21 市民プールで水着回
照り付ける太陽の下、いくつもの水場や水流が建設された娯楽施設。
そこに沢山の水着を着た老若男女が行き交い賑わっている。
俺たちもその一部だ。
「先輩先輩。ほら早くこっちに来てくださいよっ!」
フリルのついたビキニを着る鹿山麻央。
そのキュートな外見に加え、健康的でありながらも出る所は出たそのメリハリボディは男子の目を引くのには充分だ。
そういうわけで俺たちは市民プールへと泳ぎに来ていた。
言い出しっぺは当然この後輩女子である。
「ほら。桜沢先輩も早く出てきてくださいよ」
「ちょ、ちょっと引っ張らないでちょうだ……きゃあ!」
鹿山に強引に腕を引っ張られて出てきたのが、顔を赤くした桜沢美也子。
着用しているのは青いビキニ。
鹿山をも超えるスタイルを持つ彼女がそれを着用するとその破壊力は凄まじい。
「だから見ないでよ……!」
いつもの凛とした雰囲気からの弱々しい仕草がまた卑怯だ。
桜沢は両腕でそのたわわな双丘を隠そうとしているが、ところどころ垣間見える横乳や谷間やらが男たちの視線を釘付けに……痛ぁっ!
「……何ジロジロ見てるわけ?」
後ろから思いきり抓られて振り返ると、そこには瀬川美沙が機嫌が悪そうな面持ちで立っていた。
彼女が着ているのはワンピース水着。スレンダーな体形を浮き彫りにさせ体のラインを際立たせている。
先の二人と比べれば主に胸部的な意味で物足りないと思う者もいるかもしれない。
だが、むしろ彼女の最大の武器はその肉付きの良い臀部から太腿にかけてのおみ足――痛いっ!
お次は膝にローキックを喰らわせてくる瀬川。
さっきから何するんじゃい。素足だから余計に堪えるだろうがっ。
「目つきがいやらしい」
ええ。嘘っ。顔に出ちゃってた……?
恥ずかしい。
三者三様の美少女に囲まれている俺というこの構図。
当然だが、他の男性から羨望と嫉妬の視線をいただいている。
わーい。モテモテだー。参っちゃうなー。
……嘘です。
女三人男一人……すごく居辛いです。
すげえよ、ハーレム主人公。常時、こんな空気に耐えてたのかよ。
少なくとも俺には無理。
男の親友キャラの必要性も今なら良くわかる。
というわけで松村助けてっ! 俺は太っちょの親友の姿を探すもどこにもいない。
なんでだよ。皆来るって言ってたじゃん。鹿山の嘘つき!
今までのならどっかの屋台や出店で焼きそばかアイスでも食べてる頃合いだろうが!
今の俺にはお前が必要なんだよ!
「あ、松村先輩なら今日は彼女とデートらしいですよー」
鹿山から思わぬ情報を与えられ、俺の頭はフリーズする。
なんと今日は彼女とデートとはね。
なるほど、それなら仕方ないだろう。
仕方ないだろう仕方ないだろう仕方仕方仕方……シカタタタタタ……は?
ちょ……、おまえふざけんなよ!
彼女がいるとか初耳だぞ。アレだろ。どうせ脳内の妄想の産物だろ?
俺分かってんだからな!
「あ、先輩。松村先輩から写メ来ましたよ。隣の人が彼女さんでしょうか。可愛い人ですねえ」
「あああああああああああああああ!」
俺は周囲のお客さんからの奇異の目を無視して、ひたすらに慟哭した。
そこに写っていたのは普通に可愛いらしい女性。
制服から見るに隣区の日野百合女学院の生徒だろう。
あの野郎、いつの間に……!
友達だと思っていたのに!
「痛ぁっ!」
「先輩。色んな意味でちょっと失礼じゃないですかね」
「同意。少なくともあんたも傍から見れば充分に羨ましがられる立場だよ」
今度は鹿山につねられながら、瀬川に何度も背中を叩かれる。
……はい、言われてみればそうですね。隣の芝は青く見える的なもんだって。
「でもさぁ、アイツの方だってちょっと水くさくない? もう少し話してくれても良かったじゃん」
「いえ。私は以前から知ってましたし、だからこうして写メとかきたんですよ?」
「私も相談とか受けてたよ」
「うがああああああああああ!」
やっぱ確信犯じゃねーか、チクショー!
なんで俺をハブった!
俺が一番お前と付き合い長かったよね?
「そういう所だと思いますよ?」
「無駄に騒いで全然役に立たないのは目に見えてるよね。はいはい。いいから泳ぐよっ」
「なんなら昼食賭けて競争でもします?」
強引に俺の背を押していく二人。そんな事をしても話は終わっていない。
松村、あとで記者会見だからな……。
すると、桜沢がすごく申し訳なさそうな顔でポツンと立ってる
「桜沢どうした?」
「え。あっ、うん」
奥歯に物が挟まったような顔をしている。こいつがこんな表情をしているなんて珍しいな。
もしかして体がどこか具合が悪いとかか?
「いえ、そうじゃなくて……私泳げないの」
「「「え」」」
桜沢からのカミングアウトに全員いたたまれない気持ちになる。
いや別に見た目で判断していたわけじゃないんだけど、ちょっと意外過ぎたわ。
「ごめんなさい」
「いや、こっちこそ……」
どう声をかけたらいいかわからない。
「ちょっ……どういう事ですか⁉」
「仕方ないじゃない! あなたが勝手に話を進めるからっ!」
距離を取ってギャアギャア話し出す桜沢と鹿山。
珍しい組み合わせだな。いつの間に仲良くなったんだ?
「あ。じゃあ一緒に練習するか」
「……うん」
我ながら名案だと思う。
いや、後ろの二人が『えっ』って顔してるけど仕方がないだろう。
桜沢一人置いてけぼりにして、三人でプールであそびましょうってできるわけないじゃんよ。
俺は桜沢の手を取り、プールに入り水の中をゆっくりと移動していく。
「水が怖いとかじゃないんだな?」
「うん」
コクリと桜沢は頷いた。
よし、この辺は足も届く。
しばらくは水中を歩かせて慣れさせよう。
「桜沢、そろそろ大丈夫か」
「うん」
「じゃあ、まずはバタ足だな」
「うん」
さっきからコクリと頷いてばかりの桜沢。
なんだ、この可愛い生き物。
あの鬼の桜沢様が借りてきた猫みたいだ。
どうしよう。ちょっと得も言われぬ背徳感が……痛いっ!
「私も手伝う」
またしても後ろから小突いてくる瀬川も桜沢の練習の指導を買って出る。
こいつもこいつで面倒見良いしな。
彼女の両腕を掴んでからのバタ足。
「体勢がおかしくなってる。もう少しお尻を上げた方がいいよ」
「ひゃあっ」
同性だからか遠慮なしに桜沢の背中やらアソコやら触りまくっている瀬川。
女子二人が水の中で組んずほぐれず。
目に毒なのは勿論、なんだか変な扉を開きそうになる。
そこへ突然――。
「わーい!」
「えっ」
「きゃっ」
小学生低学年ぐらいの子供がダイブしてきやがった。
ぶつかりこそしなかったものの、飛び込んだ際の波を二人は思いきり被ってしまう。
瀬川は思わず手を離してしまう。
といってもほんの数センチ。落ち着いて足を延ばせば届く深さだ。
「あっぷ。ぶはっ――!」
だが、それは泳げない人間にとっては充分に恐怖に値する。
桜沢は完全に混乱してそこまで頭が回らず、手足をばたつかせる。
手を伸ばす瀬川の姿もわからないようだ。
「――っと大丈夫か桜沢」
というわけで、後ろにいた俺が桜沢の両肩を掴んで水から肩から上を引き上げる。
「はぁはぁ――ありがとう」
涙目で顔を赤くしている桜沢。
……怖かったよな。完全にこちらの落ち度だ。
「大丈夫だから落ち着け」
「……うん」
強くこちらの手を握ってくる。しばらくはこうしていた方がいいだろうか。
「コラッ! 急に飛び込んできたらだめでしょ⁉」
「ご、ごめんなさい……」
ふと、瀬川の方を見ると、子供の方を捕まえて叱っていた。
いいぞ。もっと言ってやれ。
「瀬川さんが気になるの?」
いきなり、桜沢からそんな事を言われた。
「そりゃあまあ……」
「そう」
気まずい沈黙が場を支配する。
「ねえ、園部君……」
桜沢がこちらに身を翻して何かを言おうとした矢先、シュルリと何かが解けるような音がした。
「え」
「あ」
その豊かな桜沢の胸部を覆っていた上の水着が解け、その下の豊かに実った肌色の果実――。
「きゃ――」
「先輩ストオップ!」
それを認識する前に。
さらには桜沢の悲鳴が聞こえる直前、鹿山の声と共に俺の視界は両手で覆われる。
「……正直、桜沢先輩のポテンシャル舐めてました」
いや、何の話だよ。
あと鹿山ちゃん、背中から柔らかい二つの感触を感じるんですけど。
「当ててんすよ」
「もう少し離れろっ!」
こんな姿、瀬川に見られたら――!
「何やってんの?」
「うわぁああああああー!」
この後、瀬川は数日ほど口を利いてくれなかった。




