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 街の入り口で、片手で数えるほどしか顔を合わせていないのに僕の事を直ぐに思い出せる門番さん達はすごいと思う。

「この間来たばかりじゃなかったか?何かあったか?」

 心配そうにかけられた声。

 毎回親切にしてくれる人達につい、僕の口も緩んだ。

「うん、ちょっと家に盗賊が来て……」

「盗賊ぅ!?」

 門番さんの中で一番若いお兄さんが少し離れたところから大声をあげた。

 勢いよく近づいてくるのが怖くて後ずさると一度立ち止まって歩調を緩めた。

「あー、で、大丈夫だったのか?その、盗賊は……」

 目の前で止まった足元からそおっとお兄さんを見上げると、ちょっと眉毛が下がっていた。

「あ、えと、うん、はい。始めに来た盗賊達は何とかなったんだけど、直ぐに次のが来て、家の中が荒らされて、それで、買い物に、来たんです」

 話しながらちらちらと見上げる門番さん達の顔は険しい。

「無事でよかったな。そうだ、どんな奴らだったかわかるか?顔を見たんなら手配もできるが」

「顔は……ごめんなさい、見てない。始めの盗賊の後始末に離れてるところに来たから」

「そうか、通行料はあるのか?無かったら……」

「あ、これ、お財布は持ってたからある」

 銀貨を一枚取り出して見せると門番さん達は頑張れよと口々に声をかけて通行口に向けて背を押してくれた。


 いつもの魔具店だけど、店内の様子は一新していた。

 出来上がった魔具が並べられているだけだった机はなくなって、僕より少し背の高い棚が壁にぐるりと置かれている。日のささない壁の棚には大小様々な引き出し、店の奥には重そうな分厚い天板の置かれた机。

 そして、机に備え付けられた椅子にはいつものおじさんではなく若い女の人が座っていた。

「らっしゃい」

 黒く長い髪を頭のてっぺんで金輪で留めて後ろに流しているその人は、僕を見て少し驚いた顔をしていた。

「魔具の注文かい?」

 少し高く、特徴的な声。以前とはあまりの違い様に戸惑ってしまう。

「あの、ここは魔具店ですか?」

「そうだよ。あぁ、ひょっとして前の店の常連さんかな?サーキテンさんはもうやめちゃったんだよ。今は自分の店、ヒーロ魔具店さ。言っちゃなんだけど前の店より質は良いよ。注文もちゃんと受けるしね」

 机の上に広げられていた大きな紙、描きかけの魔具の設計図を脇に追いやって女の人は僕に向かいの席を勧めてくれた。

 ためらっているうちに再び勧められておずおずと腰掛ける。

「それで、小さなお客様、店長の自分、ヒーロがご用件を伺いましょう?」

 ヒーロさんは楽しそうに黒い目を細めてそう言った。

 魔具の注文だと思ってるのだろう期待に応えられない事に後ろめたさを感じながら、僕は背負っていた袋から溶けない氷を取り出した。握りこぶしくらいの大きさに作った物だ。

「あ、ごめんなさい。溶けない氷を買い取って欲しいんですが……」

「ほぉぅ、これはまた、結構な代物で……って、どしたのこれ!?」

 手に取って眺めたヒーロさんが大きな声を上げる。

 そして僕のことを見定めるかの様に視線でなぞった。

「お客さん、お名前は?」

「シュレイ、です」

「ふむ、家名は無しか。買い取ることは可能だけど、これだけの価値があるものを君みたいな歳の子が持ってるなんて普通ではないな、家から勝手に持ってきたのならお父さんに怒られるよ?」

 責める様な目で見られてちょっと嫌な感じ。

「僕は、ちゃんと成人してるし、これは僕が自分で作った物だよっ!」

「え、成人?マジで?」


 ヒーロさんは何とか納得してくれて、詳しくは言えないけど僕の職業(クラス)で得たスキルで作った事も信じてくれた。

「そうだな、作ったものだと言われると魔具に使えるのか不安が残るが、この大きさと透明度なら装飾品にも使えるし、でもなー、店買ったばっかで苦しいんだよなぁ……」

 大きな独り言を零しながら僕の氷石を眺め回した後、ヒーロさんは決心した顔でこっちを向いた。

「これ、この石だけど、もしスキルで作った事を言わずにもっと大きな魔具店に持ち込んだなら2万オルは下らないだろう。

 けど、氷石が作れるスキルなんて聞いたことがないし、作ったこの石が魔具の核として使えるかの保証は無い」

 真面目な顔でそう告げるヒーロさんに頷きかけたけど、ふと思い出して言葉をさえぎった。

「僕、家の灯りに作った氷石に魔法を封じて使ってます」

「あ、そうなの?なら大丈夫か」

 ヒーロさんはあっさりと言葉を翻した。

「うーん、ならその辺りは置いといて、実はうちの店は開いたばかりでね、かなり安く買い叩けたとはいえこの店買うのと開店準備でほぼ全財産使い切っちゃってさ、出せて五千オルまでなんだよ」

「じゃあそれでお願いします」

「……マジで?人の話聞いてた?」

 めっちゃ自分が得しちゃうんだけど、と眉を下げるヒーロさんだけど他の魔具店の場所なんて知らないし、入ったことのないお店に行くのも少し怖いし、五千オルでも十分な大金だから僕はここで売る事にした。


 ずっしりと重くなったお財布と、ヒーロさんに頼まれた氷石の大きさが描かれた紙を袋にしまって店を後にした。

 大きすぎる氷石は割るのが勿体無いから次からは魔具に使いやすい形と大きさで持ってきて欲しいらしい。

 市場では前に揃えた物より少し質が良いものをお願いすると、僕の事を覚えてたお店の人が少し変わった木の実を見せてくれたのでそれも買ってみた。

 小さな黒い粒でイスイスという果物の種らしい。

 すり鉢で力を入れすぎない様にすると硬い殻が剥けて乳白色の中身が出てくるんだとか。

 炒って塩を振って食べたり、甘く煮付けてパンに塗っても美味しいんだって。

 早速家に帰ったらやってみよう。

 一通りのものを持ち切れる範囲で買って街を出た。

 一番森に近くなるところから道を外れて覆い繁る木々の樹冠すれすれを飛んで行く。

 このまま行けば夕方前には家に帰れそうだと前方を見る。

 大きな岩山がいくつもそびえて灰色の山肌をさらしている山脈、ふもとに近づくにつれて岩山はまばらになって森に飲み込まれていく。

 その中でも周りをほとんど森に囲まれて平らになった山頂を緑の海から飛び出させているあの山が僕の家だ。

 山頂にある玄関へ向かおうと高度をあげ始めた時、山のふもとに人がいるのに気がついた。

 慌てて木の枝葉へと潜り込んで様子を伺う。

 結構な音を立ててしまったけど気づかれてはいない様だ。

 男が4人、すきの様なものを振り上げて岩山に叩きつけている。近くには人力で引く荷車が一つ。その上には石鎚らしきものも見えた。

 山が欠ける度に破片や穴を覗き込んで何かわめいている。

 少しづつ場所を移しては同じ事を繰り返している男達を見て思った。あいつらがいるのは玄関があった場所じゃないか?

 玄関の場所を知ってるって事は、僕の家を荒らした泥棒か!

 木の葉をすかして地面をよく見ると、下草を切り払って広くした獣道と車輪の後。

 僕はなるべく音を立てない様に獣道から遠ざかって木の陰に着地した。

 買った物を地面に置いて両手のひらを下につける。

 そして、

「うおっ!?何だこれ?」

 岩山の陰から男達の声。

「穴が……急に?」

「い、入口が崩れて開いただけだろ?何だよ、やっぱここであってたんじゃねーか!」

「でもよ、崩れたにしては綺麗すぎ……」

「グズグズするなよ、行くぞ!氷石の柱がまだ残ってるんだからな」

 男達が入り込んだ横穴を、岩山の一番外側少し地面より下になる様に大きく輪のように掘り進めてやる。

 一番最後に入口へとつなげて入ってきた側には分厚い岩壁で蓋をする。

 そうして僕は荷物を抱えなおして本当の玄関へと向かったのでした。

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