5話
「お帰り蒼汰! どこ行ってたの?」
指定された部屋の扉を開くとそこにはこの国の寝間着であろう姿の香織がそこにいた。何故男と女を同じ部屋にした? あれか王様からの小粋な計らいか? そんな事を考えていると香織からの謎の視線を感じた俺は耐えきれずに答えてやる。
「どこでも良いだろ? それよりこの部屋……」
「うん、なんかね私と蒼汰は同じ部屋なんだって、王様がそう言ってたの」
「ベット一つしかないんだけど」
「うん……そうだね。仕方ないし、一緒に寝よっか。小さい時はよく一緒の布団で寝たしいいよね」
良くねえよ! 俺は心の中で彼女に突っ込んでしまった。そう今夜はベットは一つしかない部屋に香織と二人っきりだ。こちとら一線を越えたらもう終わりだって言うのに! と心の中で情けない王様に文句を言う。
こんな美人な女の子と一緒に夜を過ごす。男して大変喜ばしいイベントだ。俺もそう思う。だが、このイベントを乗り越えた先は、香織の俺に対する依存度がメーターが振り切れるくらいに上がるだろう。それはきっと香織の為にはならない。
そしてまだ見ぬカワイイ病んでない彼女を手に入れたい俺にとっても良くない話だ。ここ大事ね。俺は鋼の精神でソファーへと向かう。
「俺達はいつまでも子供じゃねえんだ。俺はここでいいよ」
「ダメ! 一緒に寝ないとだめだよ!」
「俺はもうここで寝る。決めた!」
俺はソファーにゴロンと転がり、そのまま眠りにつく。香織が何か言っていたようだが俺の耳にはもう入って来る事は無かった。
そして次の日の朝、目が覚めるとブランケットのようなものが俺の体の上に被さっていた。香織が掛けてくれたのだろう。俺は心の中で香織に感謝する。俺とて幼い頃から付き合って来た仲だ、別に香織の事が嫌いにな訳ではない。ただ彼女にはしたくないだけなのだ。
「おはよー蒼汰」
「あぁ、おはよー」
「今日も良い朝だね。見て、元の世界と違って空気が綺麗だよ」
そう言って香織は部屋にある窓を開いてこっちに同意を求めるように視線を向けている。だが寝起きで頭が働いてない俺はブスーっとした表情で何も考えずにただ前だけを見ていたのであった。その状況に「もぅ」と小さな声で文句を言っていたが俺は知らん。
こんな朝のやり取りを終えた二人は、着替えを始めるのだ。さすがお城といった所か、部屋の中に化粧室の様なものがあり、そこで交代で着替えなどを済ましてしまったのだ。俺と香織の準備が完成すると同時にドアをノックする音が聞こえてきた。
「勇者様、朝食の準備が整いましたので、食堂へご案内します」
「はーい、今いくよ。いこ蒼汰」
「おぅ、そうだな」
俺達は言われるがままに食堂へと向かう。案内の者に連れられて歩いていると食堂へはすぐに辿りついたのであった。そして食堂の扉を開けると机の上には朝食とは思えないほど豪華なものが並べられていた。
俺は周囲を見渡すと山田、草薙の姿は無い事が分かった。どうやら俺達が一番のりのようだ。俺は目の前の豪華な食事への気持ちをグッと堪えて。こっそりと食堂のドア付近にセーブポイントを設置する事にした。俺は掌を広げ小さな声でセーブポイント設置と呟くと地面からゲームでよく見た人の頭程度の大きさの青く光る球が昇ってきた。
なぜこっそりかって?それはこの能力については秘密にしておくつもりだからだ。これが俺の能力と知られると今後の異世界生活が困難になるだろうと言う事が予想されるからだ。
そんな事を考えていると、山田と草薙も部屋へと入って来た。食事の用意された机草薙が俺の横にあるセーブポイントにちらっと視線を送り前を見る。そして首を傾げ、すぐにもう一度セーブポイントへと視線を向ける。
「え? 何それ?」
草薙は横にいる俺にそう話しかける。俺はそれがセーブポイントである事は知っているが、ここは知らない振りを押し通す。
「知らねえよ。でもな、なんかここにカタカナでセーブポイントって書いてねえか?」
俺は球体の中心に書かれたセーブポイントと言う文字を指さしそう答えた。
「本当だ。ちょっと触ってみよかな。セーブポイントだから大丈夫だよな」
草薙がセーブポイントに手を触れると球体は機械的な音がなり響く。セーブポイント設置と言うスキルに秘められた謎の力など無く。ただ勇者にしか見えないだけで、光って音を出すだけだ。念の為に俺のスキルを全員に周知しておく。どこでもいいからセーブをして貰わないと俺のスキルで復活させた所で目覚める事がない事があるのかと不安になったからだ。
「何、何? それ面白そうだな俺もやるぞ」
何でもやりたがりの山田はすぐにセーブポイントに触れるが、適当に機械音を聞くと飽きて、飯を食うために席へと付く。
「香織も折角だしやってみれば?」
「うーん、蒼汰がそう言うなら……」
俺が自然にセーブをするように誘導すると、香織はセーブポイントに向かい恐る恐る手を伸ばす。少しだけセーブポイントに触れ機械音が鳴り響く。
「ほら、触ったよ。だからもうご飯いこ!」
香織は俺の手を引き豪華な料理の待つテーブルの方へと歩き出した。これで俺も目的は達成したんだそれで良いと思い香織についていく事にする。
「うっめ!なんだこれは」
俺達が食事を始めようとすると山田が鶏肉のような物をむさぼりながら、口々に料理を褒めたたえる。その姿を見て俺は食事へと手を伸ばすのであった。そして卵焼きの様なものを口に運ぶとやはり山田が言うように絶品の料理であった。そしてそのまま何事も無く美味い料理を頬張りながら朝食を終えたのである。