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 干し肉?もできたことだしこれからのことを考えよう。

 入り口近くの礫山から溶けない氷の結晶を拾い集めながら頭を働かせる。

 そういえば、土魔法で掘った穴は僕の領域になるらしい。新しい街に行って家でも借りて、庭に穴を掘ったらいいんじゃないだろうか?家を借りるお金はこの溶けない氷を売って稼げばいい。

 それから何か仕事を見つけて、何か、僕にできる仕事……あるかな?

 魔法は使えるけど魔法使いじゃないからそっちの仕事には就けないし、知らない人と話すのは苦手だし怖い。

「どうしよう、仕事、できないかも……」

 思いの外弱々しい声が出てしまって首を横に振る。弱気になっちゃダメだ。そうだ、ひきこもりなんてよくわからない職業(クラス)だけど、ランクを上げたら役に立つスキルが増えるかもだし、やっぱりランクが上がるまでここで暮らしてみよう。僕の領域になってるせいか、この洞窟にいると安心する。

「よしっ、そうと決めたらもうちょっと居心地よくしようっと!」

 結構集まった溶けない氷を袋の中へざらざらと流し入れてから、僕はズボンについた小石や土を払って洞窟へと帰るのだった。


 岩を盛り上げて作ったかまどの上に岩でできた両手鍋を置いて、これまた岩製のひしゃくで奥の池から汲んだ水を流し入れる。

 あれからまた外に出て摘んだ食べられる草の葉と、干し肉を三つ放り込んで火を作った。

 干し肉からは小さな泡がプツプツと吹き出て水が染み込んで行くのが分かった。

 お湯が沸いたらそのまま煮立てて出来上がり。調味料なんてないから本当にただ煮ただけだけど、ないよりマシだ。

 よそう為の器と匙も岩から作ろうとして考えた。ここの岩には黒長石や剥離石、白石や溶けない氷、いろんなものが混ざってるけど、僕のスキルにもっと融通をきかせられないものだろうか?

 試しに器を作ってみる。

 黒長石〜、黒長石でできた器〜、なんて念じながらスキルを使うと地面から真っ黒な器が生えてきた。繋がってる部分をポキリと折って、地面と擦り合わせて平らにしたら完成!やればできるじゃん!!

 岩のおたまで草と干し肉の煮たやつをよそい、今度は溶けない氷で匙を作って見た。透き通ってすごく綺麗だ。これ、売れないかな?

 作った物はとても美味しいとは言えなかったけど、食器的にはとても豪勢な食事になった。


 それから、洞窟の中でスキルの事を色々調べたり試したりしてみた。

 わかった事はまず領域について、空洞内だけかと思ったけれど、表層指2本分くらいまでが領域として認識されているみたい。

 机やかまどなどを作った時は他の部分からかき集めて盛り上げてたらしい。

 壁や天井は結晶でごつごつしてたから、スキルを使うついでに滑らかに慣らしてみよう。

 壁に手を当てて平らになれ〜って念じながら呟いてみると、手を中心に手のひら三つ分くらいがじわじわと慣らされていく。手を横にずらすと範囲も移動して、火のしをかけてるみたいでちょっと楽しい。

 一度手を離して入り口からやってみることにした。


 結構時間がかかったけど、手の届かない上の方と綺麗だった池の周りを残して全部の壁が平らになった。僕の魔力はすっからかんだ。

 でもお陰で領域操作のLvが一つ上がって2になった。

 より広範囲で細かな操作ができるようになったみたい。

 魔力が無くなったし、外も暗くなってきたし、鍋に残ってる肉と草でも食べてもう寝ちゃおうかな?


 夜、草を刈り集めて作り上げた寝床から身を起こした。

「うぅ、寒っ!」

 寝ている間に気温が下がった洞窟の中、風魔法と火魔法を唱えて寝床の周りの空気を暖める。

 つくづく魔法が使えて良かったと思う。これがなかったら今頃どうなっていたことか。

 段々と暖まっていく空気に強張った身体を緩めながら、寝るのに丁度いい温度になるまで本を読む事にした。

 天井に固定されている八面体の溶けない氷の中へと火魔法を放り込んで光源を確保。寝る前まで読んでいた枕元のスキル大集をめくって魔法関連の頁を開く。

 僕が使える火、風、水、土以外には使える人の少ない光や闇、複合魔術、おとぎ話に出てくる様な時や空間、会得した人はいないとされる創造なんてものが載っている。

 この世界を創り上げた神様のスキルらしいけど、神様もスキルを持ってるってなんか不思議だ。

 後半の頁に領域操作のスキルもあった。

 特殊なスキルで職業(クラス)に由来するスキルだって書いてある。職業(クラス):ダンジョンマスターのみが取得可能らしい。

 世界には四つのダンジョンと呼ばれる場所があって、魔物や特異な植物、鉱物が取れる危険な所だ。

 その一番奥にダンジョンマスターが居るって伝説があるけど、確認できた人なんて記録に残されていない。

「伝説級の職業(クラス)と同じスキルかぁ……」

 やっぱり僕、すごいのかも?

 少し口元が緩んで、本を持ったまま寝床の上を転がってみた。

「えへへへ〜、でもどんなスキルかは書いてないな〜、残念」

 スキルは所持者が善意で、または報奨金目当てで報告された情報に基づいているから、報告がなければ書かれないのだ。

「だけど僕にはこれがある!」

 スキル大集を横に置いてしっとりと手に馴染む薄い本を広げて問いかける。

「領域操作はダンジョンマスターのスキルと同じなの?」

『ひきこもりの領域操作とダンジョンマスターの領域操作は同じものです』

「ひきこもりはダンジョンマスターより凄いの?」

『全ての職業(クラス)には長所と短所があり、優劣は存在しません』

 学校の優等生みたいな返事が返ってきた。

 ちぇ、本当にそうだったらひきこもりの僕があんな目で見られることなんてなかったのにな。

「なんで、僕はひきこもりなの?

 返事なんて期待していなかったのに、文字が直ぐに浮かび上がった。

『ひきこもりの取得条件:職業(クラス)取得日までの個人の領域と把握している面積、領域への積算待機時間、一人以上の肉親からの一定数値以上の悪感情』

 家にずっと閉じこもっていたことや、僕を睨みつける弟、母の癇癪。何でなったかは分かった、じゃあ何でそんな職業があったのか。

「……ひきこもりって何なの?」

『不明、黒の女神が独自に作成した20職業のうちの1つです』

「黒の女神って、創造神様とは違うの?」

 返事は無かった。

 でも、僕みたいなハズレ職業が20もあるんだってわかったら少し気が楽になった。

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