレをされてはこっちも悪ぶって天邪鬼になってしまうのがサガである。


「だったら、これでお前はさらに俺に借りができたわけだ」

「は?」


 さらに一転して氷点下を突くような顔になる瀬川。

 ククク。だが、貴様の好感度なんて知らんなあ。


 これで、お前は俺ともうしばらくは離れられないぜ、ぐへへー。

 またゲーセンデートでも付き合ってもらおうかなー。

 いいや、メイド喫茶でバイトさせて、メイド服のこいつに接客を眺めるというのもアリかもしれん。


 悪ノリして自分でもどうかと思うぐらいの下衆顔で煽り立ててみる。


 一方で、当の瀬川は面白くなさそうに鼻を鳴らして、冷たく返した。

 その会心の一撃ともいうべき一言を。


「デートも何もテスト近いし、少なくとも今週は無理でしょ。そういえばそっちは勉強の方大丈夫?」


 ……え?

 一瞬、時間が止まったような感覚と景色がグニャリと曲がるような錯覚に襲われた。


 身体も思うように力も入らず崩れ落ちた。


「……いや、そろそろ期末でしょ。何その顔」


 ……テスト? 期末?

 何それ、おいしいの?

 いやごめん知ってる。学力試験だよね。

 ――ってああ、待て待って。聞いてないそんなの。聞いてたけど忘れてた!

 やだやだ。今度赤点取ったら夏休みは補習とか酷い。遊び盛りの学生から青春を奪うな!

 もう少し救済処置をくれよっ!


「いや、その救済措置が補習なんでしょ。留年とかしたらマズいじゃん」


 うっさい!

 俺の思考に正論持って入ってくるな、ツンツンク-ル少女め!

 うわあああああああー!

 最近色々あったから、勉強なんてしてないのにぃ!

 ……元々してないけどネ。

 やらああああああああああああああ!

 勉強したくないよぉ!

 好きな時間に昼寝したりすゆー!

 溜め買いした漫画一気読みするのぉ!

 ああ。窓に、窓に、参考書と教鞭を持った桜沢がっ!


 ってな感じで俺の頭の中はパニック状態、思考回路はショート寸前。


「ふーん。あんたもそんな顔するんだ。ふふっ――」


 何が可笑しい‼


 涙目で慌てふためく俺に、瀬川は最高に意地の悪い笑顔を向けている。

 これも初めて見る顔だな。

 今回は全然可愛くもトキメキも感じないけどな。


「だったらさ――」


 瀬川は綺麗な顔を近づけてくる。思わぬ不意打ちにドキッとしてしまった。


「勉強教えてあげようか?」


 そっと耳打ちする瀬川。

 これは悪魔の囁きだ。


 確かに桜沢よりもマシかもしれない。

 スパルタと理不尽を履き違えたあの女に教わるのだけは論外だ。

 マジで第二の林田君のようにされかねん。


 ……いやー、中間の時は酷い目に遭ったなー。


 というわけで人から物を教わるという事には抵抗があるのだ。


 ついでに言うと、俺にもプライドってもんがある。お前みたいな小生意気な小娘に教わる事なんて――。


「前回の中間テスト五十位以内ですが何か」


 ――馬鹿な。いつの間にか、この俺が膝をついて頭を垂れてる。

 これが俺とこいつの学力の差だというのか⁉


「ふふ。遂に私が貸しを与える側に立ったわけだ」


 立場は完全に逆転した。

 鬼の首を取ったように瀬川美沙は勝ち誇る。


「――さあ返答はいかに?」


 ふざけるな、人の弱みにつけ込む邪悪な魔女め。

 俺の青春を人質にとりやがって。

 赤点回避ぐらい自力で成し遂げて見せる。

 俺は屈しないぞ、屈してなるものか!


「なんなりとお申し付けください、瀬川嬢」


 なんかもう体が勝手にかしずいていた。

 俺に選択肢なんてあるはずもないのだ。


 きっと鏡があれば、媚びへつらった俺の笑顔が映っていただろう。

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