29話
気が付くと元の宿屋へとたどり着いていた。
さあ食べ損ねた飯がそこに……
「ない! 俺の豪華な料理が!」
転移させられる前に置かれていた豪華な食事は無くなっていた。悲しい気持ちでいっぱいになったが何か忘れてるような気が、
そしてすぐに転移後に起こる事を思い出す。そう、空からスロットが降ってくるのだ。このままでは宿屋は大きな風穴を開ける事になってしまう。
俺はびしょびしょに濡れたまま慌てて外へと飛び出した。
何も起こらない……間に合ったのだろうか? まだスロットマシーンは空中から落ちている事はなかった。
そして地面に影が現れる。俺は思わず上空を見上げてしまう。空から落ちてくるんだろうそう思って見上げていると、何故かスロットマシーンが地面から生えて来た。土埃が辺り一面に飛び散りとても目が開けられる様な状況ではない。
「なんでだよ! 上から落ちてくるんじゃねえのかよ」
俺は思わず一人で突っ込んでしまった。だがそんな余計な事をやってる場合ではない。早くやってしまわないと村人に不審に思われる恐れがある。さっさとレバーを引き、スロットマシーンを起動させる。回り出したドラムを眺めながらすぐにボタンを押してしまう。どうせ目押しなんて出来ないんださっさと済ませてしまおうとそう言う結論だ。
スロットはゆっくりと止まっていく。さぁどんなスキルが貰えるのかな? 少し楽しみしながら俺はじーっとリールを見つめ続ける。俺の心臓がバクバクと反応し始めた。ゆっくりと絵柄は変わっていき、スロットマシーンの動きは止まった。勿論ハズレだ。
そして止まった所に書かれたスキルは……
【巨乳鑑定:胸のサイズが分かる】
「いらねぇ! ただのセクハラじゃねえか! これを使って俺に何をしろと言うんだ……使うけど」
俺の叫びが村中に響き割ってしまい。家から人が何人も出てきてしまった。役目を終えたスロットマシーンはまるで人目にはつきたくないと言わんばかりに消え去っていった。
「おにいちゃーーん! どこいってたの、私心配したんだよ」
涙目のロゼが宿屋から飛び出してきて、俺に飛びついてきた。そしてポカポカと俺の事を殴り始める。所詮幼女の打撃なので痛みは全くなかったが、心は僅かばかり傷んでしまった。人間が目の前からいきなり消えたらそうなるだろう。どうする事も出来ない事とは言え申し訳無い気持ちになる。
「悪かったな。あれは俺の能力が暴走してしまったんだ」
「私びっくりしちゃったよ。目の前でいきなり消えてしまうんだから。あれから村中探したんだけど見つからなくて……ひっく、ひっく」
「おーよしよし」
そして俺の周りには村中の人間が集まっていた。皆一様に俺の帰還を喜んでくれているようだ。どうやら村人全員で俺の事を探してくれていたようだ。俺の姿を見て皆安堵の顔を浮かべている事から察しがついた。このまま、解散と言う訳にはいかないだろう……そして全員に声を掛ける。
「みなさん! ご心配おかけしてすみませんでした! すこし自分のスキルが暴走しただけなんで心配しないでください」
「蒼汰様が無事でなりよりですじゃ」
村長が俺の言葉に答えた。
「心配かけたな村長……」
「帰ってきて頂けた、それで我々は満足ですじゃ。さぁ皆の者解散じゃ」
「俺は少し疲れたから休むぜ。飯はまだ残ってるかな……」
なきじゃくるロゼをお姫様だっこで運びながら俺は宿屋へと戻る。それにしてもこの幼女、ヒロイン力高いな……この世界ではどうだか知らないが幼女に手を出すのは俺の中では犯罪だから興味はないがな!
そして俺はロゼを宿屋まで送り届けると、食事が無い事が分かりそのまま自分の部屋に戻りベットへと飛び込んだ。
そして俺はそのまま意識を失ってしまったのだった。それは当然である不眠不休で朝まで走り続けていたんだから……
それからどれだけの時間が経っただろうか? 窓から冷たい風が部屋の中へと流れ込んできているのを感じていた。外から聞こえてくる虫の声に俺は起こされてしまった。今までの疲れが出たんだろう体が上手く動かない。まるで体が石にでもなったようだ。
ふぅ、まあ仕方ないか……ここ最近少し無茶をし過ぎたかな。せっかくゆっくりする機会だ。しばらくこの村でのんびりとしていっても悪くは無いだろう。そんな事を考えていると俺の瞳は再び閉じてしまった。