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にいと☆プリンセス  作者: 青梅次郎
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第二章 萌えたぎる運命的出会い

「ちょっと!!ちょっと!!聞いていますの!?」


 紅紗利菜くれない さりな。このような、どこぞの金持ちのお嬢様気質な縦撒きロールの美女は俺のクラスの委員長で本校の紅理事長の娘さんであり、俺の幼なじみだ。ふ


 こんな彼女に小さい頃さんざん振り回された。


『あなたはわたくしの奴隷になりますのよ!おーっほっほっほ!!』とかお前漫画の読み過ぎだって思えてしまうほどそれっぽい台詞を常に吐いてたもんだ。


 …まあ正確には奴隷という名のパシリだったけど。


「…ごめん、聞いてなかった」


「なんですって!?私がどなたかおわかりになって!?」


 胸に手を当て険しい顔つきで俺を見るが、まあ俺にはその気迫は全く動じない訳でして。


 小さい頃からこんなの毎回見せられたら嫌でも慣れるって。


「この学校の初代理事長でありその五代目の紅理事長の娘、紅紗利菜様です」


「分かっておられるのなら私の言うことを一言葉聞き逃すことはあってはならないことだということも分かっておられることでしょう!?」


「俺そんな役割担った覚えないけど」


何故なにゆえ!?」


ガーンッ!!という効果音文字が背景に出て来そうな、九十年代の少女漫画にありそうな白目のショック顔になっている彼女を見て仕方ないなー、ともう一度言ってもらうようお願いを申し上げることにした。


「どーかあなた様のありがたいお言葉を一言も聞き取れなかったこのあわれな私の為に今一度先程のお言葉をお聞かせくださいませんでしょーか」


「棒読みのせいで謝罪感がまるでなくってよ!!?」


グヌヌ…と悔しがる彼女だったが諦めて俺の願いどおり、先程俺に言っていたことをもう一度話し始めた。


「今日父上が休日で久々に家族で家に過ごすことになりましたの。それもあって私の家で「久々の家族揃いましたDAY」ということでパーティーを開こうかという話が出まして」


なんだそのだっさいネーミングセンス。


「よろしければ和白かずしろも…その…」


と、急にもごもご言い始め、体をくねくねし、言いずらそうな態度を取る。


「…か、和白が行きたいとおっしゃるのであれば、つ、連れて行ってあげてもよくってよ!!」


「あーはいはい、行きますよ」


 本当は行きたくないんだけども、彼女の頼みを断ると泣き出したりして後々が面倒だからなあ…。


 そういうと彼女の表情はとても嬉々として、「では今日我が家でお待ちしてますわ!!」と話すと一目散に逃げるように教室を飛び出した。


「……おーい、紅。荷物全部忘れてるぞ」


 俺が彼女に向かってそう声をかけると、顔を紅潮させた紅が下を向いて早歩きで教室に入って荷物を持ってまた教室をそそくさ出て行った。


 ……こういう変なとこがあるんだよな、あいつ。







「あ、そうだ」




ー*ー


「ぱーちー?」


 ゲームのコントローラーを忙しく動かす彼女、絹織はこちらを向かず、いつものように布団に包まり、返事をする。


「ああ、お前もずっとここでゲーム日和だと人としての感覚狂うだろ?たまには外の空気を吸って気分転換した方がいいぞ」


 宿題が入っている封筒を机にパサッと置くと散らかった部屋にかろうじて座れるスペースがあったのでそこに腰をおろす。


「…つーか、本当お前散らかってても気にしないのな、掃除とかした方がいいぞ絶対」


「うるさい。主はワイのカーチャンでござるか?」


「ちげーよ、お前が異常なの」


 ガチャガチャコントローラーを動かす音が聞こえる。テレビ画面を見ると可愛らしいモンスターと戦うヒロインを操作しているようだ。


 今日はファンタジーものか。美少女攻略ゲームしかやらないと思っていたが一つ縛りしてるわけでもないらしい。


「そういえばお前、外でもそのキャラなのな。先公から聞いたぞ」


 そう。今日放課後に宿題を届けようと自ら名乗り出たら先公から彼女について色々話してくれた。




『さすが斉藤だな、頼りになるよ。』


『いえ…』


『驚いたろう。彼女の実態を見て』


『はあ…まあ…』


 俺は苦笑いをして適当に返事をした。

 

 …その彼女にほの字になってしまったんですがね。


『私が行っても彼女は拒絶反応を示すから、同級生の生徒なら心を許すかと思いきや、むしろ生徒の方が拒絶反応を示してしまってな。このままじゃ埒があかないし、このまま人を拒めば、彼女の人としての性能が無くなってしまう。最後の希望としてお前に声をかけた。唯一彼女に向き合おうとしてくれる君になら彼女を孤独から救ってくれる。信じてるぞ、斉藤』



…なんか重大任務を任されてしまったが…彼女に会えるならそれでいいや、とポジティブに捉えることにした。


とまあ、こんな感じで話があった訳だが…


「個性は大事だと思うけども、強すぎてもドン引かれるだけだぞ」


「はっ。主が心配することではなかろうて。主は主の身を案じてればいいのでござる」


 その返答に俺は少しムッとした。他の生徒だけでなく、俺にまで拒絶反応示すのか。


 昨日のやり取りで少しは距離を縮めたと思えたのに、結局この様か。


「ワイのことはもういいでござろう。」


「いや、よくな…」


「もう七時になるでござるぞ。もうすぐ姫君のところへ向かわねばならないのでは?」


「えっ」


 壁にかけてある萌えキャラに包まれた時計…をみて、午後六時四十五分を差しているのが分かった。


 まずいな…。絹織の住宅からだと頑張れば三十分で着くだろうが、しかし…


「…まじで一緒に行ってくれないのか」


 少しはらける俺を彼女は振り向いてみるが、「うぬ」と俺をどうでも良さげに見て言う。









「…もしかして、少し妬いてたりする?」


「なぜそうなるのでござるか」


「よーし、着いたぞ」


 俺は家とは言えない大きなお屋敷を前にふー、と息を吐く。


「ここっっここっこここここっっこっ…これがっ「あたしを愛して?ダーリン」のちいこエピソード一のちいこちゃその家に訪れる名シーンの現場でありますか…!!」


「違うけど」


 鼻息を荒くして目をキラキラ輝かせている彼女、絹織紫小里は黒い何かのキャラを模したパーカーを着て俺の隣で興奮していた。


 パーティーの主催者は同級生の女だと伝えると急に目の色を変え、お、嫉妬か?と思った俺はさらに彼女について詳細を教えると行きたいと嬉しそうに話すので、あ、これ違う、ゲーム絡みだ、とつまんなく思えたけれど、まあ結果オーライ、と彼女と触れ合える機会が増えたと捉え、絹織を紅の家に招待したところだ。


「主のガールフレンド、全くと言っていいほど、ちいこちゃそにクリソツなのでござる!!これは一つの運命!!遥か昔一万年と二千年前に交わされた約束を果たす時がキタのでござるな!!!」


「大昔過ぎじゃね?」


「ふう…これで我が輩の聖地がまた一つ増えてしまったな…」


「聖地って何」


「ちみぃ?…「聖地」も知らんでよくここまで生きてきたでござるな…」


 あきれ顔で俺を下から目線で見る彼女。

 

 とうとう俺自身の人生ごと罵倒される日がくるとは思いもしなかった。


「「聖地」とは我らが愛する者達がいた場所!!生活していた場所!!俗にいう観光巡りの有名スポット的なやつでござるな!!」


「へー」


「ふう…ここまで興奮したのはあの日…そう!恵美タソを完全攻略できた日以来でござる!!礼を言うぞ!!ガチムチ!!」


「気色悪い呼び名やめろ!俺の名は斉藤和白だ!!和って呼べ、呼びなさい!!」


 と、さりげなく名前呼びを要求するも、ふー、と額の汗を拭う彼女には俺の声は届いていないのだろう…






「これから忙しくなるでござるな!!えーと…まずはここにカメラを設置して…」


《正 義 執 行 致 す!!》


 彼女が門の周囲に生えている植物の中に隠しカメラを設置しようとしたのを俺は防ぎ、それを壊す。


「んにゃああああああああああ!!!」


 そしてついでに絹織の頭を殴る。


 ゴツーン!!


「あだあああああああああああああ!!!」


「あんなあ…これでも一応俺の幼なじみなの。勝手に変なことしたら俺がゆるさんからな」


「ぐぬぬぬ……」


 頭を抑えて睨む彼女。するとインターフォンのマイクから声が発生された。


『斉藤様ですね。少々お待ちください』


「はにゃ!??」


 急に聞こえた声に絹織は驚いて、咄嗟に俺の背後に隠れて背中の服を掴む。


「!!!?????」


 俺は彼女の急な行動に驚きを隠せず、可愛さに萌え、にじみ出る理性と戦っていた。


『……早く入らないとうちのボディガードにミンチになってもらいますわよ』


 低い低い、地の底から聞こえるような悍ましい声に二人揃って恐縮し、開いた門の中へそそくさ入っていった。





「私、別に友達を連れてこいなんて申しませんでしたが?特に「女性」の方など」


 女性、を強調させて話す彼女にびくびくし、とうとう俺の背後より遠い柱の後ろに絹織は隠れてしまった。


「そこまで言わなくてもいいだろうが、人が多い方が楽しいだろ?」


「………ふんっ」


 頬を膨らませてあからさまに怒っている様子だが、俺、何かしたっけ?


 食卓、とは言えない豪華でだだっ広い場所に俺達は案内され、そこには紅のご両親が席について俺達を待っていた。


「おお、和白くん。久しぶりだなあ」


「お久しぶりです」


「あれから六年も経つのね~大きくたくましくなったわね~」


「どうも…」


 紅の両親は暖かく俺を迎えてくれ、席に着きたまえ、とメイドさんに招かれ豪華な椅子に座る。


「…あら?そちらの方は?」


扉の隙間からそっと覗くのは絹織だった。深くパーカーを被っておりいつもより怪しい雰囲気を漂わせている。


「あ、俺のともだ」


「部外者ですわ!!お父様、お母様!!」


俺の隣に座る紅はそう強い口調で突き放すような感じで言う。


「おい!部外者はねーだ…ないでしょう…」


 俺はいつもの話し方で彼女を叱ろうとしたが、さすがにお偉いさん、しかも学校の理事長の前ではさすがにヤバいと思い、丁寧な話し言葉に変えた。


 それを彼女は知ってか知らずか、にや、と笑うと続けて言う。


「部外者には変わりありませんわ。私がご招待したのは斉藤和白。あなただけですもの!!」


「ま、まあそうなんですけども」


 ふん、と得意げに顔を反らし、絹織をキッと睨む。「ひい!」と情けない声を出し、その場に動けずビクビクしている彼女がそこにいた。


 と、ちょうどいいタイミングで料理が運ばれたので


「おお!す、すごい料理ですね!!これなんと言う料理なのですか!?」


 彼女、絹織から話題を反らそうとする俺。


「これは」とメイドさんが教えてくれようとしたが、


「アイナメのフリットですわ。和白ったら、こんな常識も知らないなんて!!恥知らずもいいとこですわ!!」


「………」


 どうして俺の周りには自分の知識が常識的ものだと自信を持って言える奴が多いんだ…。





 気まずい食会も終わり、早々帰ろうとしたが、紅の両親に引き止められ、なぜか彼女の部屋に招待されてしまった。


 独り部屋とは思えない、30畳くらいはある広さで、もっふもふな高級感溢れる絨毯にゴージャスな家具が置かれており、まさにお嬢様の部屋って感じだ。


「………」


「………」


そんなゴージャスな部屋で、俺と紅はソファに座り、互いにだんまりしてただ時間だけが過ぎていく。


「…本当に、和白は変わらないですわね」


「は?何だよ急に」


 彼女は申し訳なさそうに顔を俯かせ、ぼそぼそと話し始めた。


「こんな自己中女の傍にいてくださるなんて…。私といても気分を悪くされないのですか?」


 今更感ありますけれども、と乾いた笑いを含みながら言う。


「まあそうだな。お前は本当捻くれてるからな」


 びく、と肩を震わせる彼女。


「今更だと思うけど。そんな捻くれたお前とどれほど一緒に過ごして来たと思ってんだ」


「えっ」


 驚いて俺の顔を覗き込む。


「お前の悪態ももう慣れたっての、だから気にすんな」


 呆れ笑いを浮かべて彼女を見ると、彼女は瞳をうるうるさせ、ふいっと後ろに顔を向ける。


 そう、こいつが他人を貶すような悪態をついてしまうせいで孤立しやすい環境にあった。


 たまにいじめられたりしてたけど、俺がそれを助け出し、悪態にも慣れた俺なら友達くらいにはなれるから、彼女に一人にしないことを約束したのだった。


「…やっぱり和白は…素敵な方ですわ」


 耳を紅くしてそういうもんだから、なんだかこちらまで緊張してきたじゃねーか。






「………すばらしい再現力でござる」


「きゃああ!!」


 ひょっこり彼女の背後に付いていた座敷童、ならぬ絹織は紅の首筋をくんくん嗅いでいる。


 変態かお前は。


「いいところを邪魔してすまないでござる!いやしかし!!しかし!!しかーし!!」


 何回言うんだよ。


「ちいこちゃそのそっくりさんがこんなに間近にいられたら我慢できないのも仕方ないと我が輩は思うのである!!」


「きゃああああ!!!」


 紅はあまりにもの突然の出来事で、俺の胸に飛びついて来た。


「きーぬーおーりー」


「んなっ!!ちいこちゃそに飛びつかれるなんぞ羨ましいの山の如し!!」


「突然そんな変態的行動とられたら誰でも驚くっつーの、あと、ちいこちゃそじゃなくて紅な」


 俺の胸の中で体をカタカタ震わせる紅。…突然弱られるとなんか調子狂うな。


「な、ななな、なんですの…!!あの汚らわしい存在は!!」


「お前も失礼なこと言ってやんなよ、絹織紫小里。お前と同じクラスメイトだぞ」


「はあ…今まで姿をみたことないので存じませんでしたわ」


そうか…。じゃあ一年次の彼女を知らないのか。


「紗利菜殿、紗利菜殿…」


「ひい!!い、いきなり名前呼びだなんて、馴れ馴れしいにもほどがありますわ!!」


「そうだそうだ!!俺だって名字すら呼んでもらえないってのに!!」


「和白…?」


 紅が一瞬こちらをみて不信感を抱いたような眼で見てくるが、俺は気付かずそのまま彼女に接する。


「つーかお前のやってたゲームと紅のキャラ全然ちげーじゃねーか!!」


「げーむ…?」


「いやいやそっくりさん並の性格の一致っぷりっぷりでござるぞ!ちいこちゃそは学園一のツンデレお嬢様キャラであり、悪態をついて生徒達、先生達を貶してくが、それは自分を強く見せるための見栄であり強がりであった」


「…!!」


 絹織の台詞に目を見開く彼女、紅。


「しかし、ワイはとある場面で彼女の弱いところをみつけてしまう!!」


「お前というかゲーム内の主人公な」


「黙っとれえええええい!!その主人公を操作してるのは我が輩!!つまりプレーヤーイコール我が輩となるんじゃ馬鹿素人が!!!」


 痛いところを突かれたのか、いきなり威勢のいい声で怒鳴って来た。…自覚はあったのか。


「では再開するぞ。ワイはとある場面で彼女の弱いところをみつけてしまう!!」


「お前というかゲーム内の主人公な」


「だあああああああああ!!そういう再開じゃなあああああああああい!!!!」


 顔を真っ赤にして俺の頭をぽかぽか殴るも、マッサージ機の弱並の強さなので痛くないしかゆくもない。


「お~あ~そこそこ~脳が活性化されそうだわ~」


「ひえっ!!ゲイっぽいこというな気色悪い!!」


「は!??げ…!??」


 俺はそうつっこまれたのと同時に彼女がそういう知識を知っていることにショックを隠せず、硬直してしまった。


「ふー、ようやく黙ってくれたでござる。では!今度こそ再開させて頂こう!!」


「きっと、その物語はこう続くのでしょう」


「!!???」


絹織はまさかの予想外の遮った相手に動揺し、こちらも固まってしまう。


「彼は彼女の弱さを知り、彼女を支えることを誓い、やがて恋人の関係を築くことになり、ハッピーエンドとして幕を閉じるのですわ」


 少し照れくさそうに話す彼女に絹織はぱあっと顔の表情を明るくし、ソファの後ろにいたが回り込み、彼女の真横に座る。


「きゃ!」


「そうでござる!!そのもどかしさと不器用さにワイは惹かれたでござる!!今一番の嫁でござるぞ!!」


 ツンデレ萌え~とニヤニヤする彼女を見て少し引き気味になるも、自分のことを言われているみたいで少し嬉しそうだった。


「やはり紗利菜殿はちいこちゃそと似ていて魅力のある美女でござる!!出会った当初、大分罵られたが、その清々しい貶しっぷりに逆にワイの中の何かが目覚めそうになったぞ!!」


「それはまだ目覚めない方がいいんじゃないのかな!」


 ようやく再生した俺は彼女がドMに目覚めかけたと聞き、慌ててつっこんだ。


「紗利菜殿…」


 そっと彼女の頬に手を添える絹織。…まさか、まじでほの字になったんじゃあないだろうな…!??


 紅も満更ではないのか、紅潮した顔で彼女を見つめる。


 俺の目の前には二人だけの世界がそこにあった。だんだん不安になる俺。


「え、えと…絹織さん?」


「紫小里でよいでござる」


 今まで聞いたことのない優しい声に俺の不安はさらに増大する。


「お、俺もしおりってよんでもいいか」


「は?ダメに決まってるでござろう」


「ま、まあソウダヨネー…」


 潔い拒みっぷりに閉口してしまう…。


「………では、紫小里さん…」


「うむ!」


 ニコニコと紅の話しを聞く絹織。俺の前ではそんな顔しないのに…。




「……わ、私の……」



「ん?」























「私の!好敵ライバルになってくださりませんこと!?」


「…………………………………アッヒョ…」


 予想だにしてなかった要望に彼女は目を点にする。


 …いや、俺も予想だにしなかった。てっきり「友達」になりたいもんかと思ってたから…。


「……らいばる、とは?」


「そのままの意味ですわ!!私はかれこれ数年間和白と共に学校生活を過ごしましたが、相棒のごとくこんなに接近してくる異性はいませんでしたわ!!」


「相棒じゃないでござる!!水●豊よりマグロ漁師の方が個人的には好きでござる!!」


「ドラマの話じゃねーよ!!…意外と渋い趣味してんな…」


「二人して話を反らさないでくださる!??」


 紅が両サイドにいる俺と絹織をそれぞれ両手で指差す。


「とにかく!!和白は渡しませんわ!!!覚悟なさって!!!」


 ……いや、俺おまえのものになった覚えはない…と思ったけど、そういや奴隷がどうのこうの話があったな……。


「ええ、どうぞどうぞ」


「………。」


……こうも潔く譲られるのも悲しくなるな……。


「……こうも諦めが早いとなると、逆に怪しいですわね…。何か策を練っておられるのではなくって…?」


 眉間にしわを寄せて絹織を睨みつける彼女。


「はう!!なぜばれたのでござるか!!」


「やっぱり!!私の目では誤魔化せなくってよ!!」


 お~っほっほっほっほ!!!と高笑いし彼女を蔑む紅だったが、

 

「くそっ…!!どうしたら紗利菜殿を落とせるのか攻略ルートを練っていたところでござったのに…!!」


「な、なんですって!!?」


 …互いの意見をこうも譲らないとなりゃ、こりゃ堂々巡りするな。


 そう思った俺はひとまず退散することになった。




「よっこらせ」



 

 絹織をお姫様抱っこして。


「んほお!!!!???」


「んなっ!!!???」


 二人して俺を凝視するが構わず淡々とした口調で紅に一言。


「じゃあまた明日な。いい加減帰らないと母さんが心配するので」


 じゃ、と片手で彼女を抱き上げた状況を維持し、片手でさよならジェスチャーを示すとスタスタ歩き出した俺。


「ちょ…!!まだ話しは終わっていませんわよ!!!」


 かずしろー!!と叫ぶ声が聞こえたが、スルーして玄関へと足を進めた。


 彼女には悪いがいろんな意味で居心地の悪いところで長居はしたくなかったので早々断ち切らせて頂いた。


 明日彼女からとやかく言われるだろうが、まあ慣れた俺には朝飯前だし大丈夫。


「うぎゃあああああ!!!!またこれかいいいいいいい!!!」


「「また」?妙なことを言うな。前に俺がお前にしたのは抱き上げ、つまり高い高ーいだぞ」


「どっちも変わらんわぼけええええええええ!!!!」


 は、な、せ!!と俺の胸板をぽかぽか殴ったり、頬を引っ張られるが全然痛くない。


 むしろもっとやってくれって感じだ。…肩に押し付けられている胸の柔らかさに少々理性が飛びそうになるが……。


 すると、玄関の前に複数のメイドが並んでおり、


「ふふふ、仲がよろしいですこと。紗利菜様が妬いてしまうのも無理ないですわ」


 と、にこやかに俺に言うと扉の端にメイド達は寄り、俺達に道を譲ってくれた。


「和白君」


 後ろから声がしたので振り返ると紅の両親が立っていた。


 あ、やばい…。無断で帰ろうとしたから怒ってるのか…?


「紗利菜はああ言って君を傷つけるがそれはあの子の強がりな性格がそうさせているんだ。悪く思わないでくれ」


「昔から見栄を張って無理して、でも一番努力家ながんばり屋さんなの。あの子の望まぬ形になってしまっても、仲良くしてくれる?」


二人は優しく俺に問う。


 なんだ、と俺はボソリと呆れたように呟く。




「知ってますよ、そんなこと。何年アイツとつるんでると思ってるんですか」




 呆れ笑いを浮かべると紅の両親は驚いた顔だったがすぐ笑顔に変わり、


「なるほどな、私たちの方が紗利菜のことを知ってると思っていたが違ったようだ」


「ふふっ、そうみたいですね、ちょっと分かってない所あるみたいだけれど」


 ……?

 

 最後の言葉が小声だったので上手く聞き取ることが出来なかった。


「紗利菜をよろしくね」


 やさしい紅のご両親の笑顔と、両サイドに並ぶメイド達に「お気をつけて」と一斉にお辞儀で見送られ、俺達はその場を後にした。



 紅家の執事が運転するリムジン…に乗せてもらい、俺達はそれぞれ帰宅した。


 家路に着いて思ったのだが……、あいつ、家族はどうしてるのだろうか。


 今日は遅くまで居座ってたが七時にもなっても帰ってこないことから、夜の仕事でもしてるのだろうか。


 気になってもしゃーないので、明日彼女に直接聞いてみることにしよう。


 今日はもう遅い。時計も十二時を差している。まぶたが閉じたがって仕方なかったので俺は寝ることにした。





ー*ー


 俺が寝床についた頃、絹織の方はというと、



 ガチャ


 風呂上がりだろうか、髪を湿らせていつもと変わらない服装の絹織がリビングに出て来た。


「あら~しおりちゃんじゃなあ~い」

 

 彼女は冷たいまなざしで声の方を見る。


 その視線の向こうには机にうつぶせになって酔いつぶれている女性がいた。


「……おかえり。……母さん」


「や~んしおりちゃん久々に出所したってのにつめた~い」


「………。」


 彼女は無視して冷蔵庫に向かい、中にある飲み物を出し、自分の部屋へと早足でリビングを出て行った。


「……は~…」


 カシュ


 彼女、絹織の母親は机に山になっている酒の缶を一つ開け、グビグビとのどに流し込む。


「ぷっはぁ~~~っ!!やっぱ酒に限るわ~」


 ひっく、としゃっくりをするも途端の孤独感に凹み、再び顔を机にくっつけた。







「…なんでこうなっちゃったのかなあ……」







ぼそりとつぶやいた彼女の声は誰にも届かず、虚しさが募り、酒でその虚しさを紛らわすかのように彼女はまたぐびっと缶ビールに口つけた。

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