7話
今日はダンジョン攻略の日だ。護衛の騎士団、厨房スタッフ、城に来る内政官、朝早くから城の中は慌ただしい。これがザンガール王国の日常なのだろう。そんな中俺達は正門前に集まったのだ。王から支給された防具を装着して、出発の時を待つ。
「蒼汰、危険なんだから私が守ってあげるね。全部私に任せて後ろで見てくれてるだけでいいよ」
出発を待つ俺に香織はそんな事を言い出した。彼女のその理論だと俺は女の後ろで見てるだけのクズ野郎なのだが、どうしようと考えてしまう。
「その必要はねえよ。自分の事くらい自分で出来るわ」
二人でそんな会話をしていると山田と草薙も装備を整えて俺達のいる所に現れた。そして草薙が俺に向かって口を開いく。
「よぅ一条お前は朝早いな」
「お前らが遅いだけだ」
「元の世界では俺達は早起きの部類だったんだ。お前が早いだけだっつーの」
「そ……そうか?」
「そうだぜ」
そんな他愛の無い会話をしているとある事に気付いてしまう。それは山田、草薙、香織と俺の装備が明らかに違うからだ。サイズが違うとかそんなレベルじゃねえ。俺の胸当てガントレットは木を紐で括っただけのチャチな装備なのに対して、山田と草薙が装備しているものは鉄板で作られており、革で彼ら用に調節されているのだ。この露骨な差別には何も言わないでおこう。俺は村人で奴らは勇者だ。ちなみに香織は見た目と防御力を考慮したドレスアーマーである。緑のドレスアーマー姿の香織はどこか人々を魅了しそうであるが、今の俺はそんな事を考えている余裕は無い。
周囲に控えていた兵士達は、集合を確認すると俺達を馬車に乗せ出発したのであった。馬車に揺られる事3時間ほどであろうか、馬の歩みは止まり周りが僅かに騒がしくなっている。外の兵士によって扉が開かれると目の前には昨日の朝食時にいたゴーガ将軍が目の前に仁王立ちをしている。真っ赤な鎧と巨大な大剣を携える将軍の姿はさすが歴戦の戦士といった所だ。
将軍の前に並んだ俺達は、彼が話出すのを待っている。
「よく来たな勇者諸君。これから攻略するダンジョンは比較的難易度の低いダンジョンだ! 貴様らに与えられている力を持ってすればこのダンジョンの攻略何ぞ容易いであろう。だが油断していれば死を招く事にある事も忘れるなよ! さて兵士達から武器と盾を受け取り戦いに赴くとするぞ!」
ゴーガはダンジョンに入る前にそう俺達に伝えてきた。兵士からそれぞれが武器を渡されていく。そして俺の順番がくると、目の前の兵士が申し訳なさそうに木の盾と本当にこれで切れるのかと疑問に思えてくる銅の剣が渡してくる。この世界でも上司の命令に逆らえない部下は辛いんだなと言う現実を突きつけられたのである。
せめてひのきの棒を寄越せよと思いながら洞窟の中へ入ると、ゴーガ将軍が俺に向けて何かを言って来た。
「そこの勇者じゃない奴! あー、なんつったかお前が戦闘を歩け!」
「え? 俺?」
「そうだ! 無能なお前だ! 力が無いんだ、それぐらい役に立て!」
「なんでだよ」
「いいから、前出ろ!」
「ったく。分かった。前に出ればいいんだろう」
そして無理やり先頭を歩く事を強いられた。こんな事をやられて不満しか無いが、ゴーガがニヤニヤしている姿を見ればどういう意図かはすぐ分かる。俺を抹殺してしまいたいんだろう。だが奴の思惑通りに事が運ぶのは嫌だ。俺は乗り切ってやるこのダンジョンをな!
ダンジョンの中で何故か明るいと数分歩いて疑問に思った。松明を持ってる訳でも無く何か光の魔法を唱えている訳でも無い。それでは何故前が見えているのか? それはダンジョンの中に無数確認されるツララの様な水晶が原因だ。どうやらこの水晶から光が発せられて、ダンジョン内を明るくしているようだった。
そんな下らない事を考えていると、どこか思い悩んだような表情を浮かべる香織の姿がそこにあった。彼女は耐えきれずに俺に向かって口を開く。
「ねぇ、蒼汰。私が先頭変わろうか? 私、心配なのよ」
「いいよ。それに……」
俺は香織に向かってゴーガの方を伺うように目配せをする。香織の視線の先にはイライラとした表情のゴーガが俺達を見ていた。香織が先頭を変わると言った時から、そんな表情を浮かべている。
「変わるのは無しらしいぜ」
「何かあったらすぐに私に言ってね。私の蒼汰がどうにかなったら、私……あのゴーガって言う人は許せそうにないわ」
「そうならない様に注意するよ」
「そこの二人、この訓練は遊びではないぞ。私語は辞めてさっさと列に戻れ」
ゴーガは香織を元の隊列へと戻し、俺にさっさと進めと命令してきたのであった。根性無し王様や大臣のせいで俺も客人待遇だったはずなんだがな? と心の中で文句を言いつつ先へと進む。
30分ほど探索を続けているとある異変が起こる。そう俺が足を前に出した瞬間、どこからかガコンと言う音が聞こえてくる。何が起こるか分からないダンジョンの中、罠である可能性を考えた俺は咄嗟に木の盾を音の聞こえたと思う方向に構えると、直後に矢が直撃する音が辺りに響き渡る。矢の勢いを殺す為に俺の腕にジーンと振動が伝わっていくのだ。
「チッ」
ゴーガはその姿をみて、舌打ちをする。まるで俺を仕留め損なったと言わんばかりだ。お前も将軍ならもうちょっと隠す努力をしろよと俺はこの脳みそ筋肉の男を心の中でバカにする。同時に何故俺がこんな目に合わないといけないのかと言う愚痴も出てしまった。問題はその舌打ちを香織が聞いてしまった事だ。
「蒼汰! やっぱり帰るか、私が一番前を歩くかどっちかにしようよ」
「いや、いい。俺も男だ、あのおっさんをぎゃふんと言わせてやりたい」
「でも……」
「俺の事は気にするな。これも異世界でやってく練習さ。熟練の兵士が護衛についてるんだし、大丈夫大丈夫」
香織はもうこれ以上は何を言っても聞かないだろうと思ったのか、大人しく列に戻った。それにしても罠はあったが30分経ってもモンスターが一匹も出ないなんてココは本当にダンジョンなんだろうかと言う事の方が気になる。そう思ってた矢先に目の前にスライムらしき生物が現れる。
「あれはスライムだ。このダンジョン最弱の生き物だな。勇者様方で誰か戦ってみたい方はおられますかな?」
ゴーガは俺以外の3人に問いかける。俺は別に戦いたい訳では無いがどこか悔しい。
「はい、はーい。俺がやりまーす」
山田が元気よく挨拶する。生き物を殺すのが初めてなのでよくそんな軽い返事出来るな。そう思いながら俺は山田の戦いを観察してやった。俺だったら誰かに戦わせて相手の力量を図ってから戦闘に向かうのだがそれは俺がチキンなだけかと自笑する。
そして山田はへっぴり腰で剣を構えてスライムと対峙する。それでどうやって剣を振るんだ?と思ったが内またになりながらまるでバットでも振るようにスライムに向けて剣を振るう。だがその剣は殆ど動いてもいないスライムに当たる事は無かった。どうやら緊張で手元が狂ったようだ。
「勇者様、スライムは中心にあるコアと言う物を攻撃すれば倒せますぞ」
「本当か!?」
「本当だ。コアを壊せばその体は崩れおちる」
「やってみますね」
「おぅ頑張れ!」
ゴーガは山田に対して笑顔で接し、適切なアドバイスをする。この扱いの差である。戦力にならない俺を丁寧に扱わなかったとしても露骨すぎるだろ! そして山田は斧を振り下ろすかのように剣を振りかぶり、スライムのコアに向かって振り下ろす。
剣はコツンと音を響かせてスライムのコアへと命中する。そしてコアにヒビが入り簡単に砕け散る。
「やった! 倒したぞ」
「倒したって言ったってスライムだぞ」
山田は勝利の余韻に浸っているが、草薙がわずかにクギを刺す。そうだスライム一匹倒したくらいではしゃぎ過ぎだ。俺なんて罠を突破したんやぞ! それなのにあの扱いである。
「勇者様がた続いて行きますよ」
ゴーガのその丁寧な対応に若干腹を立てながらも俺は先頭を歩き出す。先ほどの罠の件もあるので俺は周りに気を配りながらしっかりと歩く。見た所変なボタンなどは無さそうだ。だが歩きだして数分後、どこか掘り返したような土の色をしている場所を発見する。明らかに何かがある。
「止まってくれ、少し調べたい事がある」
「なんだよ一条、速く進もうぜ」
浮かれ続けている山田はさっさと次の敵と戦いたいのか早く進めと文句を言って来る。お前はもう少し警戒しろよ。一番前歩く俺の気持ちにもなれよと思いながら俺は変色している部分に片足を突っ込んでみたのである。だが運動能力の低い俺はそのまま片足がズボズボと穴に取られてしまったのである。なんとその姿を見た香織がすっとんで来て穴に落ちそうな俺の腕を引いていってくれたのであった。