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龍運  作者: 星凪 怜
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王子②最初で最後の町

10日目、ようやく森を抜けた。

森の中では、鹿や兎といった動物、鳥達以外、誰とも会わなかった。


目の前には草原。

遠く北西の方角に、白い土地と、火と噴煙を吐き出している大きな火山が見える。


王子の気持ちは、すでにそちらを向いている。


『ここからが本当の修行になります。油断なさらぬように』

一番の戦士が言った。

『私は魔法使いにはなれませんでしたが、鍛練し戦士となることが出来ました。

私の経験が王子様の役にたつのであれば、何でもお教えします』


3人の戦士が王子の前に膝まずく。


その瞬間、冷たい風が吹いた。

王子は、ひゅっと首をすくめた。


『王子様、あの白い土地は、龍の首と言われる土地。

たまに、冷たい風が吹くのは、そのせいです。

雪と氷に覆われていて、息も凍る場所。

今の私達の装備では、一歩たりとも進めません』


王子は、遠くの白い土地を見つめている。

早く行きたい。

しかし…


『王子様、南西に1日行くと、町があります。

最初で最後の町と言われている町です』


最初で最後の町?王子は、訳が分からなかった。

『最初で最後の町とは?』


『修行に出る若者達が最初に情報収集をする町。

そうして、あの町が、龍の首へ行く最後の町なのです。

そこから先には、町も村もありません』

『そこで体を休めて、防寒着を買いましょう。

防寒着は、あの町でしか手に入らないのですから』


仕方がない。

王子は、戦士達のアドバイスを聞き、町へと向かった。




夕方、日が沈んでから町に着いた。

町は、城下町より賑やかに感じた。

たくさんの店が、色とりどりの灯りを灯し、客を誘っている。

『新しい剣が入ったよ!買っていかないかい?』

『この防寒着は、魔法使いが作った物だよ!』

『魔法使いを見つける道具を買っていきな!』

『この靴を履いてみな。暖かくて春のようだよ!』


王子は、初めて見る店ばかりで、目をまるくしている。


食事をする店もあるが、普通の町にあるような、肉屋や、生地屋、パン屋などは見あたらない。

宿屋と、武器、防具の店ばかりのようだ。


王子が、目をまるくしてキョロキョロしていると、目の前を老人と若者数人が通った。

通りすぎる瞬間、最後を歩いていた若者が王子に声をかけた。


『おや?あんた、修行したてかい?頑張れよ。

俺達は、あの魔法使いの弟子にしてもらったんだ』


魔法使いの弟子?

先を行く老人を見る王子。

あの魔法使いの弟子にしてもらえば、北に行かなくてもいい…

『魔法使い殿…』

王子が老人に声をかけようとした瞬間、一番の戦士が王子を引き寄せた。


『何を!』怒った顔で戦士を睨み付ける王子。

一番の戦士は『手荒な行為、申し訳ありません』と前置きして言った。

『あの老人は、魔法使いではありません。

魔術師です。若者達を騙して、金を要求しているのでしょう』

『魔術師?』

『そうです。魔術師です』


魔術師?魔法使いとは違うのか?

王子は分からなかった。

『魔法使いは、自然の力を借りて魔力にします。

しかし、魔術師は、道具を使わないと魔力を出せないのです。

つまり、魔術師には、生まれ持った、魔力が無いということです』


『お前は…あの老人が魔法使いではないと判ったのだな』

『はい。仮にも国一番と言われている戦士の私。多少ではありますが、相手の力を見る事が出来ます』


この戦士がいてくれて良かった。

王子は、道を間違えるところだったのだ。


『高い防具や、道具を売りつけては、力が足りないとか言って、若者を放り出す、悪い魔術師もいるらしいですよ』

他の戦士達も言う。


『今夜は、この宿屋で休みましょう。

町一番の宿屋ですから、王子様には、お気に召すかと』

そこは、立派な造りの宿屋だった。


一番の戦士が中に入ると、下男らしき男が出てきた。

『お泊まりでございますね。何名様でしょうか?』

『4人だ。しかし、一番良い部屋を、この方へ。私達3人は同室でよい』


男の顔が、最高の笑顔になった。

『こりゃあ、貴族様だ』男は、そう思い、すぐに、宿屋の主人に伝えた。


宿屋の主人は王子を、この宿屋の一番の部屋に案内した。

『御用がありましたら、このベルを鳴らしてくださいまし』

宿屋の主人は、そう言って出ていった。


部屋は、中庭に面していて、町の賑やかさが遠くに聞こえる。

大きなベッドと、バルコニー。

テーブルの上には、ワインと果物、ハムやチーズが置いてある。


王子は、旅の汚れと疲れを、浴槽で落とし、ワインをひと口飲んだ。

そうして、戦士が夕食を持ってきたのも知らぬまま、深く眠っていた。

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