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にいと☆プリンセス  作者: 青梅次郎
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第一章 始まりは不法侵入から!?

 絹織きぬおり 紫小里しおり。彼女は一年前までは成績全学年トップクラスで、運動神経もよく、まるで漫画にいる優等生クラスの生徒だったそうだ。しかし、ひょんなことからパタリ、と学校に登校しなくなった。



 成績優秀だから学校に来なくてよくなったとか、嫌がらせを受けて学校が嫌になったのか、詳細はよくわからないが二年になる今年の三月から今の六月にかけて登校を拒否しているそうだ。



 そのせいもあって俺は、彼女の姿を見たことがなかった。噂によると頭脳だけでなく、スタイルも抜群だったらしく、よく放課後に告白とかされていたらしい。…まあ全部断っているみたいだけど。



 その話から俺は想像することでしか彼女を形作るものがなかった。友達ーーは、いることはいるのだが、こいつにいたってはただのサボリなのでそいつから彼女の情報を得ることはできない。



 男なら誰もが気にする美少女に会えると期待してたのに、学年が上がって、その優等生とクラスが同じになったというのに姿を現さないとは、一ヶ月は我慢できたがそれ以降はさすがに肩を落としがっかりした。



 今日の放課後、席替えがあり隣の席は優等生になったのだが、肝心の本人がいなければ感情のかの字も出ない。



 すると、



「斉藤!ちょっと来い」





「先公、ありがとよ…!」


 今日ほど先公に感謝する日は訪れることはないだろう。


 そう、実は今日隣の席になったついでに課題などの書類届けを頼まれたのだ!


 何故俺なのか理由は分からなかったけど。


「先公の話によれば…ここかな?」


 団地にずらっと並んだアパートが三つ程綺麗に揃って建っている。それぞれ端に一、二、三と数字が書いてある。


「えーと、絹織さんの住所は…雛ヵひよこがはら三の二一〇号室か…」


 俺は先程見つけた数字の三、と書かれたアパートに向かう。階段を上り狭い通路を淡々と歩いていく。


 …よくよく考えたら、俺、女子の家に訪れるの初めてじゃね…!?


 ぶわっと額から変な汗が湧き始める。やばい、急に緊張して来た…!


 すると彼女の住居と思われる扉の横にある窓の隙間からきゃっきゃきゃっきゃと話し声らしき声が聞こえる。


 ……これ、もしかして…サボり?


 俺の頭から「サボり」という言葉が出て来た瞬間、頭の中のアドレナリンが湧き、脳がフル活動と化す。



《正 義 執 行 致 す!!》



カッと目を見開き、躊躇なくドアノブに手をかけぐいっと右に回した。


ガチャ!!!


扉には鍵がかかってないようで、すんなりドアは開いた。


「……無防備すぎるぞ…絹織紫小里……!!」


 同じ学校の生徒である俺ならまだしも(?)他の男がやって来たらどうするんだ…!


 そのままずかずかと部屋に入っていき、絹織を血走った瞳孔かっ開いた目で捜索する。


 すると、わずかに開いた扉からゲームのようなピコピコとした音楽が漏れているのを発見した。


 そこかーーーーっ!!!!


 バンッ!!!


 力任せに勢いよく扉を開く。




 その扉の向こうの光景は想像付かないものだった。




『じゃあじゃあっ!このあとあなたの家にちいこが寄ってってもいいかな??』


→・いいとも!

・ちょっと掃除してから

・え?嫌だなあ・・・


「いいとも~!!!」


 その奇妙な光景を目にし、俺は唖然とした。


 テレビの画面に向かって大声で話しかける布団に包まった女性、おそらくあの子が絹織紫小里なんだろうけども…。


 そのテレビの画面はというと、とてもアニメチックな絵柄の、胸がやたら強調させたようなタッチに大きな瞳にバサバサまつげの女の子がいたが…。


 あれか、萌え~ってやつか?よくわからないけど。


 その女の子に向かって話してるのか?この人は。


『えっ!いいの?突然のお願いだったのに…。しおりくんはやさしんだね!』


「でゅふふふふ…ちいこちゃその為なら例え火の中水の中草の中森の中土の中にだって行くでござるよ?」

 

 ベッドでうつ伏せ状態でゲームをしているこのだらけたオタク女が、あの、絹織紫小里なのか…?


 多少ショックを受ける俺だったが…


 いやいやいやいや!


 待て待て!早まるな!もしかしたらお姉さんか妹さんの可能性もあるかもしれねえじゃねえか!!


 つうか、何であんな大きな物音出したのに彼女は気付かない…?


 そんなに夢中になってんのか?


「…お、おい!絹織!」


「はあ?…今日も絶品かわうぃうぃちいこちゃそ…でゅふふ」


 …どうやら夢中になりまくってるらしい。


すこしイラッとした俺は大きな声で話しかける。


「おい!絹織!」


「ちいこちゃそが現実にいたらどんな匂いがするのでござろうな…はあ…妄想しただけで絶頂しちゃいそうでふ…」


「きーぬーおーりー!!」


「きっとフローラルな香りに違いないでござる。いや、逆に考えろ、もしお風呂三日入ってなかったら…」


「くせーだろ!!じゃなくておい!!返事しろや!!」


 ついツッコミを入れてしまった…。


 すると彼女はこちらを向かなかったがようやく反応してくれた。


「分かってないでござるな!!その臭さがたまらないでござろうに!!そして二人でお風呂で洗いっこ…んふー!!!最高のイベントがはじまるでござるぞ!!!」


「確かにいいかもな…ってちげえよ!!こっちの話聞けや!!!いい加減キレるぞ!!!」

 

 …一瞬同意してしまった俺…、情けないな…。 


 …とにかく、俺はそう叫ぶと、ふいっと彼女はこちらに顔を向けた。






 その瞬間、俺は息をのんだ。






 世界が停止した、と言っても過言ではないと思う。


 ふわり、とボブショートの下から伸びる長い髪をなびかせ、まん丸な瞳にバサバサまつげ、頬はほんのり紅く、かわいい美少女なんてこの世にはいないと思ってたけど、なるほど、こいつみたいな子のことをいうんだろうな、と一人心の中で呟く。


 俺は彼女からなかなか目を反らせずにいた。



 一目惚れだった。

 


 きっとこの瞬間から、俺はおかしくなったんだと思う。


「んとにもー!何なのでござるか!!うるさいでござる!!今ちいこちゃそをお家に連れ込んで一つになろうとする大事なイベントの真っ最中なのでござる!!邪魔しないで頂きたい!!」


 キッと俺を睨むもその顔すら可愛いから怖くも何ともない。


 子猫が威嚇しているようなもんだ、あ、やばい、そう思うと余計かわいい。


「てかおたく誰?ワイのユーザーさんにはそんなガテン系イケメソさんなんかいなかったでござるぞ」


「ーーーっ!!」


 ガテン系イケメソ


 ガテン系イケメソ


 ガテン系イケメソ


 俺の頭の中でその言葉、特にイケメソー多分イケメンのことだろうーに反応し、何度もエコーしリピートされる。


「しかもワイの領地にずけずけと…みんな大嫌いお巡りさんに通報しますぞ」


「わわ、待て待て待て!!!」


 今の状況だと九十八パーセント俺の方が不利だ。というか俺が不法侵入したから悪いし当たり前なんだが…。


 でも通報されたくないしお巡りさんのお世話になりたくない。


 ガサゴソとスポーツバックの中身をあさくる。


「と!あったあった!!」


 ほれ、と彼女に今日渡された書類が入ってある茶色の大きい封筒を手渡す。


「ちぃっ!!」


 それを見た瞬間大きく舌打ちされてしまった…。すごく傷つくんですけど…。


「それは賄賂でござるか…?それとも脅しでござるか…?主はワイを闇の混沌へと導かんと遣いとして参られたわけでござるな!!」


「ごめん一つも理解できなかったんだけど」


 さすがの俺でも解読不可能な単語がずらりと。


 オタクってこえーな。


 方言並の難易度だぞ…?


「貸せっ!!」


 俺の手からぐいっと封筒を奪う。なんだ、結局受け取ってはくれたのか。


「こんなもの!!こうしてくれるわ!!」


 と、なんかの台詞っぽいやつを発言したと思った次の瞬間ーーー!!

 



 ビリビリビリビリビリビリ!!!!




「ああーーーーーーっ!!!??」


 俺が先公に託された、彼女と先公の唯一の繋がりをこうも簡単に引き裂かれてしまった…。


「ふははははははは!!!どうだ参ったか!!!これでワイは地獄行きの切符を粉砕し、自らの身を守ることに成功したでござるな!!はっはっはっはっは!!!」


 高笑いする絹織に怒りを抱き、わなわなと拳を震わせ、彼女を睨んだ。


 ビクッと身を震わせ、高笑いは止む。


「なな、な、なんでござるか!や、やるでござるか!あん!?」


 ぷるぷる震えながら構える彼女に冷ややかな視線を送る。




それでは…《正 義 執 行 致 す!!》




「……なあ、お前にやった封筒それ、宿題の塊だと分かっての行動だろうけどもさ…」


 ずんずん、と俺は静かに彼女に近づいていく。


 近づく度に彼女は部屋の端に身を引いていく。


「先公はお前を思って、お前を心配して、宿題これをお前に送って来たんだぞ?中身は多分宿題だけじゃない」


 散り散りになった残骸の中から一切れの紙を拾い上げ、彼女に見せる。


「……ほら…見てみろ」


 彼女は身を縮めながらもそっと俺の手元を見る。


 そこには便せんのような縦に線が入ってあり、その間に文字がずらりと上から下に並べられている。


「「皆さん心配してるは」「ことを願ってま」、二つとも明らかに宿題ではないよな?しかも手書きだし」


「………」


 シュン、としている彼女を目にし、ふう、と俺は息を吐く。


「…これで分かったろ?だからもうそんな酷いことをするのはやめてちゃんと宿題を出して、単位を出して、願わくば学校に登校して頂ければ幸いなんだがな……」


 その方が俺としても嬉しいし、という言葉は我慢して飲み込むことにした。


「……悪の組織の一員、渡辺ティーチャーの差し金…ではないのか…?」


 俺の威圧感に怖がっているのか、おそるおそる訪ねてくる絹織。


 …木陰に隠れてこっそり顔を出す子猫みたいでかわいいなあ。


 俺はそんな彼女の様子を見たおかげか、先程の怒りはとうに消え失せた。


「確かにこの資料を渡すよう命令されてはいたが、学校に来るように伝える、という指示はもらってない」


「……そう」


 少し彼女の顔に影が差す。


 多少気になったが、急にけろっとした表情になり、


「ではお主のバトル漫画並、いや、ハーレム漫画並の説教ぷりに観念するとしよう。」


「……お、おう………どうゆうことだ?」


「…これだからパンピーくんは苦手なのだ」


 はあ~っ、と深い深いため息をあからさまに漏らす彼女。

 

 いやいや、お前が並べてる言語の方がおかしいっての!!日本語しゃべれや!!


「悪の組織の一員から宿題という名の契約書を提出してやろうと言ったのでござる!!」


 ふんっとそっぽを向きつーんとした態度を取る絹織。


 おおお……!!生で初めて見たぞ!!


 これが「ツンデレ」というものか!!

 

「クスッ、ならいい。でも単なる口約束じゃあ信用ならないから、俺が毎日ちゃんと出すか見てやるからな」


「ファッ!?」


 

 腕をクロスにし、両手はきつねさんを作って(人差し指と小指を立てて残りの指先をくっつけるやつ)ひょっとこ顔になり、とても驚いているのが分かる。


「つまり俺が学校とお前、絹織の梯子はしごになるってわけだ」


「そ、それはいやでおじゃるうううーーっ!!!」


 わああああ、と俺の胸に飛び込みぽかぽか殴り込む。


 ……あー、………なんというか……。


 かわいいです、とても。はい。


 彼女の拳は大きな耳かきの綿の部分を押し付けてくるような、とても軽く痛くないものだった。


 だから余計愛おしく思えてしまう。


 にやにやしてしまいそうになるのを必死で隠すも、顔の火照りはごまかせない。


 それをごまかすため、Tシャツにジャージ姿のラフスタイルな彼女の脇に手を入れ、持ち上げる。


「ほわあああああああ!!!??」

 

 思った通りだ。とても軽い。まるでクッション並のふわふわした軽さ。


 ……まあ俺が鍛えすぎているのもあるかもしれないけども。


 恐らく彼女は標準並の体重なのだろうが、鍛え上げた俺の体では彼女は羽毛にすぎない。


「いやーー!!HA☆NA☆SE!!」


 俺のだっこに慌ててじたばたする彼女。その度に彼女の胸が顔に擦れて…。


 ……いかん、これはやばい。


 咄嗟に彼女を離し、と言っても距離を離した程度で抱き上げている状況は変わらず。


 そして、その状態のまま彼女に告げる。


「これからよろしくな!絹織!」


「ぎゃああああああ!!!あちしの日常があああああああああああ!!!!」


 こうして俺と彼女は奇妙な関係を築くことになったのであった。

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