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胡蝶の夢、夜に舞う  作者: 天霧 翔
第二章 新天地編
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エルフィリア

 あれからエルフィリアを連れ、胡蝶がある浮遊島へと戻った。道中何回もエルフィリアに罵られたのは言うまでもないだろう。頓馬、馬鹿、愚図・・・ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせられた気がする。まあ手までは出して来なかったので、完全に嫌われてるわけではないようだが。


「こ、これは転移です・・・か?」

「うん。」


 さすがに転移魔法には驚いていた。


「『うん』ってなんですか。ちゃんと説明してください。ご主人様の知能は虫以下なんですか?で、ここはどこなんですか。」

「・・・浮遊島の1つだよ。」

「え・・・実在したんですか?」


 そして浮遊島にも驚いていた。


 吃驚しているところも可愛い。ただやっぱり口が絶望的に悪すぎる。


 しかしまさか浮遊島が伝説上の存在だとは思わなかった。アマネ達はそんな事教えてくれなかったし、ヒスイも「ここが私の家よ!いいでしょ!」くらいにしか言っていなかった。だからここが幻のような場所だという事実は俺もある意味驚いた。


「とりあえずみんなに紹介するよ。」

「居心地が悪いので早くしてください、ご主人様。」

「は、はい・・・」


 俺主人なんだけどな、本当に容赦がない。とりあえずアマネやサクヤ達を改めてエルフィリアに紹介した。


「じゃあ次は・・・」


 胡蝶を案内しつつ仕事について色々教えておこう・・・と思ったのだが、アマネが「わらわ達が教えるのじゃ」と言ってきた。自分達で「色々」教えておくとの事だ。まあ確かに俺が教育係をするより、アマネ達の方が適任だろう。


「エルフィリアの部屋だけでも決めようか・・・どうするかな・・・」

「その辺もわらわ達に任せておくのじゃ。お主はさっさと昼寝でもしてこい。」

「え、でも・・・」

「うるさいのじゃ!黙って部屋に引き篭もっておれ!!」

 

 そして俺は無理矢理自室へ戻らされた。なんで俺は追い払われたんだろう。どうやらエルフィリアのお世話は一切させてもらえないらしい。もしかして胡蝶に慣れるまではアマネ達が面倒見るつもりなのか?俺も色々教えたかったのに・・・というかおかしくない?あの子は俺の奴隷のはずなんだが。



 * * *


 

 私はハーフエルフのエルフィリア。母親がエルフ、父親が人族です。ただそんな馬鹿で無責任な両親のせいで奴隷になる事になりました。


 父親はどこかの貴族らしいのですが、顔も知りません。母親はそんな父親に一目惚れし、私を授かったそうです。ただ父親は遊び程度にしか思ってなかったようで、私を認知してくれませんでした。そして母親は私を生んですぐに私を奴隷として売りました。


 エルフの癖に人族なんかに恋をするからです。身の程を分け前てください。本当に無責任な親で嫌になります。この世界でエルフがどんな扱いを受けているか、馬鹿でもわかるでしょう。


 そんな人族とエルフ族の両親から生まれた私はハーフエルフ。混血なんてもう完全な忌み子同然です。人族からは差別され、エルフからも見下されます。私は生まれたときから虐げられる事が決まっていたのです。無能で無責任な両親のせいで。


 そして奴隷となった私。ただ私は幼かったので、すぐに売られる事はありませんでした。「女」として売れる年齢になるまでクレシア商会に育てられる事になり、一応それなりに幸せな毎日を送っていました。ですが数年前、私はいよいよ売りに出される事になりました。


 どんな相手に売られるのか不安で仕方なかったので、私は自分が気に入る人が見つかるまで首を縦に振らないことにしました。奴隷本人が「買われてもいい」と言わない限りは売られないので、徹底的に見極めてやろうと思ったのです。房事を条件付きで〇にしたのもその為です。本当は大切な人の為に取っておきたいとも思いますが、奴隷の私にそんな高望みは無駄でしょう。ならせめて私が気に入った人がいい。そう思ったのです。


 幸いにも私は見た目は良いようです。私を買いたいと言う人は大勢いました。ただ全員が私を気持ち悪い目で見てきたので、全てお断りしました。そしてそんな気持ち悪い視線に晒され続けたせいか、私の口はどんどん悪くなっていったのです。性格も最悪だと奴隷仲間に言われます。でも仕方ないでしょう。客とはいえ、あんな不快な連中の相手をしなければならなかったのですから。


 クレアは嘆いてました。奴隷なのに態度が悪い、そんなんじゃ売れないと。もし売れなかったら、数年で私の価値は下がり、犯罪奴隷と一緒に処分すると言われました。それはさすがに嫌です。やはりどこかで妥協しないといけないといけないのでしょう。


 そんな時でした、クレアに「この人に買われなさい」と言われたのは。今までそんな事を言われた事はありませんでした。そして実際に会ってみたら・・・驚きました。あのアマネ、ヨギリ、コハルが側にいたのです。


 彼女達はそれはもう有名です。異種族ながら元Sランク冒険者として名声を欲しいままにしていたのですから。そして突如冒険者を引退し、娼婦になった事でもさらに有名になりました。ただ何故かは知りませんでした。でもきっとのっぴきならない理由があったのでしょう。異種族は差別の対象ですし、色々大変ですからね。


 ですがこの男に会った事でその理由がわかりました。娼館の支配人であるこの男が全ての元凶。きっとコハルさん達の弱みを握って娼婦にしたに違いありません。私は同じエルフとしてコハルさんには憧れていました。そんな憧れのコハルさんを陥れたこの男、絶対許せません。


 ただクレアにはこの男に買われなさいと言われました。こんな残虐非道な男に何故・・・と思ったのですが、その理由もすぐにわかりました。


 コハルさん達は楽しそうだったのです。この男と一緒にいて凄く楽しそうにしていました。娼婦にされたはずなのに不思議です。ただクレアが買われなさいと言ったのは、こう言う意味だったのですね。きっと彼になら買われても不当な扱いを受けない、そう言う事なのでしょう。


 コハルさん達を娼婦として働かせている彼の事は正直気に入りませんが・・・今までの連中に比べたら遥かにマシです。私の事を変な目で見てきませんし、仕事内容についても何も文句ありません。


 仕方ないですね、彼で妥協しましょう。彼の奴隷に・・・と思ったのにあの男、帰りやがりました。また来ますとか言って帰りました。ありえません。この私が買われてもいいと言ったのに、帰るなんて。お淑やかな女性の演技までしたのに・・・


 一生恨んでやる・・・と思ったのですが、何故か数日後に私を改めて買いに来ました。正直ちょっとだけ嬉しかったです。ちょっとだけですけどね。奴隷契約も安心できる条件でしたし、房事についても強制されませんでした。しかも殺傷行為を禁止しなかったのです。これはラッキーです。私の気持ちを弄んだこの男、いつか殴ってやります。まあ私の事をちゃんと買いに戻って来たのは評価してあげますけどね。






 そして奴隷として買われた私はあの男の屋敷に連れて来られました。


「みなさん・・・はじめまして。エルフィリアと申します。」


 ただまさか転移魔法で浮遊島に連れてこられるとは思いませんでしたが・・・。幻と言われているような場所に住んでいるなんてどこまでも常識外れの男です。しかも娼婦らしき美女が30人近くもいるではないですか。


 鬼畜です。この男、鬼畜男です。一応私の事を買ってくれたし、手は出さずに暴言だけにしていたのですが・・・これは殺した方がよさそうですね。暴言を吐いてる時もコハルさん達はニコニコしているだけで私を一切咎めませんでした。つまりこの男を何とかするのは私の仕事、そう言う事なのですね。任せてください、コハルさん。


「ハルさん、部屋に戻ってなさいな。この子には私達が色々教えておくわ。」

「え?でも・・・」

「いいから部屋に行って昼寝でもしてなさい。」


 そう言ってコハルさんは鬼畜ご主人様を追い払ってくれました。なるほど、これから殺害方法についてお話するのですね。


 しかしあの男、帰ってくるなりヨギリさんやサクヤさんの尻尾を愛でていましたが、あれは一体なんだったのでしょうか。狐人族は尻尾は大切な人にしか絶対触らせないと聞きましたが・・・まさか無理矢理触って?でもヨギリさん達は嬉しそうにしてましたし・・・うーん、よくわかりません。


 とりあえず殺しましょう。それがいいです。


「ねえ、あんた変な事考えない方がいいわよ?」

「え?あの・・・あなたは?」


 急に声をかけられて驚きました。青色髪の美少女です。


 この人も娼婦なのでしょうか。


「ん、私はヒスイ。ハルの護衛よ。」

「ご、護衛ですか・・・?」

「そうよ。私、竜族なの。偉いのよ!」


 もの凄いドヤ顔です・・・って今なんて言いました?


 竜族?あの伝説の生物と言われてる竜ですか?


 ・・・何故竜族がいるんですか。そして何故竜族があの男の護衛なんてしてるんですか。本当に非常識極まりない場所です。


 ただ1つわかりました。つまりあの男に手を出そうとしたらこの人が黙ってない・・・そう言う事ですね?


「ん?なんか勘違いしてない?私はあなたの為に言ってるだけなんだけど?」

「え、どういうことですか・・・?」


 私は彼に殺気を向けた。だからヒスイさんが口を出してきた。


 そう言う事ではないのですか?


「まあ・・・わからないならいいわ。でも私もハルを結構気に入ってるの。変な事したらカプって食べちゃうからね。」


 待って、食べないでください!美味しくないですから!


 ふぅ・・・怖ったです。とりあえず竜族が彼を守ってると言う事がわかりました。これは迂闊には手を出せません。どうしましょう。


「さて・・・では教育しましょ。」

「せやな。」

「そうじゃの。」


 ・・・え?ヒスイさんと話してたらいつの間にかアマネさん達に囲まれてるんですが。目が怖いです。


「ど、どうしたんですか?あの・・・」

「私の可愛い弟によくも暴言を吐いてくれましたね。」

「・・・です!」


 サクヤさんやユイカさんも恐ろしい形相で私を睨んでいます。私、何か不味い事をしてしまったんでしょうか。


 いえ、そんな事はないはずです。きっとみんなあの男に騙されているだけ。


「大丈夫ですよ!みんなで力を合わせてあの男を殺しましょう!」


 そう宣言した後の私の記憶はありません。


 ・・・ええ、ありませんとも。だってこの記憶は一生封印しますから。一言だけ言うなら、ヒスイさんが「変な事は考えない方が良い」と言っていた意味が本当によくわかりました。二度と考えません。ごめんなさい・・・ぐすん。






 それから暫くして「ハルさん」がリビングに戻ってきました。


「ご主人様!お昼寝は如何でしたか!」

「え?あ、うん、ぐっすりだったけど・・・」


 メイドとしてきちんとご主人様に挨拶します。


「それはよかったです。もうすぐお夕食が出来ますのでもう少々お待ちください。」

「お、おう・・・ところであの・・・エルフィリア、何かあった?」

「イエナニモ。」


 そうです。何も無かったのです。


「ほんとに?」

「はい、ご主人様は良い人です!誠心誠意尽くしますのでよろしくお願いします!」


 ハルさんは良い人だとわかりました。ええ、それだけの事です。だからあの記憶を思い出させないでください。


「そうか・・・うん、何かごめんね。でもこれからはアマネ達が何かしたらすぐ俺に言うんだぞ。俺がしばいとくからな!」


 私の態度からハルさんは何かを察したようです。でも後が怖いのでアマネさん達をしばかないでください。気持ちだけで嬉しいですから。


「だ、大丈夫です!私は平気ですから!」


 ハルさんは悪い人ではありませんでした。アマネさん達が「優しく」教えてくださいました。だから全部私の勘違いだったのです。娼館の支配人をやっているのもアマネさん達のお手伝いというだけで、全ては彼女達の為。彼は何も強制したりしていません。


 それにハルさんは異種族であるアマネさん達を虐げたりせず普通に扱います。差別なんて一切していません。むしろその逆。ハルさんはみんなの事が大好きなようです。そしてそんなアマネさん達もハルさんの事を大切に思っています。大事な家族、大切な弟。まあ数人からはそれ以上の感情が見て取れますが・・・これ以上口にするのは無粋な気がするので止めておきます。


「アマネ!お前エルフィリアに何したんだよ!」

「な、なにもしてないのじゃ!」

「うそつけ!・・・おい、ヨギリにコハル!何で目を逸らすんだ!」

「し、しらんし!」

「そうよ!冤罪よ!私は何もしてないわ!」


 アマネさん達が慌てています。この3人は特にハルさんに弱いです。あと甘々です。でも何やってるんですか、ハルさん。余計な事言うのはやめてください。こっちに飛び火しますから。


「エルフィリアも言ってあげてよね!私は何もしてないって!」


 ほら、早速飛び火したじゃないですか・・・


「え、えっと・・・」

「エルフィリア、本当の事を言え。コハル達はお前に何をしたんだ?」


 ハルさんは「大丈夫だから言え」と言っていますが、その後ろでコハルさん達が「言ったら殺す」と恐ろしい目で私を睨んでます。滅茶苦茶怖いです。


「な、なにもないですよ?」


 さすがに言えません。


「アマネ達はその子を苛めてたのよー?」

「ヒ、ヒスイさん!?」


 この竜族は何を言ってるんですか!私まだ死にたくありません!


「ふーん、そうなのか。アマネ・・・」

「ち、ちがうのじゃ!これには訳があるのじゃ!」


 あ、でもハルさんがアマネさん達に説教してくれてます。ちょっと泣きそうになってるアマネさん達・・・いい気味です。


「違うの!あのハーフエルフが悪いのよ!ハルさんに暴言吐くから!」

「せやで!うちらはなんも悪ないもん!」


 だから私を巻き込まないでください。


 確かに暴言は吐きましたが・・・


「・・・もしかしてサクヤ達も何かしたのか?」

「だ、だって・・・」

「サクヤ?」

「うぅ・・・ごめんなさい・・・」

 

 サクヤさんが尻尾をしょんぼりさせて落ち込んでいます。ちょっと可愛いです。


「次そんな事したら・・・その尻尾、毟ってマフラーにするからな。」

「そ、そんな!酷い!動物虐待です!!!」

「何が虐待だ!お前らいつもヒスイにドラゴンステーキとか言ってるだろ!」


 この人達は竜族にそんな事を言ってるんですか。まあアマネさん達ならヒスイさんくらい余裕で倒せますもんね・・・


「そうよ、ハル!もっと竜族を大事にするよう言ってあげて!」


 最初はヒスイさんがいるから、アマネさん達はハルさんに従ってるのだと思いました。でもそれは逆で、アマネさん達が怖いからヒスイさんはここにいるらしいです。今もヒスイさんはハルさんに隠れるようにして文句を言ってますし。というか伝説の竜族が何でそんなに怯えてるんですか。


「トカゲのくせに調子にのらないでください!これはやはりステーキに・・・!」

「ひぃ!?ハルううううう!!!」

「だからうちのペットを苛めるな!!」


 まあアマネさん達は怖いですからヒスイさんの怯える気持ちはわかります。でもペットって言われて必死に頷いてるヒスイさん、あなた本当にそれでいいんですか。


「ほら、エルフィリアも何か言ってやれ!」

「だ、大丈夫です!そっとしておいてください!」


 私にはまだ無理です。というより私はここで無事にやっていけるのでしょうか。心配です。でもいいご主人様に出会えたようで嬉しいです。

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