3
ぶ、ブックマークに登録されている……だと!?
ありがとうございます 励みになります
つたないものですが完結目指して頑張ります
…縄張りを強奪により会得しました。『名も無き洞窟』を所有地として登録します。…条件を満たしました、職業ひきこもりを正式な職業として承認、新規職業を確認、新規職業会得者へと黒の女神より伝言を……
頭の中に響いた声に意識が浮上し、飛び起きた。
「誰!?」
洞窟の中を見回しても声の主は見当たらなかった。
『まさかこんな条件満たしちゃうなんて思わなかったよ〜』
「な、何?誰なの?」
声は大気を通さずに直接頭に叩き込まれているようだった。若い女の人の声、僕の問いかけに返事は無く、ただ続けられる。
『新規クラス取得おめでとう!クラスシステムを作ってから何年後になってるのかわかんないけど、キミのひきこもりライフ応援してるぞ!』
それきり、声が途絶えた。洞窟の中を僕の呼吸音だけが響いている。
「な、何だったんだ?夢?」
……クラスシステム起動より規定年数経過の為、新規職業への支援機能が適用されます。対象者を読み取り中……『本』を作成中、作成しました。
「ひっ!?」
先ほどの女の人とは違って感情の読み取れない、多分子供、の声。
同時に、
とさり
僕の目の前、何もなかったところに一冊の薄い本が現れた。灰色の表紙を上にして地面へと置かれている。
なんとなく、地面の上に本が置かれているのが嫌で拾い上げると思いのほか手に馴染んだ。
……以上で接続を終わります。
プツリ、という妙な音がして子供の声も止み、洞窟には僕とこの、突然現れた薄い灰色の本が残された。
震える手で表紙をめくると、均一な大きさをした文字で『職業ガイド ひきこもりの全て』と書かれている。が、一枚めくると白紙だった。もう一枚めくると裏表紙が見えた。
「何だこれ?」
呟いて白紙のページを開き直すと今度は職業ガイド ひきこもりの全て 初版本と書かれていた。
「え、さっきは何も…どうなってるんだ?」
えと、どうやらこの本はひきこもりという職業について色々と教えてくれる物らしい。
珍しい職業を会得した人にはちゃんと活用できるようにこういった補佐がつくんだって、この本が教えてくれた。
「ん〜、じゃあ、ひきこもりって何ができるの?」
生活するにはどこかで仕事につかないといけない。そのためには少しでも役に立つクラスだといいんだけど。
浮かんでいた文字が薄れ、また別の文字が浮かび上がってきた。
『自己の領域内における支配と優位、排除に特化しています』
「えぇっと?……この、自己の領域って?」
『何らかの方法により会得した空間』
「例えば?」
そう問うと本はしばらく沈黙したのちに答えてくれた。
『シュレイ 所持領域:名も無き洞窟
取得方法:魔物からの強奪』
「え〜と、つまり、今この洞窟は僕の領域なのか。何ができるの?」
『地形の変更・維持』
「……どっち?」
どうやら、この洞窟は今の範囲内なら自由に壁を作ったりできるみたい。
維持は壊れないようにできるってこと。
どっちも魔力を使うんだけど、維持の方はずっと魔力を使い続けないとダメらしい。
試しに岩で机を作ってみたら、目の前で地面が盛り上がって生えてきた。表面が滑らかに磨かれていて、買ったら高価そうな出来映えだ。
壁をくぼませて本棚を作ろうとしたら出来なかった。あくまでも現在の洞窟内が領域で、壁の向こうはまだ僕のものではないらしい。
しょうがないから壁から岩を飛び出させて本棚にした。
荷物に入っていた本を並べてからぴったりになるように大きさを整えてみる。うん、いい感じ。
魔術書2冊と神官様から餞別にもらった分厚いスキル大集、スキルの名前と簡単な説明が書かれてる本だ。
職業についたんだからスキルも取れるようになったんだよな。ひきこもりのスキルって何だろう?
「僕のスキルは?」
尋ねると、本はすぐに答えてくれた。
シュレイ
クラス:ひきこもり
ランク:1
クラススキル:領域操作Lv1、領域維持Lv1、内弁慶Lv1
個人スキル:水魔法Lv3、土魔法Lv2、火魔法Lv4、風魔法Lv3
「……操作と維持はともかく、内弁慶って何だろう?」
スキル大集に手を伸ばそうとしたけれど、本が反応する方が速かった。
『内弁慶:ひきこもりのスキル、所有領域内での敵侵入時、自己能力上昇、敵能力低下』
これはちょっとすごいスキルかも。
僕の領域に魔物をおびき寄せられたら外よりも簡単にやっつけられるってことだから。
「そうだ、この領域って移動できないかな?僕の周りに覆うみたいにさ」
『職業ランクが1の為、未だ利用できないスキルです』
返って来た文字に、答えは今出来ることに制限されているってことに気づいた。ランクが上がった時にはまた確認しよう。
ランクを上げるにはその職業に見合った行動をすれば良いって聞いたけど、ひきこもりに見合った行動って、何だろう?
「ランクを上げるには何をすればいいの?」
『ランクは領域内での積算待機時間によります』
領域にいればいるだけ上がるってことか……他の街や村を目指そうと思ってたけど、ちょっとの間ここにいた方がいいかもしれない。見知らぬ土地に行って直ぐに領域ができるとも思わないし、ずっと閉じこもってたら怪しい人と思われるかもしれない。
水はあるけど食料は……野草と巣穴グマでいいか。
僕はひきこもりの本を本棚へと納めて、少し離れたところで横たわっている巨体へと向き直った。
風魔法でぶつ切りにして死骸を外へと運び出し、かなり大雑把に肉塊を切り出して礫山の上に置いていく。
「あれ、雨やんでる?っていうか一晩経ってたのか」
洞窟に入った時は昼と夕方の間くらいだったのが、おはようとこんにちはの間くらいになっている。そして、今気づいたのだけど体に違和感はなくちゃんと思い通りに動いてくれた。よっし、ちゃっちゃと済ませてしまおう。
あまり上手くはできなかったけど骨や皮、内臓等の山の四半分くらいにはなったかな?
魔物は核という臓器の中に魔石を持ってるって話だけどどれが核だかわからないし、試しに袋みたいな内臓を一つ開けてみたらドロドロになった虫とかネズミとかが出て来たから諦めた。
食べられない部位を埋めようと、少し離れたところに置いた骨皮の山の丁度真下に土魔法で深い穴を開けた。最後に穴からちょっとずれていた縄のような内臓がずるりと引き込まれていった。
さて埋めようと穴の中に手を差し入れた時、違和感があった。この中は、何かが違う気がする。何か、ほっとする感じ。
確認したいことが出来て本を取りに洞窟へと戻った。小走りで本棚の元へと向かう。
「今の僕の領域を教えて」
『シュレイ 所持領域:名も無き洞窟、名も無き縦穴』
「……名も無き縦穴の取得方法は?」
『土魔法による作成』
ぐっと拳を握る。これは朗報だ。本を机の上に置いて外の、新しい領域へと戻る。ここはまあ、どうするつもりもないからすぐに埋めなおして肉の方へ顔を向ける。とにかく腐ってしまう前にこれをどうにかしないとね。
「えっと、塩漬けは塩が無いから出来ないし、干し肉を作ってみよう」
一度洞窟へと戻り、入ってすぐのところに大きめの机を作った。肉をその上に運んで魔法を使って一口大に刻んでいく。そして最後に、
「干し肉って言うくらいだから干して水分を抜くことによって腐るのを防ぐんだよね?」
昔本で読んだ知識を引っ張り出して声に出して確認。なら、水を抜くことができれば方法はどうでも良いはず。
「水よ、水よ、ん〜?えと、従い、抜け、じゃなくて……」
肉から水分を奪う魔法を考え中、中々良い言葉が出てこない。結構な間考えて、
「よっし!水よ水、我が意に従い集いて枯らせ」
肉の色が見る間にあせて、僕の目の前には薄紅色の水球が浮かび上がった。ぺいっと外に放り投げた水球は、地面へ当たった途端に飛沫となって染み込んでいった。
残された肉を触ってみると、軽く、カラカラとこすれあう音……あれ?僕の知ってる干し肉とちょっと違う。
まあ、お肉であることは確かだし、大丈夫、だよね?