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 さて、日が昇るにはまだ時間があるけど、この中どうしよう?

「ふぁふ……」

 緊張の糸が切れたのか、大きなあくびをしてどうでもよくなった。

「うん……明日でいいや」

 そうして再び寝床に戻ってまだ温かいままの布団に潜り込んだ。

 そして翌日。

 部屋から出ると玄関の隙間から少しだけお日様の光が差し込んでいた。

「うん、今日もいい天気みたいだ」

 そんなさわやかさとは裏腹に、穴からは不穏な空気が漂ってきているように思える。多分気のせいだろうけど。

「このまま埋めるのはやだなぁ、かといって触りたくないし、どうしよう?」

 村を襲いに時折やってくる盗賊は大人達が始末してどこかに運んでたけど、こんなたくさん運ぶとなると全員分終わる前に日が暮れちゃう。

 少し考えて、二つの案が思い浮かんだ。火で燃やし尽くしちゃうのと下り坂を掘りまくって遠くまで運んでしまうの。

「燃やすのは簡単だけど、今回は掘ってみようかな?」

 すごく遠くまで掘ってみても領域として認識されるのか、その実験も兼ねていざ開始!

「あ、これ限界だ」

 僕の部屋から一番遠くなる方向へと急な坂を掘り進めていったんだけど、領域の範囲より先に僕の土魔法が届く範囲を超えてしまった。

「ふぅん、魔法にも範囲ってあったんだ」

 感覚的には四半刻くらい歩いた距離だろうか?いつもその範囲内でしか扱うことがなかったから気づかなかった。

 坂道を追いかけるようになだらかなグネグネ道を作って後を追いながら死骸を遠くへと転がして行く。

 そして魔力の大半を使い果たした頃、

「ん〜、この辺りでいいか」

 僕は坂道の先端部を周りの土で埋め、しっかりと押し固めて戻ることにした。


「今日は疲れたから〜、ちょっと早いけどもう寝ちゃお……?」

 厄介ごとを片付けて軽い足取りで来た道を戻る僕の動きが止まる。

 昨晩と同じ、身体の中で這い回られる、そんな違和感と嫌悪感。

 魔法の使えない僕は動きを止めて息を殺した。

 勝手に人の家に入ってくるような人には会いたくない。

 何が目的かは知らないけど早く居なくなってくれと祈りながら一つの決意をする。

 これからは絶対に不用意に魔力を使いすぎたりしないと。

 僕の領域へと入り込み厚かましく動き回られているというのに何もできない屈辱に奥歯を噛み締めて、居なくなるのをひたすらに待った。

 どれくらい経ったのだろうか、灯してあった火はとうに消え、戻ってこないだろうと納得できるまでずっと暗闇の中にあった身体を動かして上へと向かう。

 侵入者が出て行くまでの間に回復した魔力を使って頭上に火を浮かべ、照らされたのは酷い状態の僕の家。

 玄関の重なり合った岩壁は砕かれ大きな口を開けている。

 部屋の本棚は空っぽで、僕の本だけが床に落ちていた。机も、座り心地にこだわって作った椅子だって残っていない。布団には何箇所にも刃物を刺したような跡、灯り用の氷石は一つ残らず無くなっていた。

 台所の食器や鍋だって奪われて、香草や塩の入れ物すらご丁寧に中身を床に捨てて持ち出されている。

「ふ……ぇ……」

 塩なのか砂糖なのかわからない、香草の入り混じった小さな山の上に雫が落ちた。

「っう…ぇっく……」

 無くなった、いや、奪われたものひとつひとつ、どんな形にしようかとワクワクしながら考えて、思い通りにできなければどうしたらいいのかと悩んで、完成した時には喝采を上げて。

 そんな、小さな、大切な、僕が職業(クラス)とともに積み重ねてきた日々を踏みにじられた。

 悲しくて、悔しくて、自分の物を自分で守れなかったことが情けない。

 しゃがみこんで泣いてるうちに、僕はいつのまにか眠ってしまったらしかった。


 翌日、回復した魔力をもって家を改装することにした。

 改装というより新築か?

 勝手に入り込まれた家なんてもう住みたくない。

 僕は本と干し果物だけを手に持って洞窟から出ると、今まで住んでいたそこを全て埋め立てた。

 本を開いてみる。

 シュレイ

 クラス:ひきこもり

 ランク:2

 領域:

 領域がないことが領域内にいないことよりもずっと心細く感じて、急いで岩山に穴を開けた。

 中に入って入り口を塞ぐ。今までと違って完全に閉じる。

 僕が両手を広げたくらいの空間。

 まずは大まかに、岩山を天辺まで螺旋状になるように目の前をえぐって歩きながらくり抜いていく。

 1周半か2周いかないくらいで天井を突き破り、突然の光に目を閉じた。

 穴が空いたのが起方と日方の間くらいだからちょうどいい場所だな。ここが新しい玄関だ。

 お日様はてっぺんより少し日方に傾いた辺り、丁度お昼の時間。僕は干したモッコの輪切りをしゃぶりながら玄関前を平らにならしていった。

「ん、いい感じ」

 一面均されてツルツルになった山頂、玄関部だけが小さな山のように盛り上がって家へと続く口を大きく開けている。ここには扉が欲しいな。近いうちに街へ買い物に行くからその時に板を買ってこよう。

 次は僕の部屋が作りたいんだけど、どこにしよう?

 台所の近くがいいよね、でも、そうしたら台所をどこにするか考えなきゃ。あの池の近くじゃないと水汲みが大変だし、そうすると玄関からかなり離れてしまう。

 せっかく玄関をこんな見晴らしの良い所にしたんだからここから景色を眺めてご飯も食べてみたい。

「そうなると……台所はここの近くだよね、水汲みは……あ、魔法で出せば良いのか!」

 別にあの池で汲まないといけない理由なんてないことに気づいて早速台所を作る。

 岩山のひと回りかふた回りくらい小さく作った外周廊下、玄関から降りてちょっと行った所に内側へと向かって下り階段を掘る。

 十分な高さの部屋を作っても岩山の頂上を開けてしまわない程度に作ったら結構長い階段になってしまった。後で同じくらいの高さの外周廊下につながる道も掘ろう。

 十歩四方程度のお椀を伏せたみたいな部屋をくり抜いて、かまどと水場、机と椅子、少し考えて部屋の上部にぐるりとひと回り溶けない氷を巡らせて火の魔法を封じ込める。

 棚とか食器は後でいいや。今は干果物しか食べるもの無いし。

 すぐ隣にも台所より少し小さなお椀部屋を作って僕の部屋。

 適当に岩を盛り上げて作った寝台一つを置いて、その上に腰掛けて本を開く。

 シュレイ

 クラス:ひきこもり

 ランク:2

 領域:岩山の家

 クラススキル:領域操作Lv3、領域維持Lv1、内弁慶Lv1、領域同調Lv1

 個人スキル:水魔法Lv4、土魔法Lv5、火魔法Lv4、風魔法Lv3

 ふと思いついて尋ねる。

「ねえ、領域維持ってどこまでが対象なの?」

『領域維持は領域を対象として維持します』

 質問を変えてみた。

 台所へと戻って床から生えた机を指し、

「これは領域維持してたら壊されるって事はある?」

『領域です。維持されます』

 床に手をかざして小さな岩の球を作ると床と繋がっている部分を折り取った。

「これは?」

『領域ではありません。維持されません』

 ちょっとわかったかも。

 つまりは領域維持を常に使っていればお鍋や食器はともかく机や池の近くに建てた柱、玄関は壊されずに済んでたのか。

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