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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第一章 胡蝶編
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後始末

「ヨギリさん、どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもござりんせん。騒がしいので様子を見に来たのでありんす。そしたら主さんが殴られてるでござりんせんか。一体なんざんす?」


 ヨギリがつかつかと部屋に入ってきて説明しろとサラを睨む。


「あ、いや・・・そのすいません、ヨギリ姐さん・・・」


 胡蝶トップ3の1人が現れて萎縮している様子のサラ。確かにヨギリの威圧感は凄い。睨まてれない俺ですら少し恐怖を感じたくらいだ。


「私が代わりに説明しましょう。ところで彼に何したんですか?」

「ちと魔法を使って眠らせただけでありんす。」

 

 なるほど。これ以上暴れられる前に睡眠魔法をヨギリがかけてくれたらしい。


 しかしヨギリの魔法は相変わらず凄い。普通は長ったらしい詠唱が必要らしいが、ヨギリはほとんど無詠唱だ。いつ魔法を使ったのかさっぱりわからない。まあヨギリだけでなく、アマネやコハルもこれと似たような感じだ。うちのトップ3は人気だけじゃなく、魔法の実力までもが凄まじい。


 なんだこいつら。化け物か。


「・・・主さん何を考えてるでありんす?わっちの折檻がお望みでありんすか?」

「まさか、そんなわけないじゃないですか。」


 さすがヨギリ。俺の表情から考えてる事を読み取るなんてお手の物らしい。他の嬢達が恐れるはずだ。だがまあヨギリやアマネのような実力者がいるから胡蝶に手を出そうとする者がいないのだ。こうして平和なのは彼女達のおかげだろう。


「まあよろしいでありんす。それより主さん、説明しておくんなまし。」

「はい、実は・・・」


 俺はヨギリに一部始終を説明する。


「・・・そうでありんすか。それで主さん、この野暮どうしなんす?」

「そうですね・・・ヨギリさん、お手を煩わしてしまい申し訳ありませんが、彼の中からサラさんの記憶を消去して頂けませんか?」


 これ以上騒ぎを大きくする意味もない。このお坊ちゃまには綺麗さっぱり胡蝶の事は忘れてもらい、お帰り頂こう。


「サラさん、それでいいですか?」

「え・・・あ、はい。わ、私は大丈夫ですが・・・」


 サラが問題ないのであればそれでいいだろう。


「そういうわけなのでヨギリさん、お願いできますか?」

「主さんがそう言うなら・・・いいでありんす。」


 ヨギリは片手を上げ、手を軽く振る。正直何をしたのかわからない。だが先ほど眠っていた貴族のお坊ちゃまが目を覚まし、ふらふらと部屋から出て行った。


「これで大丈夫でござりんす。」


 まだどこか不機嫌そうなヨギリ。


 まあとりあえずこれで一件落着だろう。


「それより主さん!なにしてるでありんすか!」


 急に声を荒らげ、俺を睨むヨギリ。


 何故怒られているのだろうか。


「早くこちらへ来るでありんす!顔が腫れているでござりんせんか!」

「あ、そうです!ハルさん!お顔大丈夫ですか!い、今、冷やしますね!」


 なるほどその事か。しかしヨギリの慌てる姿は新鮮だ。


 そしてサラはどこから取り出したのか、濡れたタオルを顔に当ててくれる。冷たくて気持ちがいい。


「わっちがするでありんす、サラ嬢は下がってておくんなまし。」

「いえ、これは私のせいですので私が。ヨギリ姐さんこそお戻りください。」


 なんか急に睨み合いを始めた2人。今度はこっちで喧嘩が始まった。普段ならサラが萎縮して終わるのだが、今回は何故か一歩もひかない。


「私は大丈夫ですから。ところでヨギリさん、お客様は大丈夫なんですか?」


 ヨギリは騒がしいから様子を見に来たと言っていたが、ヨギリも客を取っていたはず。まさか客をほったらかしにして来たわけではないと思うが・・・


「わっちのおゆかり様はもう夢の中でありんす。寝たら好きにしていいと言われてるのでなんの心配もいりんせん。」

「そうですか。それならよかったです。しかし助かりました。」


 ヨギリに改めて礼を言う。彼女が来てくれたおかげであれ以上の騒ぎにならずに済んだのだ。


「いつも本当にありがとうございます。」


 こういったトラブルは本当によくある。娼館ならではだ。ただいつも絶好のタイミングでヨギリやコハル、時にはアマネが姿を見せ、面倒な客を今日のように魔法で無力化してくれるのだ。


「い、いつも・・・偶々やし。深い意味なんてあらへんもん。」


 偶々とはいうが、あんないいタイミングで毎度毎度登場出来る物なのだろうか。ただ彼女達が何をしているかなんてさっぱりわからない。魔法で何かをやっているんだろうが、魔法の才能のない俺にはわかるわけがない。ただヨギリの動揺が半端ないので、何か裏がある事だけはわかる。


「ヨギリさん、ヨギリさん、口調戻ってますよ。」

「・・・!き、気のせいでありんす!ハルは早く仕事にもどりんせん!」


 ヨギリがシッシッと俺を追い払うように部屋から追い出してくる。


「はいはい、わかりました。それでは失礼します。」


 確かにまだやる事は残っているので、俺は仕事に戻るとしよう。


「あ、ハルさん、私はどうしましょう?」


 部屋を出る直前、サラが呼び止めてきた。


「そうでしたね。うーん・・・サラさんは今日はもう好きにしてください。結局返金はしなくて済んだので、今日の稼ぎは問題ございません。」


 これから新たに客を取る必要もない。面倒な客にあたった事だし、今日はもう休みと言う事でいいだろう。


「ほ、ほんとですか!じゃあハルさんのお手伝いをしま・・・ち、ちょっとヨギリ姐さん!離してください!耳引っ張らないで!痛いです!」

「うるさいでありんす!主さん、早く仕事に戻りなんし!」


 いつの間にかサラの隣に立っていたヨギリがサラの耳をおもいっきり捻り上げている。ヨギリは一体何してるんだ。ただもの凄い威圧感を放ってくる。怖い。これは余計な事は言わずにそっとしておいた方がよさそうだ。


「2人とも程々にしてくださいね。それでは失礼します。」

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