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第三回ドリカム杯二回戦!!

 人が少なくなると、宿舎もいつの間にか小さくなっている。

 ステージやショップ、道や世界さえもいつの間にか塗り替えられるように変わっていく。これがこの世界の不思議。

 まあ、歴の長いキラリはそんなこと特に気にせず、改めて小さくなった宿舎周りを歩いていく。

 と、宿舎の外の同じ角でバッタリとローブの女と出会う。


「うわ、また」

「……貴様のステージ、見たぞ」

「あ、そですか。私はあなたのステージ見てませんでした」


 既に一回戦は終了し、ベストエイトの八人は決まった。アビスは勿論だが、この黒ローブも残っているというわけだ。


「……なかなか熱いものがある。普段のとぼけた貴様とは思えないほどにな」

「はぁ。おほめにあずかりきょーしゅくです」

「……ライブ中の真剣さの一割でも普段から持たないか?」

「いやー、いつも同じ気分ですけどねー」


 ローブの女は舌打ちすると、そのまま何も言わずに去っていく。なんて嫌味なやつなんだ、とキラリは辟易するが、また深呼吸して普段通りの気持ちに戻った。

 ローブの女、ドリカム杯にもローブって名前で登録しているから呼び方さえも悩ましい。

 今の異名は『下剋上アイドル』らしいが、ならば狙うのはアビスに勝つことだろうが。

 評判を聞く限り、下馬評の通りアビスが優勝するだろうと一回戦の時点で言われている。一分ほどのライブでも実力差があればあるほどわかるものなのだ。

 ドリカム杯に出られただけでも、知名度は上がるし研鑽にもなる。それでキラリは満足と言えば満足だ。

 ――いや、満足、という感覚がなんなのか、よく分かっていないだけかもしれないが。



=====================


 ドリカム杯二回戦第一試合!


 無気力スター『シャイニングアイドル』キラリ!


 VS


 高飛車お嬢様『ゴージャスアイドル』レーゼ!


=====================


「あなたも不幸な人ね。この私と戦うことになるなんて」

「はぁ」

「今の内なら荷物をまとめるのを手伝いますわよ? ワタクシのせいで屈辱を覚えるのですからね。オーッホッホッホ!」


 この空間にはこういう人もそこそこいる。ただこういう濃いキャラでドリカム杯に昇ってきたというのは、それだけ確かな実力があるのだろう。


「ま、荷物は別にいいよ。素敵なステージ見せてくれたらね」

「ふふん、誰にものを言っていますの? このレーゼ、アビスやトワにも負けないライブをしてみますわ!」


 トワ、とは前回大会の優勝者だ。優勝してから行方不明になっているが、現実世界に戻ったのだろうとまことしやかにささやかれている。といっても、皆がトワの記憶を失っているので、どんなライブだったのかも知らないが。

 この世界の謎であるトワは、故に脱出者として崇められていたり、また単に優勝者として崇敬を集めているが、そうした事実以外の一切を誰もが忘れている。それこそがトワの願いなのではないか、などと考える者は考える。

 キラリは考えない。レーゼもローブの女も考えないだろう。他者を崇敬し憧れることもまたアイドルへの道である。だがガムシャラに己を信じて突き進むのもまた夢への活力になる。

 キラリにはそんな目標も熱情もない。ただルーティンワークとしてのアイドル活動、それが積み重なってここまで来たのだ。

 果たして、レーゼはどうなのか。


====================


『Sacred Insane Sales』 作詞曲:レーゼ


 円・ドル・ルピー・ユーロ・マルク

 価値はマネー 全ての意味はお金次第 お金にならなきゃ意味もない

 タダで歌って踊ってもムダ 歌い続けて踊り続けるには 投げ銭カンパと金が要る

 名声も地位も名誉もいらない ただ金さえあればいい 金こそ最上級の名誉

 全てには そう 金がいる 歌う 踊る 生きる すなわち稼ぐ 金 金 金 マネー

 

 もっとおかしくなるくらい動いてもいいじゃない? アイドルの私を買いに来い! 

 踊りを 歌を 輝きを そしてこの気持ちを 大感謝セールのフルプライス 

 まるごと買い付け 二十年ローン!


======================


「ご機嫌いかが? えっと……キラリさん?」

「濃いねぇ……」


 熱狂的なファンもいるのか、レーゼのステージは盛り上がりっぱなしだ。過激な歌詞も面白味があるし、下品にお金のハンドサインをしても、それが彼女のトレードマークにも見える。高飛車なお嬢様、というよりかはストレートに成金そのもののようだった。

 ただその歌を、豪奢で淑やかながら、滑稽にも見える大仰な踊りも、ただ短いステージを見ただけで彼女の人となりがわかるような個性の詰まった良さがあった。

 キラリの好みではないが、ここまで来た理由は理解できる。


「ふふ、恐れたのなら今から逃げかえってもよろしくてよ?」

「ま、曲聞く前よりかはあんたのこと好きになったよ」

「……!? ま、まあ。対戦相手さえ虜にするなんて私も罪な……」

「負けはしないけど」


 困惑するレーゼを放って、キラリはステージに上がる。

 この宣言通り、彼女は一回戦と同じくShining Idolを見事披露し、二回戦を勝ち上がるのであった。


=========================


 心地よく勝利の余韻に浸りつつ、キラリは果樹の木陰に腰を落ち着けてトーナメント表を開いた。

 ああ、やっぱり。次の対戦相手はローブの女か『無表情アイドル』クオンのどちらかだ。

 どちらが勝つかはまだ分からない。というのもこの二人ともキラリは知らなかったし、下馬評もほとんどない。

 実際にあった時のただならぬ雰囲気を思えば、ローブの女が勝つ気もするが、あれと戦うのは嫌だなぁ面倒臭そうだなぁ、という気持ちが強い。


「ってかミスローブって」

「呼んだか?」

「え? うわっ!」


 噂をすれば影、果樹の木陰から更にローブの女が見下すように立っていた。

 ――故に、下からその顔がはっきりと見える。

 キリッとしたクールな細い眉にどこか厳しさを思わせる鋭い表情、ながらまんまるとした目は今はそれほど敵意がないらしい。声にたがわぬクールなカッコイイ系アイドルで、およそ声から受ける印象からそう離れていない。


「ビックリしたぁ。なんですか突然。不審者っぽいので急に出ないでください」

「失礼な。不審者ではない」

「ミスローブさん、ね。まあ何でもいいけど。なんか用?」

「準決勝、お前と当たることになるだろう。見納めだと思ってな」

「ローブさんは二回戦始まってもないのに、もう勝った気ですか」

「ああ」

 

 嫌味を言ったつもりなのに、ミスローブは平然と言ってのけた。自分が勝って当然であり、このキラリにも負けないというのを当然だと思っている。

 圧倒的な自信は実力がなければまず発生しない。それだけこのローブは自分の実力にも自信があるのだろうが。


「なんでローブ脱がないの? 衣装のセンス最低だよ?」


 フェルパラライブは歌だけで競うわけではない。外見やコーデ、踊りも評価の対象だ。顔を隠し衣装も工夫がないミスローブは既に充分なハンデを負っている状態。それで一回戦を制したのは見事と言う他ないが、それでアビスに勝てるわけもない。

 だが優勝する気満々であるミスローブ、その行為はちぐはぐだ。


「故あって顔を隠している。……然るべき時には脱ぐさ」


 彼女の言う然るべき時、とはライブでバトルする時ではないのか。とキラリはまた呆れるが、どこか遠くを見る目は確かな目標と、その時が迫っていることを感じさせる。


「……ま、せいぜい勝利してみなよミスローブくん。その時は私が相手してしんぜよーう。はっはっは」

「……ふっ。首を洗って待っているがいい。……では」


 満足そうに去っていくミスローブ、結局何しに来たんだとキラリは茫然と見送った。


==================


 ステージ前の舞台裏、そこにいるのはローブの女と、青い短髪の少女。

 宝石をはめ込んだような青い瞳もまた人間離れした神秘さがあり、それでいて表情が変わらないもので『無表情アイドル』の異名を持つ謎の多い少女。


「クオン、お前からのライブだったな」

「はい。では」

 

 早速ステージに上がろうとするクオンを、思わずミスローブは止める。そもそも彼女との会話をあまりしていないから。


「待て。お前は……優勝したいのか? ライブ中とライブ以外の温度差はキラリ以上だが……」

「そうですね。特にそういった願望はありません。……ただ私には記憶がありません。ある日、突然このフェルパラにいた。優勝したなら、その自分が何者かを知るという願いを叶えるでしょう」

「……そうか。少し合点が行った。お前のライブ中の熱情……きっと熱く、猛々しいアイドルだったのだろう」


 ミスローブの言葉を聞き終えて、改めてクオンはステージに向かう。

 クオンの願いを知りながら、ミスローブはそれでも己の勝利を確信しながら、そのステージを傍で見る。


=======================


『失われた時を求めて』 作詞曲:クオン


 時が過ぎ 昨日は今日へ 今日は明日へ 

 過去は未来へ その先へ

 悠久の時は 流転する 流れ続けて止まらない

 同じ瞬間は一つもない いつだって 変わり続けている 誰も皆 私だって

 過ぎて 変わって なくなって 失った自分は 過去は 取り戻せないのでしょうか?

 

 誰も皆 未来を目指すというのなら 私の未来は過去 ただ私だけの過去

 同じことのない 永遠の中 未来の過去へ進み続ける 今


=======================


 クオンはいつも無表情だ。それなのにライブ中、一瞬泣きそうな表情をする。

 その意味はクオン自身も知らないだろう。その表情に気付かない者だっている。それでも、その想いは歌を通じて皆に伝わっている。

 熱情、紛れもなくベストエイトでもベストフォーでも通じるほどのアイドルとして人を惹きつける能力があった。


 ミスローブがいなければ、の話だが。


「では、ローブさんの番ですね」

「ああ。勝っても負けてもお別れ、かな」

「いえ、一回戦のステージは見ていました。すっかりファンです。準決勝、応援しています」

「……もう負けた気になっているのか? そういうのは……」

「出し尽しました。悔いのないように」


 断言するクオンの言葉を聞けば、無表情であってもミスローブはその気持ちを理解する。ミスローブ自身、贔屓目で見ても自分が勝つだろうと思っているくらいだ。

 

「……では」

「はい。ここから見ています」


 ミスローブがその姿のままステージへ上がる。

 一回戦でも披露したその歌を、傍にいるファンにも見せるため。


==================


『Against of whole world』 作詞曲:???


 いつまでそこで立ち止まっているんだ 無意味な人生で終わるのか

 くだらないと思うくらいなら くだることをして生きろ

 選ぶのは必ず自分自身だ 止める言葉は 止める者は 変える者は敵だ

 お前を取り巻く世界に抗え お前が信じるものを乏しめるものも敵だ

 終わらない愛なき世界に抗え お前の中に芽生えた興味こそ愛だ


 Against of whole world!! お前の信じる興味こそ輝きだ!

 曇らせるな 終わらせるな 光をいつまでも胸に抱け

 時に沈み 時に澱み ともしび消える日もあるだろう

 Against of crazy world!! お前の信じる正義こそ正しい!

 

 抗え! 抗え! 抗え! かがやけ!


===========================


 無表情のクオンのライブに熱情があるからこそ彼女が勝ち上がってきたというのなら。

 ローブを着ていてこれだけの熱情を放てるミスローブも、同様に勝ち上がって当然ということなのだろう。

 観客には涙を流し感動する者もいれば、興奮のあまり喧嘩している者もいる。

 間違いなく今回のドリカム杯でアビスに匹敵するほどのステージができるトップアイドルだ。


「……こりゃ敵わないなぁ」


 ステージを見ていたキラリはそんな風に呟く。ステージ外で自分に怒って掴みかかってくるほどの熱血漢なのだから当然と言えば当然か、とも思うが、そんな風に分析する気持ちの余裕はなかった。

 ほどなく、ベストフォーにミスローブが選ばれる。誰もが納得する結果だろうし、キラリ自身今までミスローブのライブを見たことがないのを恥じ入る気持ちだ。

 ただ、フェルパラ歴もそれなりに長いキラリが、全く見たことも聞いたこともない詩曲に歌声にパフォーマンス、ますます彼女の謎が深まったというところか。


「……ま、ベストフォーなら上出来か」


 悔しいとか、以前にいいライブが見れたなぁっていう満足感で、キラリは会場を後にした。

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