4 もっと味わって食べろよ、いやマジで
「瀬川、その漫画読み終わったなら貸して」
「はいはい」
屋上。
昼食を終えた俺は瀬川から受け取った漫画雑誌を読み始める。
……ここで新しい敵登場か。主人公連戦キツいな。
……うおお、こいつが裏切者かよ。これはまた急展開。
……え、ここでヒロインいなくなっちゃうの⁉
「待て待て待て。漫画を読み耽ってないでこっち向け! なあ園部、なんで瀬川さんがここにいるわけ?」
いや、松村、彼女は俺らよりもこの屋上の常連だと思うぞ。
そもそも彼女がここにいるのは昨日の借りのオゴリというのもある。
そしたら、なんとまあこの子ったら、昼食代でも出してくれれば良かったものを、わざわざ弁当作ってよこしてくれたのだ。
「お前その弁当、瀬川さんに作らせたの⁉」
な、なんだよ。別にいいじゃん。
向こうが勝手に寄越してくれたんだからさ。
松村の何か言いたげな視線を無視して、俺は箱を空ける。
ご飯にはゴマ塩をまぶし、唐揚げと卵焼きにポテトサラダと王道な感じの奴だ。
とりあえず、卵焼きをつまんで食べてみる。
うんダシがきいてて美味しい。
いやー、他人が作ってくれたメシは美味いなあ。
……お前ら、なんでゴミを見るような目で俺を見るんだよ。傷付くぞ。
「いったい、どんな弱みを握ったんでしょうか……」
「女の子の手料理とかもっと味わって食えよ、クソが……」
いいかげんにしろ。泣くぞ。
……。
「――と言うわけで彼女は瀬川美沙だ。よろしく頼む」
「いや、知ってるし。だから紹介しろってんじゃなくて説明……」
机の落書き騒動の後、直接的なイジメこそ無いものの、相変わらず嫌な空気を纏った教室に耐えられなくなった瀬川美沙は昼休み以外でも屋上にいる事が多くなった。
そうなれば、必然的に俺たちと顔を合わせる事が増える。
むしろ今までこいつらが彼女を認識してなかったのが不思議なくらいである。
「あ。やっぱり、ここにいちゃ邪魔だったかな」
「いやいや。そういうわけじゃ……」
ひょいと上の塔屋から顔を出す瀬川に、松村は顔を赤くしながらもしどろもどろになる。
いつも達観したように斜に構えているくせに、こいつも美人には弱いらしい。
「一年の鹿山麻央でーす。瀬川先輩、今後ともよろしくお願いしまーす」
「あ、うん。どうもよろしくね」
一方で速攻で馴染もうと自己紹介を始める鹿山。こいつのこういう誰とでも打ち解けられるのは普通に羨ましい。
……いや違う。学校有数の美少女と早速コネを作る気だ。
俺にはわかる。伊達に半年も一緒に屋上で駄弁ってはいない。卑しい小娘め!
「――じゃあ、私はこっちで寝てるから」
「えっ」
だが、相手が悪かった。
瀬川は挨拶を済ませると、用は終えたとばかりにそのまま向こうで寝転がる。
鹿山も流石にちょっと困惑していた。
しかし、コイツのこんな慌てふためいた顔、ちょっと新鮮だな。写メっていい?
「ちょっ、冗談はやめてくださいよ。嘘ぉっ! いきなり私何かやっちゃいました? 選択肢ミス?」
いや、何もしてないと思うぞ。
見知った仲になっても、瀬川は基本的にこんな感じなのだ。
まあ、初対面だし、無理に仲良くなることもないだろ。
ただ、どうしてコイツここにいるんだっていうのよりも。
例え不干渉でも、そこにいるのが当然っていう形でも受け入れられてれば、互いに悪いようにはならないだろ。
もっと関わり合いたければ向こうから来るだろうしな。
たまにメシ貰いに来る犬猫みたいなもんだと思えばいい。
今回メシ貰ったのは俺の方だけれども。
嫌な場所からは逃げても良い。
人と関わるのが億劫なら、顔見知り程度で留めても良い。
そんな劇的に環境が変わるわけでもないし。
林田君の時のような、変なトラブルやヤバい奴が直接仕掛けて来ない限り、人間ってやつは案外やってけるもんだ……と俺は思う。
そういや余談ではあるが、落書きの下手人であるその林田君は今朝登校してきたのだが、頭を坊主に丸めて伊達眼鏡をかけてきており、休み時間もとっても静かに予習に復習と、一生懸命勉学に勤しんでおりましたとさ。
一体何が彼をそこまで変えたのか。
あの後、桜沢や教育指導の須剛教諭にどんな指導を受けたのか、聞くまい。
というか、怖くて聞けなかった。