13 おうちで遊ぼう
「オラオラオラァ!」
「ぐぅ……!」
鹿山の連撃に次ぐ連撃に瀬川は押されていた。
気質は勿論、経験に差があり過ぎた。
「はい。おしまーい」
「あぁっ!」
トドメに鹿山はそのまま瀬川にサマーソルトキックを喰らわせる。
ゲームセット、勝負はあった。
「ウェヒヒヒヒヒ。瀬川先輩弱すぎじゃないですかぁ。クソザコォ!」
「泣かすっ!」
最高に腹が立つ笑顔と共にひたすら煽り散らす鹿山と、いつぞやの教室での爆発を再現しかねない程にキレかけてる瀬川。
現在この二人は格ゲー対戦をしていた、俺の家で。
勝敗は見ての通り、瀬川の七連敗。
瀬川は初心者なのだが、鹿山は前作からプレイしているガチガチの熟練者だ。
差は歴然である。
容赦ねえなこの後輩。ちっとは手加減しろよ。
「蹂躙超楽しいー」
クズめ。
一方で、黙々と観戦しながら、ポテチを食い続けている松村。
屋上組集合である。
松村はこれでも中学からの腐れ縁で互いに家も知っているぐらいには親しい仲だ。
だけど、鹿山の方は少し話すようになったと思ったら、いつの間にか、家まで来るようになってたんだよな、教えた覚え無いのに。……怖い。
そんな後輩ちゃんはいまだに瀬川を煽っている。
何が彼女をここまでさせるのだろうか。
「やーいやーい、瀬川先輩のザーコザーコザー痛ァ!?」
とりあえずこのままではリアルファイトに発展しかねないので、鹿山の頭に拳骨を入れておく。
「ちょっ、先輩! 女の子に暴力振るうって最低じゃないですかぁ!」
「男女云々を盾に好き勝手やる奴には俺は遠慮せん」
見ると瀬川は、涙目で怒りと悔しさでプルプル震えていた。
ちょっとー鹿山ぁー! 瀬川さん泣いてんじゃーん!
「ざまぁ――イダダダ! 先輩やめて、頭掴んで力入れないで! 潰れちゃうぅ! ……っていうか先輩が悪いんですよ。なんか瀬川先輩にだけ甘いじゃないですか?」
「お前に容赦しないだけだ」
何ですかそれー、と俺の拘束を逃れた鹿山は寝転びながら、駄々をこねるように手足をバタつかせる。
少しは己の言動を思い返せ。
そうして、ようやく俺は鹿山とゲームを交代して瀬川の機嫌を直すため、接待プレイをしたら手加減とか屈辱とキレられるなど時間が過ぎていく。
「あ、先輩。コーラおかわりお願いします」
「私もおかわり」
このメスガキ共が……。
さっきの対立は何だったのか思うほどに。こういう時は息の合った連携をかましてきた。
おかげでちょっとでも労ってやろうと思った思いやりの心は消えてしまった。
「滅相もない。俺は見ての通り小食ですゆえ、菓子パンを三つぐらい頂ければ」
ちなみに松村は終始ウチにある食い物を貪っている。
お前はもう外で雑草でも食ってろ。
確かに、色々と一段落したし、家でパーッと遊ぶかって提案したのは俺だけどさ。
どいつもこいつも、ここまで好き勝手にされると後悔したくなる。
「園部、ポテチ切れた。追加お願い」
いい加減にしてくれない?
「そういえば、そろそろ本格的に夏ですよね」
ふと鹿山が窓へと目を向ける。
最近、ずっと外はひっきりなしに雨が降っているが、時期的にはもう空けるだろう。
気温の高さと湿気も相まってジメジメと蒸し暑いし、そろそろ外に出たい。
「そうだ。次は皆で海水浴に行きましょうよ」
「面倒くさっ。クーラ効いた施設でいいじゃん」
鹿山の提案に瀬川は露骨に難色を示す。
こいつ、外に出るのは好きだけど、海や山は嫌いという半端アウトドアである。
「まあまあ。あ、瀬川先輩おっぱい小さいですもんね。水着とか選ぶの楽でいいじゃないですか」
「は?」
瀬川の額にビキリとわかりやすいぐらいの青筋が浮かぶ。
そういや鹿山って意外とあるんだよな。
それに比べて瀬川は……無いわけじゃない。むしろ美乳と呼ぶべきぐらいの丁度良いサイズだと思う。
ふむ。もう少し目を凝らして観察せねば――。
「何?」
「ひぇっ」
いかん。矛先がこちらに向いた。
どうにかこの状況を打開せねば。
「落ち着け。ひ、貧乳はステータスだ」
無言のビンタが飛んで俺は甘んじてそれを受け入れる。
喜べ、塩見。俺もお前側だ。
一瞬『いや、そんなので同類扱いされても……』と言いたげな彼の顔が思い浮かぶ。
「待て。お前の真骨頂はおそらくうなじからその形の良い尻にかけての美しい曲線美にあると俺は……」
今度は鳩尾に良いのを貰ってうずくまる。
そのまま一方的なボコり合いが始まろうとしたその時、ピンポーンと玄関のインターホンが鳴る。
これはチャンスと俺はその場からそそくさと離れて、玄関へと向かう。
「待たせたわね、園部君。私が来たわ。勉強の時間よ」
「待ってません。帰ってくださいませ」
突如襲来した桜沢に俺は戦慄する。
今日は勉強会じゃないんだよ。
つーか誰だ、この女を呼んだの。
三人を一瞥するとドヤ顔で鹿山が携帯を掲げていた。
貴様かぁ!
「心配しないで鹿山さん、一年生用に過去問を持ってきたから。さあビシバシいくわよ」
「ほぎゃー!」
ほれ見た事か、自爆しやがったよ。
この女は貴様のようなメスガキ後輩に御しきれる存在じゃないんだよ。
「……!」
一方で瀬川の方は静かだった。
……いや、瞠目していた。
釣られて、鹿山も気付いて、呆気に取られる。
……背を反らす私服姿の桜沢、そのブラウスに包まれた胸部はゆっさと揺れた。
ああ、桜沢って、そういやスタイルかなり良かったな。
「「負けた……」」
ガクッと項垂れる二人。
もう勝手にやってくれ。
俺はとりあえずレアな桜沢の私服姿に感謝の意を捧げる。
決してそのご立派な双丘を見ていたわけではない。
「なんだ。やっぱり、みんな勉強会したかったんじゃない」
何をどう勘違いしたのか、当の桜沢は得心が行ったように頷いている。
……しまった、こっちの問題が放置したままだった。
こうして俺たちは残りの時間をこの独善者の説得に費やすのだった。




