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それぞれの曲作り、テーマバトル前日

 ライブバトルにも様々あるが、ドリカム杯は『フリースタイル』、各人が得意なジャンル、好きな歌でライブに挑むことができる。

 異種格闘技のようであるが、心が動かされたファンたち、そして世界の判定で勝敗が決まる。メジャージャンルが有利なのは言うまでもない。

 今回地獄三人衆が提案してきたのは『テーマバトル』、テーマに沿った楽曲を選ばないといけないのだ。そのため歌詞が似通ることも多々あるが、その分個性も出ることも多い。

 問題は曲が限られるため、テーマバトルのために新しく曲を作ったり貰ったりするアイドルも多い中、戦いが明日に迫っているということだった。


「……つまり、私達は明日までに『生きる』というテーマの曲を作らないと戦うこともできず負ける、と」

「テーマバトルなんて流行ってないし、あっても普通開催まで数ヶ月ってのが基本だからね。『明日』『テーマバトル』なんて喧嘩売ってるようなもんだよ。まずふざけんなって言っていいと思う」


 ほほお、とクオンが呑気に納得する。本当はアメノも怒鳴りたいくらいだったが、ファン数バトルで敗北している以上うまく言葉を出せなかった。キラリも反抗しようとしたが、それ以前に逃げられたわけである。


「……どうするんだ。こんな勝ち目のない戦い」

「ああ、それは……」


 絶望的な表情を浮かべたアメノに、またほんわかキラリが答えようとした時である。


「おうおうおう! やいやいやい! お前らが新入りだってんだな!? 私はお前らの監督役になるコベニってんだ!!」


 小柄なクオンよりなお小柄な、というか小さな子供が大きな態度で現れた。彼女こそラジャに任命された世話係、地獄の案内人である。

 赤い髪が少年のような短髪でまとめられて、強気な表情と裏腹にか細い少女の心もとない体づきに、キラリが思わず胸打たれた。


「か、かわいい~!」

「なんだってんだこのやろー!? 私を甘く見るんじゃねー!」

「持って帰ろうか」

「な、なんだってんだ!?」

「おいキラリ。……いやしかし、監督役って何をするんだ、本当に」

「まずはお前らを地獄で住む家に案内してやる! だから助けれ!」


 キラリが既に抱っこしてコベニの頭の匂いを嗅いでいる状態である。それはスーパーアメノチョップでやめさせた。


======================


 コベニに案内されるまま訪れた場所は、街だった。ドリカム杯の行われていた付近ほどに栄えているが、赤い地面と夕闇の空は変わらず、どこか陰鬱な雰囲気も感じられる。

 けれど街の人間は基本的に笑顔だ。ここが地獄、ということを忘れられるほどには人の住む場所として機能している。


「なんかあれっぽいね。江戸時代みたいの風景みたいな」


 文化のレベルは表舞台よりいくらか低い。オニコやラジャの服装のようにどこか和を思わせたり古臭いところ、そういうのがメインになっているからかキラリはそんな感想を覚える。


「ここがお前らの家だ! ありがたく思え!」


 コベニに連れて来られたのは長屋の狭い一室である。長屋というのは、横に長ーく伸びている建造物で、区切られた部屋を住人がアパートのように共同で住む場所。まあアパートを借りているようなものだ。

 中は三人が住むには狭い。暖房と調理場として囲炉裏があるくらいで、他はない。まあ外食がいくらでもできるし、フェルパラはそもそも死なないし、寝床があれば良い、と言う程度のもの。


「うーんありがとうコベニ、なでなでしてあげる」

「いらんやめろっ!」


 コベニはキラリの手を振り払って部屋の隅に立つ。監督役、というだけあって三人一緒にいるのなら見張るように言いつけられている。であればバラバラで行動した場合誰に付き従うかだが。


「お前、お前だ! お前が絶対ファン数の一番多い奴だと見ればわかる!」


 とアメノの背中に隠れる。ファンが多い奴がリーダー格、というのはわかりやすい考えだが。


「ざんね~んファン数二百三十五万の女、キラリです。ほ~らコベニちゃんおいでおいで」

「嘘を吐け! オーラはこっちの方があるぞ!」

「う、オーラはそっちの方があると私も思う」

「いや、どうせ私はファン数三千五百だよ……」


 悲しくて棒立ちするアメノを中心に、キラリとコベニが追っかけっ子を始める。キラリはその気を出せば捕まえられるのに、この時間が続けばいいのにとわざとゆっくり回っている。一生この時間が続けばいいのに、なんて心の中で想って。


「嘘だ嘘だ! お前なわけがない!」

「へっへ~ん私だよ~!」


 ただクオンが呆れてそれを見ていた。


=================-


「えー、じゃあ真面目に考えていきますか」


 結局、コベニはキラリから距離を取りながら彼女に付くこととした。ファン数が多いのは事実で、そんなリーダーである彼女を監視するのがラジャから与えられた役目だからである。

 キラリはそれを喜びながらも今は隠して、真面目に作戦会議。時間も分かりづらいこの地獄だが今は昼頃だろう。レッスンするなら今すぐしたいくらいだから。


「テーマバトルをするなら『生きる』テーマの曲一つあれば、それを三人で特訓すればいい。曲も振り付けも歌詞も明日までに考えて作るなんて普通は不可能だからね」

「……ふむ。だが冷静に考えれば、テーマが『生きる』と幅広いのだから私の『Against ob whole world』 でもクオンの『失われた時を求めて』でもそのまま通過できるかもしれない」

「まーね。結構きわどいラインだけどそれもありかな。流石にドリカム杯にもなるとみんな自分の生き様を歌っていると言って過言でもなし」


 難癖をつけられる可能性もあるかもしれないが、生きるというテーマだと言い張れば可能かもしれない。

 ただ自分を騙すような真似なら『世界』はそれを認めない。即刻敗北にもつながる。

 生え抜きの実力者たち、それも自分の曲も歌詞も振り付けも自分で考えている者達だ。それくらいならなんとか持っていてもおかしくない。


「そういえば、何か秘策があるように言っていたが」

「あるよ。この戦いに勝つための曲作りを私が速攻でするの。曲も、歌詞も、振り付けも、一時間でパパっと」


 点、点、点。

 アメノとコベニが絶句する中、少しの間を置いてクオンが呟く。


「どうせ作るなら、自分で作ってみたい。地獄に来てからインスピレーションが沸いてきました」

「おっ! いいね、そういうの大事だよ。作りたい時に作るのが一番」

「ふ、ふざけるな!! そんな適当に曲を作るなど……」


 曲、とは一曲入魂、自分の気持ちを、感情を、夢を、野望を、熱意を、悲しさを、全てを歌い上げるもの。踊り示すもの。一朝一夕で作り上げそれをどうにかしようなどアメノには考えられない。

 だがクオンは無表情ながら確固たる語気でアメノに向かう。


「……地獄に来てから新鮮な気持ちで。なにか、自分を表現したかった。……生きる、というテーマも悪くない。私を信じて欲しい、今の私を」

「……コベニ、ライブバトルはどういうルールだ」

「三対三で二人勝った方が勝ちのチーム戦だ! ファン数の多さで対戦相手が決まるから、お前はコオニと、お前はキキと戦うことになっているぞ!」

「……え、じゃあ私があのラジャと戦うの? やだなぁ……」


 キラリは相変わらず緊張感がないし、本気かどうかもわからない様子で溜息を吐いている。だがクオンとアメノの雰囲気はまだ真剣なまま。


「間に合わせますし、適当なものにはしません。誰かの作った曲を歌うよりも良いと思います。」

「……わかった。信じることにする」


 心配だが、確かに今までの曲で戦え、というのは記憶喪失のクオンには難しい。かといって『失われた時を求めて』がテーマに合うかどうかも難しいところだ。ここはイチかバチかにかけるしかない。


「で、アメノはどうするの?」

「私は『Against of whole world』で出る。作ってもらう必要はない」

「へー。じゃいいや」

「……お前はどこまで適当なんだ」

「適当、いいじゃん。力抜いてできるならそれに越したことはないよ」

「……見損なった。お前にはどこか、見上げた、星のような輝きがあると思ったが……不快だ」


 言うと、アメノは自分からその場を去った。顔も合わせたくない、という意思表示だろう。キラリはあちゃあ、と手を顔に当てて悲しみを表現してみせるが、それを確認もしてくれない。


「……大丈夫か? チーム戦みたいなものだぞ」

「いやめちゃくちゃ凹んでるけど。なんか嫌われたし」

「キラリは真剣みが足りません。いつも」

「ええー。クオンもそう思っていたの? コベニみたいにいっつもデカい声出しとけばいいってわけじゃないじゃん」

「こっ、こらこのやろー!」


 馬鹿にされた、とコベニがわちゃわちゃ突っかかるが、それをキラリは嬉しそうに受け止める。


「じゃクオンにだけ教えるけどさ、私フェルパラ作家なんだって」

「……フェルパラ作家ってなに?」

「そこぉ!?」


 記憶喪失だから仕方ない。だから仕方なく説明を始める。

 フェルパラにいるのは全員がアイドルだ。中にはコベニのような称号『アイドルみならい』もいるし、『駆け出しアイドル』『ベテランアイドル』など汎用称号もいるが、真面目にやっていればドリカム杯出場者のようにそれぞれオリジナル異名を持つ立派なアイドルに慣れる。

 ただフェルパラはテーマパークや町の機能もある。そうした町人の薬をアイドルがすることもある。

 その中でも特殊なのが『フェルパラ作家』。

 フェルパラ作家は、歌、踊り、曲を作りそれを配布したり売ることをする。フェルパラの中でもアイドルに次いで尊敬される職業なのだ。

 アビスのように有名なアイドルの曲も街で配布されたりするが、キラリは地道に自分で曲を作って配布している。その功績がライブ以外でファンを増やしていたわけである。


「だから結構慣れているんだよね、曲作るの」

「それを説明すればよかったのでは?」

「やだ。アメノにはまだ内緒にしといて、言う時は自分で言うから」

「……なぜ?」

「私も明日は新曲で挑むから。それで、アメノに見せつけてやるんだよ。私は適当でちゃらんぽらんなわけじゃないって。真剣に最善を尽くして頑張っているってね」

「……かっこいいですね」

「ふふん、まーねー。……クオンは本当に大丈夫なの?」

「はい」


 相変わらず言葉には自信が伴っている。それなら、今はクオンを信じよう。

 自分は信用されなかったが、二人は自分よりもきちんとしているから。


「じゃ、お互い頑張ろう」

「はい」


 言うとクオンも立ち上がる。インスピレーションを求めて散歩か、はたまた振り付けを試すために踊れる場所に向かうのか。


「……お前はどうするんだ」

「まずはアメノに嫌われて辛いからちょっとめそめそする。お腹貸して」


 抱き着こうとするキラリの頭は、ポカっとコベニに叩かれた。

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