22 女子の密談
「いやー、まさか桜沢先輩があんなコテコテのドキドキイベントやるとは思わなかったですね」
「……黙りなさい」
場所はファミレス。
私……桜沢美也子は鹿山麻央と一緒に昼食をとっていた。
――と言っても、私はこの前の事を思い出しており、羞恥に顔を赤くしてロクに目を合わせられないのだが。
「誤解ですよ。先輩の視線を奪うために、正直あそこまで体を張るとは思いませんでした。見直しましたよ」
「それこそ誤解なんですけど!?」
この後輩は私がわざとあんな真似をしたと思っているのか。
大真面目に頷いている彼女に思わず声を張り上げてしまい、我に返った私は周りのお客さんや店員さんにひたすらに謝る。
「常にこちらの予想を超えるアクションでこちらのリアクションを引き出す。まさにエンターテイ……イダダダ!」
「うるさい。さっきから人をリアクション芸人みたいに言わないでちょうだい」
そろそろ我慢が出来なくなったので牽制として彼女の頬を抓る。
第一、先日のアレだって突然電話で呼ばれて来たのだ。
詳しい話は面と向かって話そう、と言われホイホイ行ってしまったらあの有様である。
市民プールの近くが待ち合わせだと指定されて気が付かなかった私も私だが。
ちなみにあの水着は彼女が持参していたものを借りた。
……なんでこの子は私のスリーサイズまで把握していたのだろうか。恐怖すら覚える。
「――それでは次の作戦ですが……」
「まだやるの⁉」
正直もう勘弁してほしい。
そもそも、この子はなんで私まで巻き込もうとするのか。
「つれない事言わないでくださいよお。お互い現状に胡坐かいてたらあっさり取られちゃった負けヒロインじゃないですか。仲良くしましょうよ」
「誰が負けヒロインよっ!」
思わずまた怒鳴ってしまった。
再び私は店内の人たちに謝る。うう、何で私がこんな目に……。
「そういうとこだと思いますよぉ。……アイダァ!」
今度は脳天に拳骨を喰らわせる。
……というか、さっきから内心グサグサくるような言動やめてほしい。
「――鹿山さん、もういいでしょう。園部君の事があきらめましょうよ」
ずっと見てきたからわかる。もうあの二人はほとんど両想いのようなものだ。
これ以上は邪魔したくはない。
「嫌ですよ」
対して鹿山さんは頭をさすりながら、それでも拒絶する。……何が彼女をそうさせるのだろうか。
「確かに私たちは何もしてこなかった。でもね。ずっと一緒にいたんですよ。瀬川先輩よりもずっと、ずっとね。そのままあっさり掠め取られてハイそうですかお幸せにねとか嫌ですよ」
……一拍置いて、鹿山さんは言葉を続ける。
「前にも言ったでしょ。私はちゃんと負けたいんです。つまりは納得したいんですよ、納得」
その言葉には今までのようなおふざけはなく、真剣味のようなものを感じた。
「あれ? 7部読んでませんか?」
漫画の話だろうか?
そっちの意味はわからないけれど。
「桜沢先輩。たまには悪い子になりましょうよ。恋愛事なんてそれで良いんです」
思わず私は頭を抱える。
少しだけ目の前の彼女に共感してしまったのだ。
どんな結果なんてわかりきっているとしても、彼に迷惑をかけるだけだとしても、彼に想いを伝えたい。
そこだけは私も同じだった。
「それじゃあ次の計画を練りましょうか」
沈黙を肯定と受け取った鹿山さんは一枚のポスターを取り出す。
黒い夜空を色とりどりの火花が彩るイラスト。
花火大会。
夏休み終盤に行われるラストイベントだ。
「逆転か玉砕か。やるだけやってみましょうか」
「それ当然あなたも体を張るんでしょうね?」
私の言葉に少しばかり驚いたような顔をする。
ずっと振り回されるなんて割に合わない。そちらだって一緒に踊ってもらう。
やがて鹿山麻央はニヤリと笑う。
「当然です」




