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第三回ドリカム杯決勝戦・後編!

 会場はただただ騒然となっていた。

 ミスローブの正体が露わになったこと。

 アビスが豹変し別人のようになったこと。

 そしてそのアメノとアビスの間にあるただならぬ危険な因縁、その憎悪のぶつけ合い……。

 ドリカム杯という場を借りた命がけの決闘……MCはもちろん観客も置いてけぼり、二人きりの舞台になってしまった。


「ア……アビスはどこ……」

「聞いていたでしょう。二重人格アイドル……、あのマグマという人がアビスなんでしょう」

「信じられない話ですわね。刺したとか突き落としたとか。事実ならインフェルパラに落とされてもおかしくないですわ」

「……なに? その、インフェルパラとか、フェルパラ海溝って……」


 朦朧としているキラリ、冷静に状況を見るブレンやレーゼに対し、クオンはまずそちらに疑問を抱く。真面目に話しているのかギャグをやっているのかもわからない。


「フェルパラ海溝はフェルパラ最大の海溝で数千キロの深さの海溝です。インフェルパラは『世界』がいらないと判断した悪人を矯正したり閉じ込める監獄のことですね。


 ブレンが眼鏡キャラとして丁寧に説明を加える。このフェルパラは設備の整ったテーマパークのようなもので、『世界』は常にメンテナンスを続けている。出られない世界なりに住み心地よくなっているわけだ。

 クオンが知ってか知らずか満足する中、ようやくキラリが正気に戻る。


「いやライブ始まるじゃん!」


 既にステージにアビス……いやマグマはいない。中央にアメノが立ち、その時を待っていた。

 オンステージ。


 ===================


『Naked Blade』 作詞曲:アメノ


 衝動 抑えきれない想い

 殺意? 妬み? 嫉み? 憎悪? 全てNO!

 立ち向かう心の刃は人ではなく罪へ

 燃え盛る怒りよ 私の中で輝け

 Naked Blade 全て切り裂け 己の弱さも かける情けも

 その先に見える 未来こそ つかみ取る価値のある勝利

 だから 切り裂けよ Naked Blade


 掃討 殺しきれない想い

 各位! 痛み! 恨み! 衝動! なべてならず!!

 太刀奮う心の在り方に疑問を抱け

 ありのまま祈りを みんなの心に向けて

 Naked Blade 全て守り抜け 友との時間も 誇らしき我も

 切っ先に見える 光こそ 奪い取る価値のある勝利

 だから 切り裂けよ Naked Blade


 時に 人の心は弱く 誰かを傷つけることもある

 切り裂くべきは そんな脆い己の心

 熱意! 決意! 克己! 絶対的アイドル精神!

 Naked Blade 裸の刃で立ち向かえ


 ==============================


 流石にドリカム杯ライブ決勝戦ともなれば、そのライブで観客を黙らせるに足る。

 今までローブで姿を隠していたアメノが、その衣装を、全身全霊の踊りと歌を披露したのだ。既に何度もライブをしているにも関わらず誰もが真新しさを感じる。

 歌い終わったアメノは笑うことも感動することもなく、舞台裏に目を向けた。だが、アメノの退場を待たずして髪の赤いアビス――マグマがステージに上がってきた。


「退場くらい待たないか」

「こまけぇこと言ってんじゃねえよ。……随分様変わりしたよなぁ? 正統派アイドルだったお前が、そんな男っぽい歌ぁ歌って」

「これが今の私だ」


 それ以上に言うことはない。強い決意も、歌詞に込めた想いも、全てありのままのアメノの心だ。

 復讐に囚われた弱い心を取り戻す、アメノにとっての道しるべの曲、そして愚かな暴力を振るったかつての仲間に向けた曲でもある。


「さて……お前を地獄に堕とす時が来たぜぇ?」

「……揺るがないな。だから私は……」


 気持ちは伝わらなかった。

 それも仕方のないことかもしれない。本心から歌ってこそ通じるものがあるとすれば、所詮今のライブは美辞麗句を用いた心のこもっていない曲。

 これだけの人前で本気の悪意など晒せなかったが――アメノの憎悪はいまだに濃い。


「本気で殺す気で挑むべきだった……」

「後悔してもおせぇんだよ!」


 歯噛みするアメノを押しのけてマグマがステージ中央に立つ。王者の知られざる一面が、アイドルオブアイドルの本領が衆目に晒されようとしていた。


 ===================


『heartful with you』作詞アビス 作曲マグマ

 熱く熱く 胸が滾る あなたといる時間が最高の幸せ

 他に何もなくたって一緒にいられれば 充分だよ

 あなたがいたからここまで来れた だからこれからも歌を歌える 愛を歌える 紡ぐ言葉は ハーモニー

 あなたを得て あなたとともに強くなる

 マグマのように湧き立つ熱を 激しく焦がれる心を

 私の全てを 伝えたい 与えたい あなたに


 失っていた 君がいる 君と出会えた瞬間 邂逅の幸せ

 他になにもいらなかった 一緒にいられれば充分だった

 君がいなくなったからここまで来れた だけどこれからは君を歌える 愛を歌える 紡ぐ調べはハーモニー

 君を失い また君を得て強くなっていく

 深海のように冷たい心も 強く揺るがぬ心も

 私の全てが 変わりだす 温まる あなたで


 どれだけの時間でも待つよ 信じられないないくらいの愛を 抱えてじっと待っているよ

 あなたのために 私のために


 広い海のように 雄大な山のように 誰より大きな心

 私の全て 重なり合う 包み込む あなたを


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ただ圧倒されていた。

 己の復讐心を隠して乗り越えようとしたアメノのライブとは違い、アビスとマグマのライブはその殺意をも愛に変えて歌うような。

 いやそれこそ半分の本心であった。


「アビスのやつは相変わらずゾッコンだ。deep blueもお前のことを想って作詞したらしいからな」

「……なん、なんだ、お前はいったい……」

「勝者だ」


 趨勢は決した。既にマグマの頭上に冠が降り、このドリカム杯の優勝者が誰か、世界に選ばれた者が誰かを表していた。

 観客も同様の気持ちだろう、アメノのライブとて極上のものだった。それをマグマが上回っただけの話。一人でありながらまるでデュオのように声が変わり、踊りのスタイルも変わる。ミスローブ以上に新鮮さのあるステージ。


「さぁてお待ちかねの願いだ。これで会うのも最後だろうから聞いておくが、お前の願いはなんだったんだ、アメノ?」

「……ふ、ふ、ふ。どうでもいいだろう、そんなこと。……長い寄り道で、変な終わりを迎えたものだ」

「……ま、いいか。じゃあ願いを言うぞ。『この女を地獄に落とせ』」


 マグマが呟いた瞬間、アメノは不思議な力で宙に浮き、身動きが取れなくなる。同時に足元に大きく円柱状に穴が空いた。

 下はどこまでも広がっており、まさしく地の獄まで続いているだろう。


「……は、は、は。恨むぞ、恨むぞ! マグマ! お前だけは死んでも殺してやる!」

「あぁ最高だアメノ! 必ず殺しに来い! そん時はまた殺してやるからよぉ!」


 ふ、とアメノを拘束する不思議な力がなくなった。

 開いた穴へ真っ逆さま、地獄に一直線の道を落ちていく。

 瞬間。


「あ」


 間の抜けた声が、二つ。

 キラリとクオンが落ちるアメノの足を引っ掴んだものの、世界の力のせいで引っ張られているアメノに引きずり込まれていく。


「あ、クオン、奇遇だね」

「……まさか地獄をともにするとは」

「お、お前ら!?」


 なんということか、事の顛末を見守っていた二人はアメノをなんとか助けようとマグマのライブ中ステージまで近づいていたらしいが、結果は道連れ同然にともに地獄へ落ちていく。


「なんて……なんてバカな真似を……」

「すごい落ちてる。これやばーい! スカートとかありえないんだけどー!」

「緊張感の足りないやつ」


 世界によって地獄に落とされた三人はどうなるのかーー


 第三回ドリカム杯優勝者アビスとマグマはその名をフェルパラに知らしめる。

 同時に、

 準優勝者アメノ、ベストフォーキラリ、ベストエイトクオンもまた地獄に落ちた者として少し知られることになる。

 いや、地獄落ちは厳密に言えばもう一人……。

次から地獄編

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